女子高生〈陰陽師広報〉安倍日月の神鬼狂乱~蝦夷の英雄阿弖流為と安倍晴明の子孫が挑むのは荒覇吐神?!猫島・多賀城・鹽竈神社、宮城各地で大暴れ、千三百年の時を超えた妖と神の物語
ひすいでん むう(翡翠殿夢宇)
第1話 照井陽翔 安倍日月に出会う
たくさんの生徒でにぎわう廊下。
一人歩く女生徒の頭には、白いデブ猫が乗っていた。
制服のリボンの色から、彼女が2年の先輩だとわかる。
彼女が歩くたびに長い黒髪が揺れるが、頭上の白猫はまるで王座に座るように悠然としていた。
「見つけた」
少女は目的を見つけたように、迷いのない足取りで俺に向かい近づいてきた。
*
仙台七北田高校の入学式が終わり、
教室での説明が一通り終わり、教室の扉を開けると、そこにはスポーツのユニフォームを身にまとった2~3年生たちが、右も左もわからない新入生を次々に勧誘している光景が広がっていた。
このクラスから一足先に教室を出た生徒も、すでに何人もの先輩に囲まれ、まるで捕獲されたかのように部室の方へと連れられていく。
岩手の小さな中学校から、この春に仙台へ越してきたばかりの陽翔にとって、この光景は衝撃だった。
中学校では部活に所属していなかったため、高校では何かの部活動はやってみたいと思っていたものの、これではゆっくり考える暇もない。
それに、自慢じゃないが自分は押しに弱いという自覚がある。陽キャな先輩に捕まったら、まず断ることは不可能だろう。
幸いなことに、勧誘は教室の外、廊下で行われている。このまま落ち着くまで教室に閉じこもっていれば何とかやり過ごすことができるかもしれない。
早く勧誘が落ち着かないかと、廊下の様子を眺めていた陽翔の目は、ふと一人の少女に釘付けになった。
周囲がスポーツユニフォームであふれる中、彼女は普通の制服姿だった。不思議と彼女の存在だけが陽翔の目にしっかりと写りこんできた。
この学校では、男子はネクタイ、女子はリボンの色で学年を区別する。陽翔たち1年生は若竹色、2年生は茜色、3年生は山吹色だ。
彼女のリボンは茜色、2年生であることを示していた。
整った顔立ちに、やや紫がかった長い黒髪。肩まで伸びる髪は輝きを放ち、前髪が斜めに流れて彼女の表情に影を落としている。
特に目を引いたのは、左サイドに編み込まれた4本の三つ編み。歩くたびに揺れるその先端には、それぞれ別の色をした星形の髪飾りが揺れている。
美少女であることは間違いがない。ちょっと顔が好みだったのも確かだ。
しかし、陽翔が目を離せなかった本当の理由は、彼女の頭の上にあった。
そこには、でっぷりとした白いトラネコが鎮座している。
いわゆる「デブ猫」というやつだ。丸々とした猫の体は明らかに彼女の顔よりも大きい。バランスを崩せば、彼女の細い首など簡単に折れてしまいそうだ。それでも、猫はのんびりと前足を舐めて顔を洗っている。
重くないのだろうか?
そんなことを考えていた陽翔だったが、次の瞬間、凍り付いた。
今まで細めていた猫の目が、急に見開き、まっすぐに陽翔を見据えたのだ。
白い綿穂のような尻尾をピンと立て、「な~ご」と低く響く声をあげる。
――え?
そのとき陽翔は気づいた。
美少女が頭にデブ猫を乗せて校内を歩いているという異様な光景に、誰一人として関心を示していない。
周囲の喧騒が途切れ、世界がモノクロに変わる。まるでこの世界に二人とデブ猫だけしかいなくなったかのような錯覚が陽翔の頭をよぎった。
彼女が学校で有名な変わり者なのかもしれない。だが、猫の存在感ある声が扉を閉めている教室中にまで響いたというのに、誰も振り向かない。
いや、むしろ誰一人として猫の声など聞こえていないようにさえ見えた。
「見つけた」
少女は小さくつぶやく。
そして、まっすぐ陽翔のほうへと歩み寄ってくる――。
躊躇なく教室の扉を開き、そのまま教室の中に入ってきた。もちろん教室の中には陽翔しかいない。
突然の出来事に、陽翔はその場で硬直したまま動くことができなかった。
「ねえ、あなた、不思議な出来事、超常現象に興味はない?」
頭に白い虎模様のデブ猫を乗せた少女が、直立のまま固まった陽翔に声をかけてきた。
ほのかにピンクがかった鼻先、ちょっと眠そうな目、自己主張の強い立派なヒゲ。
そう、目の前にあるのは少女ではなくデブ猫の顏だ。近くで見ると、その存在感が一層際立つ。
彼女の身長が陽翔より頭1つ分ほど小さい。180㎝に少し届かない陽翔の身長よりも20㎝以上は低いだろうか。
ここまで近くに来ても猫の獣臭さはなく、彼女のシャンプーのほのかな香りがだけが漂っている。
「聞こえてるわよね?」
そんなよこしまな思いを巡らせていた陽翔に、デブ猫の下から少女が見上げるようにして問いかける。
これ以上の無視は先輩に対して失礼だ。
「あ、はい……」 なんとかそれだけを絞り出す陽翔。
彼女は最初になんて言っていたっけ?不思議な出来事?まさに今、それを体験しているのだけれど……。
「私は2年の
名乗りながら、彼女はどんどん間合いを詰めてくる。近い近い!とくに猫の鼻が……。
「ねえ、君名前は?」
「
「陽翔君かぁ、うん、いい名前だね。安倍って苗字があまり好きじゃないから私のことは日月先輩って呼びなさい」
日月と名乗った少女はそう言って笑顔を浮かべた。
可愛らしい笑顔なのだが、なぜか圧迫感がすごい。気がつけば、陽翔は後ずさりながら、教室の壁際まで追い込まれていた。
頭に猫を乗せている時点で間違いなく、普通の生徒ではないだろう。この学校ってペット持ち込みが許可されているのだろうか?
それに『超常現象研究部』という部活名。いかにもオカルト系だ。もしかしたら新手の新興宗教かもしれない。猫教とか……
「お誘いはありがたいですが、今日はちょっと急ぎの用がありまして……」
正直、都市伝説や怪談話は嫌いではない。でも、それはあくまで趣味のレベルだ。部活として本気で調査したいなんて、そこまでの情熱はない。
今までに幽霊だって見たことがないのだ。自分には霊感なんてものはないと思っている。気が向いたときに、嘘かホントかわからない怪談動画を見るぐらいがちょうどいい。
陽翔は日本人らしい遠回りな言い方で、やんわりと断ろうとした。
「え、そうなの?じゃあ明日なら部室に来られるわよね?ひとまず話だけでも聞きに来て。悪いようにはしないからさ!」
押しの強い笑顔で詰め寄る日月。かわいい笑顔に、思わず宗教でもいいから入部してしまおうかという衝動に駆られるが、ギリギリのところで何とか思いとどまる。
「あ、はい、気が向いたら……検討しておきます……」
曖昧な返事を返し、その場を立ち去ろうとする陽翔。だが、その腕を日月がつかんだ。
「わかったわ。それじゃ、これを持っていて。明日、部室に来たときに返してくれればいいから。」
そう言うと、彼女は自分の三つ編みから青い星形の髪飾りを外し、陽翔に手渡した。しれっと明日行く約束になっているが、状況についていけていない陽翔は気づいていない。
手の中の髪飾りは一筆書きの五角形をした星型のようなデザインで、青い石のような素材でできていた。
光の加減なのか規則的に光沢の色が変化する見るからに高価そうな品だ。なくしてしまったりしたら大変そうだ。
彼女の髪にはまだ、同じデザインで赤と黄色の髪飾りが光っていた。
陽翔としても、「検討しておく」なんて、悪い政治家の言い訳と同じで「行かない」と同義のつもりで答えていたのだが、その行動は日月によって阻止されていた。
「ちゃんと持っていてね。なくしたらダメだよ」
突き返そうと視線を手のひらから視線を戻すが、すでにそこに日月の姿はなかった。
「きっと君は来ることになると思うよ、待ってるね」いつの間に出たのか、教室の外から日月の声が聞こえた。
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読者皆様
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
白虎デブ猫の正体が気になる方、
『作者フォロー』『★★★』で応援お願いします(≧▽≦)ノノ
*掲載予定
約10万字、約30話予定。毎日20時ころ更新中。
原稿ほぼ完結済み、あなたの応援が最後まで書ききる活力になります!
よろしくお願いします(*´▽`*)
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