第2話 酔っ払いの相手は面倒くさい
翌日。冒険者ギルドのある酒場では、昼間から乾杯の音頭が取られていた。
冒険者と酒場は切っても切り離せないものである。
昔から冒険者は酒好きな人が多いようで、酒場は彼らの情報交換の場になっていた。
なので冒険者に仕事を頼みたいときは酒場を訪ねるのが手っ取り早く、それをより効率的に仕組化したのがギルドだ。
その名残が今も残っていて、クエスト受付も酒場にある。
それはつまり、受付嬢は酔っ払いを間近に仕事をすることであり――
「つまりねベルちゃん……ヒック。奴を仕留めたのは俺なわけなのよ」
「へー、そうですか」
「なのにウチのリーダーときたら、ラストアタックは絶対自分だって譲らなくて。だから俺ァ……」
「そうなんですか大変ですね」
酔っぱらってダル絡みしてきた男をスルーして、私はギルドに届いた依頼書の束を確認していく。
彼はついさっき大型のクエストを終わらせてきたパーティーの一人だ。
高ランクの冒険者が多く所属しており、ギルドからも依頼人からも信頼が厚い。
「うう……なんかベルフィーネちゃん冷たくない? 最初のころはあんなに……ウッ」
「トイレはあちらですよ。ここで吐かないでくださいね。面倒くさいから」
……飲酒マナーについては信頼しかねるが。
やがて彼の仲間だろう人たちがやって来て酔っ払いを回収した。
ごめんね、という爽やかな笑顔を炸裂して華麗に去っていったのは、確かリーダーの男だ。
彼らのパーティーも、もともとは弱小冒険者の集まりだったという。
少しずつクエストを攻略してランクを上げ、今やウチの看板ともいえるほどの存在になった。
導いたのはリリネットさんだ。
「冒険者を生かすも殺すも受付次第――か」
昨日のリリネットさんの言葉が頭を離れない。
受付は冒険者に合わせてクエストを紹介していく。
その出来は実際に仕事をする冒険者次第だけど、上手に導けば、彼らの持っている才能を開花させる手伝いができる。
得意なことは何か、不得意なことは何か、それを補うために必要なことは何か、どうやって伸ばしていけばいいか。
受付はクエストの紹介を通じて冒険者たちの成長を促す。
「でも、私は……」
よくない気持ちがせり上がってくる。
だって私は――
「おういベルフィーネ。今日も来たぜ」
暗い気持ちに溺れそうになっていたとき、聞き覚えのある声で引き上げられた。
顔を上げると、目の前にはトールが立っている。
「…………。いらっしゃいませ、何かご用でしょうか?」
「いや、なにその間」
「またのお越しをお待ちしております」
「いやだから! すぐに帰そうとしないで!?」
やかましい男だ。
私は冒険者を募集しているクエストの中から、あまり難しくなさそうなのを探す。
いつも通り簡単なクエスト、畑の害獣退治くらいを紹介した。
「なあ、そのクエストなんだけどよ。もうちょっと難しいの任せてくれねーか?」
「自惚れですか?」
「辛辣! じゃなくて、そろそろランク上げたいんだよ。俺も有名になりたいんだよ」
「と、言われましても……」
今のトールのランクはE。AからEまであるランクのうち最下位だ。
あまり難しいクエストは紹介できない。死なれたりしたら嫌だし、依頼人も納得しないだろう。
残念だけど、最初に紹介した害獣退治を勧めようとして……
――冒険者を生かすも殺すも受付次第よ、ベルちゃん。
その手を止めた。
「……そっか。代わりにやってもらえばいいんだ」
「ん? どうした?」
「トール。そんなにランクを上げたいですか?」
「え……? いや、そりゃそうだけど。というかもっと先まで……」
「でしたら」
にやりと笑う。
彼がどこまで出来るかわからないけど、受付として出来ることをしよう。
だって、私はまだ――
「私が一流冒険者にしてあげます。付き合って下さいね?」
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