第3話

紬希つむぎ、明日から一人暮らしをしなさい」



静けさに包まれた日本庭園の家で、

祖父───九十九つくも いさむが、いつもの穏やかな声でそう告げた。


あまりにも突然だった。


だけど、この人の言葉には逆らえない

逆らえない理由は、私はよく知っている




「…おじいちゃん、分かったよ」



本当は聞きたかった

私が足でまといだから?

女だから?

諦めきれないから───?



喉まで込み上げてきた疑問を、必死に飲み込む。




「紬希、そんな顔をするんじゃない。じいちゃんは、お前に幸せになって欲しいだけた」


私の心の揺れを読んだかのように、祖父はそう言った


間違ってる言葉ではない

でも私は知ってる。

おじいちゃんが、“ ”がそれだけで決断する人じゃないってことも。







────私が"オンナ"だから。


それ以上考えてたら泣いてしまいそうだった。












「紬希向こうでは絶対に無理をするな」


おじいちゃんは、先ほどよりもずっと真剣な目を向けてそう言った。


「…うん、わかった」


「紬希元気に過ごすんだぞ」


「おじいちゃんもね」


大きくて、ゴツゴツした手が、乱暴に──でも優しく、私の頭を撫でた。



その仕草は昔と少しも変わらなくて、私は思わず涙を堪えるために、ぎゅっと唇をかんだ。


おじいちゃんは優しい目のまま、静かに私を送り出した。

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