第3話 ぬい活
「そ……そうなんです!」
神社で大声をあげる馬鹿がいた。
残念ながら、私だ。
「お、起きたらコウくん喋るし動くし食べるしで、もう意味分かんなくて! でも可愛くて! さっきまで逆に落ち着いてたんですけど、今あなたに看破されてテンション上がってるっていうか。え? あなたのぬいぐるみさんも喋るんですか!?」
「あ……気持ちは分かりますけど、落ち着いて下さい。ここだとアレなので、場所を移しましょうか」
そんな馬鹿とは対照的に、冷静な判断ができている女子高生。
「は、はい」
私の方がずっと歳上のはずなのに。
恥ずかしい。こんなんだから社会に馴染めないのだ。
「近くによく行くカフェがあるから、そこでゆっくり話しましょう」
行きつけのカフェがあるのか。
格好いいなぁ。
ちなみに私の行きつけのお店は、本屋さんとコンビニ、後はゲーセンくらいしかない。
ぬいぐるみという共通点はあっても、この人は私よりも人生が巧そうだ。
「歩いて5分くらいなので、すぐに着きますよ」
「は、はい。お気遣い、ありがとうございます」
私は彼女に着いていく。
歳なんか関係ない。
自分より優れている人には、敬意を払うべきだ。
\
案内されたカフェは、ザ・女の子! みたいなお店だった。
お客さんも店員さんも女の子ばかりで、内観は白とピンクを基調とした空間。
メニュー表を開くと、パンケーキが人気らしいことが分かる。
ホイップクリームと苺でクマさんやウサちゃん、ニャンコやワンコが描かれているらしい。
もちろん私は、コウくん推しなのでクマさんを選んだ。
注文して、10分も経たないウチに運ばれてくる。
「か、可愛い……」
これを作った人は天才だ。
この可愛さがみんなに共有されれば、イジメとか悲しいことは無くなるんじゃないだろうか。
「気に入ってくれて良かった。せっかくなので、その子と一緒に写真を撮ったらどうです?」
「え。でも、店員さんの許可を頂かなきゃいけないし……」
どんなお店でも、店員さんに話しかけるのは勇気がいる。中には当たりのキツい人もいるし。
さらに、無視された日なんかには2時間は落ち込む?
「大丈夫ですよ。このお店、ぬい活を応援してますから」
「ぬい活?」
「推しのぬいぐるみと一緒に色んなことを楽しむ活動です。ほら、周りを見て下さい」
言われた通りにする。
みんな、可愛らしいぬいぐるみとスイーツをセットにして写真を撮りまくっている。
楽しそう……。
「ここには、私達を馬鹿にする人はいませんよ」
女子高生さんは、優しい口調で言う。
そっか……。
社会全体が私の敵だと思い込んでいたけど、そうじゃない場所もあるのか。
緊張して力が入っていた身体が、少し緩む。
「じゃ、じゃあ、1枚だけ撮ってみようかな」
ゆっくりと頷く女子高生さん。
小さくなったコウくんは、パンケーキの半分ほどの大きさで、もしこの子が全部食べるとしたらお腹いっぱいになるだろうなと想像して和む。
パシャリ。
私はSNSもやっていないので、写真機能を使うのは久しぶりだった。
だから、ちゃんと撮れているか自信が無い。
最高の被写体であるコウくんとパンケーキ。
これでブレブレだったらコウくんにも、素敵なパンケーキを作ってくれた人達にも失礼すぎる……!
恐る恐る、写真の出来を確認する。
……うん。普通。
可もなく不可もなく。
「お。可愛いじゃないですか」
微妙な顔をしていた私だったが、向かいの女子高生さんが明るい声で褒めてくれる。
「なんか、愛を感じますよ」
愛。
成長するにつれて、恥ずかしくて使えなくなる言葉ランキング堂々の1位の愛。
高校生なんて、そのど真ん中にいるだろうに、この人は普通に使いこなせている。
「パンケーキも食べてみて下さいな」
甘いものは大好きだけど、引きこもりになってからは自分には贅沢をする資格は無いと思って、できるだけ質素な生活を心がけてきた。
でも、女子高生さんが薦めてくれてるんだから良いよね。
「はい」
ホイップクリームをたっぷりつけて頂く。
「……ッ」
美味しい!
2ヶ月ぶりの甘味、メチャクチャ美味しい!
「ウゥ……」
口が幸せすぎて涙が溢れてきた。
「え!? 大丈夫ですか? 甘いもの苦手でした?」
席を立ち、私の肩をポンポンしてくれる女子高生さん。
「い、いえ。こんな美味しいものを食べたの久しぶりで……」
「あ。嬉し涙……。なら良かったです」
笑顔を見せてくれる。
普通、こんなキモいところを見たらドン引きするだろうに。
この人、優しい。
前の職場のおじさん達とは大違い。
「じゃあ、ぬい活しようかな」
女子高生さんがバッグから出したぬいぐるみは、可愛い白いワンコのぬいぐるみだった。
サイズは、小さくなったコウくんと同じくらい。
「この子はみーくん。私のパートナー。お姉さんのコウくんと同じ、意思が芽生えたぬいですよ」
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