〚干しの子〛ミ➰★

押見五六三

第1話 トップアイドルのスキャンダル

 羽根やスパンコールが煌めくド派手衣装を着た美少女が、鏡に映る自分を見つめながら意味ありげにニヤリと笑った。そして彼女は、ミニスカートからのぞかせる見事な美脚を、片足だけ椅子からそっと持ち上げる。するとその途端、後ろに居た男は何故か顔を歪めた。


「クッサッ! ちょっと、ホッシぃー! 今、おならしたでしょー?」


「ううん。私、天上から舞い降りたアイドルよん。おならなんて、地上に降臨してから一度もした事ないよん」


「嘘おっしゃい! あんた、さっきステージ上でも三回位してたでしょー? マイクに音入ってたわよッ!」


「正解は十回ね。あははははは――」


「お、おい! た、大変だぞ、ホシ!」


 ライブ後の楽屋でスタッフと談笑中だったトップアイドル〚一夜ひとよホシ〛の元に、猛獣にでも追われているかの勢いでマネージャーの栗原が大慌てでやって来た。手には何かが印刷されたコピー用紙を持っている。それには、彼女のアイドル生命を脅かす内容が……。


「どうしたの栗原? あっ! もしかして私が予想した天馬遊戯券(馬券)が当たった?」


「馬鹿! そんなグッドニュースじゃない! お前が過去に暴力事件を起こし、補導歴が有る事を『凡春』にすっぱ抜かれたんだ!」


「……ふーん。そっか。それは仕方ないね」


「それだけじゃない。全国の競馬場に現れてはギャンブルに明け暮れる姿や、毎日のように酔っぱらって潰れる姿を撮られたんだ。これが載ったらアイドルスターとしては致命的だぞ!」


「大丈夫よん。そんな小さなスキャンダルん。私の可愛さで吹き飛ばしてあげるん♪」


 取り囲むスタッフの心配をよそに、ホシは他人事のように微笑みながら次の仕事の準備を始めた。その後の事務所の対応会議も参加せず、余裕を見せるホシ。だが数日後、そのスキャンダルは予想以上に世間を騒がせ、結局ホシは謝罪会見をする羽目となる。その会見上でホシは所属事務所の社長が用意した謝罪文を無視し、鼻にかかった声で次のように述べた。


「ホッシぃーはね、昔、天上界でドクロン軍団と争った事があるのん。あの記事はぁー、その時のお話ん。あと、天馬との戯れは天使の息抜きよん。それに毎日飲んでるのは、天園泉から湧いた恋慕味のゴクゴクネクタルン。でぃやぁーん! 会見はこれでおしまーいん! バイはー!」


 これにより反省の色が見えないと、ネットは荒れに荒れて大炎上を起こす。SNSは誹謗中傷で溢れ返り、事務所はサイトの一時閉鎖を余儀なくされた。そしてトップアイドル一夜ホシは、業界から干される事と成って行く……。

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