第4話

「うん、これで全部」


「お嬢、荷造り終わりましたか」


振り返ると、南雲がいつもの落ち着いた表情で立っていた。


「あっ、南雲なぐも!今終わったよ。南雲見て見て~、ダンボールめっちゃ多くなっちゃった」


にへっと笑う。

…これは、荷解きが地獄になるやつだ。



「お嬢、ここの"ぬいぐるみの山"はどこへ行ったんです?」


南雲が積み上がったダンボールを見ながら眉をひそめる。


「げ…」


ぬ、ぬいぐるみ?

な、なんことかなぁ~…?


「"げ "とはなんです。まさか、このダンボールのほとんどが…ぬいぐるみではありませんよね? 」


首を傾げた南雲の茶髪がふわりと揺れる


「え、えーっと…どこだろうねぇ~?」


南雲からしれっと目をそらす


「はぁ…惚けても無駄ですよ。どうせお嬢のことです、絶対持っていくと思ってましたした。ほら、こんなに要りませんよね?」


南雲はため息をつきながら、いくつかの箱を開ける。

中から、ぎっしりとぬいぐるみが顔を出した。



「わ、わわわっ!?な、南雲!持って行ったらダメ!?ダメなのー!?」


「ダメです。どうせ向こうでも買うでしょうし、新居がぬいぐるみで埋まりますよ」


「ええーー、でも……!」


「"でも"じゃありません。………そもそも、勇さんに"荷物は少なく"と言われたはずでしょう」


「けちだよね、おじいちゃん」


むぅ~と膨れながら南雲へ愚痴をこぼす。


「お嬢。勇さんは、引っ越すことが外にバレないよう────」


「知ってる」


南雲は微かに目を見開いて私を見た



分かってる。

おじいちゃんの気持ちも、理由も

全部とはいかないけど、ちゃんと知ってる。


でも、反抗したくて…

ダンボールの山はせめてもの抵抗だった。




────だって。

私が"残りたい"って言っても、誰も残らせてくれないから。



「…お嬢、勇さんは、お嬢のことを思って」


慰めてもらうほど、私は弱くない。

ただ、家族みんなと同じ場所にいたいだけ。


1人だけ安全なところで過ごすなんて、それじゃただの"カワイイお姫様"じゃないか。


「南雲。私は、みんなと戦いたいの」


そういった私に、南雲はふっと優しい目を向けた。


「お嬢…。あなたは本当に皆が大切なんですね」


「当たり前だよ」



ふわりと、南雲の手が私の頭にのる。

おじいちゃんの手とは違い、南雲はそっと、優しく撫でる。



「お嬢。本当に大きくなりましたね」


「南雲は歳をとったね」


南雲といる時間はいつだって心地が良い。

この人より、私を甘やかすことにおいて右に出るものは居ないだろう。



「さあ、お嬢。そろそろ行きましょう」



「うん」

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