十八本目 確かな一歩

「そう……そのまま……」


「頑張れ先輩っ!!」


 いつもの時間、いつもの場所。


 そこで、俺はブランとキイラに応援されていた。


 理由は簡単。


「――来い……白招来しろしょうらいっ!!」


 やっとまともなから。


「やった!」


「喜ぶのはまだ早いよキイラ君」


 ブランは、俺が確かに身体強化が出来たのを確認して、武器を構える。


「――いくよアルティ」


「あぁ……来い!!」


 ブランは、そのまま俺に向かって一直線に向かってくる。


「ッ……!!」


 そのスピードは、身体強化が施された俺の動体視力でも捕えきるのは難しい。


「はえぇよ……!」


 だが、これでも手加減をしている方なのだろう。


「いくよ」


「!?」


 俺は頭上から迫る斧槍を、剣で受ける。まるで巨大な岩石が丸ごと振ってきたような重量のある感覚に、俺は目を見開く。


 けれど——


———受けれる……!!


 前までの訓練では、俺は一回もブランの一撃を受け切ることが出来なかった。


 あまりの重さに、常人の筋力じゃガードも出来ないのだ。


 前までは、そんなブランに対応するために、力を受け流す技術を多用していたが……


———今のレベルなら……オークの一撃だって……!


 前の戦いでは、オークの攻撃を盾で受けることが出来なかった。――それはひとえに、オークの攻撃力に俺の筋力や人間としての強度が足りなかったから。


 だが、今の俺なら、あの攻撃を確実に盾で受け切れる!!


「ㇵァァ!!」


 俺はブランの斧槍をはじき返すと、果敢に斬り込む。


 そこから、一合、二合……斬り合いが繰り広げられて——


 数えきれないほどの斬り合いを経て、俺は態勢を崩し、地面に尻もちをついた。


「だぁ! 全然敵わねぇ!!」


「でも凄いですよ!! ブランさんとあんなに……!」


「バカ、ブランの奴も手加減してるに決まってるだろ!」


 地面に大の字になる俺ことオッサンに対して、ブランは汗一つ掻かず、俺の隣にしゃがみこんだ。


「でも、確かに強くなってた。――これ以上本物の武器でやると、ケガしそうだし……今度木剣でも買いに行こうか?」


「あぁ、だなぁ……」


 俺は身体を起こして、汗まみれの額を拭う。


「……」


 ブランはそんな俺の顔をジッと見て……


「ねぇ、アルティ……もう一戦しない?」


 そんな提案をしてきた。


「うん? ――キイラと俺の魔法訓練も、模擬戦も充分やったし……もう今日はこれくらいでいいんじゃないか?」


 陽は既に上って、チラホラと出歩く人間も増えてきた。――これ以上は迷惑になりかねないだろう。


「お願い」


 だが、ブランはジッと見て、訓練の続きを促す。


「ブラン……お前……」


 表情の薄い顔。――そんな彼女の瞳の奥には、微かに焦りが見えていた…………ような気がした。


「……わかった。お手柔らかに頼むぜ」


 そんなブランが気になったが……訓練すること自体は良いことだと思ったので、俺はキイラへ周囲の人間が武器を振り回している所に寄らないように見守りを頼んで……ブランとの訓練を続けた。



 ※ ※ ※



 『東の雑木林』でキメラが出た事件から


 俺は、ブランやキイラと三人パーティで、相変わらず『東の雑木林』の依頼クエストを受け続けていた。


 というのも、近頃、強力な魔物が色んな所に出るようになり——前回のようにヤバい奴がこの雑木林に出没することが多くなったのだ。


 新人冒険者の事故率を下げたり、強い魔物に追いやられたゴブリン共が、街道をゆく人を襲わないようにするために、ギルドから直々にお願いされてるのだ。


「なぁ、なんで俺の身体強化だけ、他の魔法みたいに詠唱と魔法名言わされてるんだ?」


 雑木林の中を歩き、周囲へ警戒をしつつ俺は、魔法に詳しい二人へ質問してみた。


「それは……まぁ……」


 そんな俺に何か言いにくそうなキイラ。


 反対に、ブランは俺の方を向きもせず理由を端的に述べた。


「魔法が下手だから」


「いやっ、まぁっ、事実ですがっ……!」


 何となく思っていたのと違う回答が返って来て、俺は事実を認めつつも頑張って、不服の声を上げた。


「あれですよ先輩、詠唱と魔法名を口にすることによって、身体強化の『想像力イメージ』を補強するためですよ! ――これなら、魔法の苦手な先輩でも魔法が発動しやすくなるでしょう?」


「……なるほど」


 キイラの必死のフォローで、俺は何とか納得することに成功する。


「……確かに身体強化を使う時、詠唱と魔法名を使う人は見たことないけど——」


「おい、キイラがせっかくフォローしてくれたんだから蒸し返すなっ!」


 ブランの言葉に俺がツッコミを入れると、それがおかしかったのか、ブランは『フフッ』と笑いながら、俺へ少し視線を向ける。


「でも大丈夫。――結果的に身体強化が発動してるんだから、何も問題ない。むしろ、これから、訓練相手である私の身体強化の倍率を上げて行けば、アルティの中での身体強化の『想像力イメージ』も強くなってくる」


「……そんなもんかねぇ?」


「そうだよ。――保証する」


 ブランの言葉に、隣で聞いていたキイラも『よかったですね先輩!』と笑顔を向けている。


 その時だった。


「――止まって」


 先頭を歩いていたブランの足が止まったのは。


「アイツは……」


「はっ……リベンジだコノヤロー」


 目の前に現れたのは二体のオークだった。


「私が一体受け持つから、アルティはもう一体をお願い」


「……怪我すんなよ?」


 ……オークを自分の技術向上の糧にしようとしているブラン。そんな彼女に俺は顔を引きつらせながらキイラに目を向ける。


「キイラ、ヤバくなったら魔法で援護頼む……」


「了解です!!」


『『ブルオオオォォォォォォオォォォォ!!』』


 こうして、俺達は再びオークをぶつかった。



———受け切れる!!


 オークの石製の大剣を盾で受け切り、大きく弾く。それだけでオークの胴体が大きく開く。


「ハッ!!」


 迷いなく、オークの左肩から右脇腹に掛けて一閃。――皮膚を両断し、大量の出血を強いる。


『ブルゥゥゥ!?』


 仰け反るオークを、俺は逃がしはしない。


「これで——終わりッ!!」


 よろけるオークの心臓に剣を突き立てると——剣を掴み、後ろを向いて剣を担ぐような態勢に移行。


 そのまま力を込めて――突き刺した剣を上方へ力を込めて、オークの左肩を切り裂いた。


『ブモォォォォォォォッ!!』


 確実な致命傷。――オークは抵抗することも出来ず、そのまま地面へ倒れた。


———あのオークを……長年苦しめられてきたコイツを……一人で……!!


 その瞬間、謎の達成感に包まれる。


「クッ……!」


 しかし、苦しそうなブランの声に我に返った。


「突き刺せ——雷槍ボルテクス!!」


 キイラの魔法——雷の槍がオークの肩に突き刺さり、感電したオークの動きが止まる。


「ㇵァッ!!」


 その隙に、ブランはオークを斬りつけるが……


———ブランのヤツ……身体強化使ってねぇな……


 明らかに傷が浅い。


 俺は、致命的な瞬間に駆けつけられるように、盾を構えて様子を伺う。


『ブルオオオオオッ!!』


 感電から復活したオークは、再び石器の大剣を振り下ろす。


「——」


 ブランはその軌道を落ち着いて見抜くと——


「……」


 斧槍の柄で受けた刃を滑らせて、斧の凹みに噛ませ、


「フッ……!!」


 遠心力を利用した振り回しで、石器の大剣を巻き取りオークの獲物を弾き飛ばした。


「ハッ!!」


 そのまま斧槍を引くと、ブランは一歩踏み込んでオークの心臓へ穂先を突き刺そうとする。


 刹那――


『オォォッ!!』


 オークの拳がブランに迫る。


「ッ!?」


「だァッ!!」


 生身で受ければ確実に死ぬ一撃。


 ――だから、オレはブランとオークの間に、盾を携えて割り込んだ。


「行けブラン!!」


「ッ……ㇵァァァッ!!」


 そうして、斧槍の先端がオークの心臓を突きさした。



 ※ ※ ※



「はい、こちらギルドから依頼クエスト達成報酬と、その他、魔物多数討伐の報酬です」


「おぉ……相変わらず慣れない重さだ……」


 お金の詰まった袋を受け取り、俺は戦々恐々とする。


 受付嬢はそんな俺を見ながら微笑む。


「ま~、うだつの上がらない頃のアルティさんと比べたら、怖い額ですよね~」


「君……俺のこと嫌い?」


「そんな~、むしろ好きなくらいですよ~? ――こんなに穏やかなおじさま、中々居ないですからぁ~」


「このドS受付嬢め……」


「セクハラです~?」


「嘘ですごめんなさい」


 どこまで行っても俺はうだつの上がらないオッサンのようだ。


 俺は後頭部を掻きながら、ブランとキイラの待つテーブルへ戻る。


「ほら、今日の報酬だ。――みんなで分けようぜ」


「わーい!!」


 そうして今日の報酬を分け終えた頃、



「――二人に話したいことがある」



 改まってブランが口を開いた。


「「……?」」


 キイラは注文した料理を口にほおばる直前で手を止め、俺は届いた酒を飲まずブランへ視線を送った。


「――私……しばらく、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る