#6 : 儀式魔法
おお、ここが新しくできたショッピングセンターか!結構大きくていいな!色々ありそう!
中に入ってみるとそれはそれは人が行き交っていた。というかショッピングセンターと言う割にはモールに近い感じがするんだけど…気のせいか。
……とりあえずフロアマップを探すか。
「あ、多分これだな」
フロアマップは映像で映し出されていて、なんと立体型だった。ズームすることもできて見やすいしこれは最先端。流石無駄に高い日本の技術力だな。
どれどれ、なるほど…。フロアは3つあって、1階がニ〇リとユ〇クロ、ダ〇ソーと家具とか衣類に100円ショップが並ぶショッピングフロア。2階がガ〇トにサ〇ゼ、ス〇ロー等の人気チェーン店が並ぶフードコートフロア。3階が映画館やキッズステーション、ゲームセンター等が並ぶプレイランドフロアとなっているらしい。
俺が今から行くのはショッピングフロアで、儀式魔法の素材を購入しにいく。儀式魔法というと珍しい素材をなんか色々どうこうして難しい呪文を唱えるイメージが強いと思うが、実はそんなに難しいことはない。材料自体は普通にどこでも売ってるしなんなら手軽に買える代物だ。それに難しい呪文なんて唱える必要はない、なぜなら魔力さえあれば呪文を唱える工程ごと端折れるからだ。
「さて、行きますかー」
素材を揃えるついでに面白いものがあるといいな。
「そこのお兄さん、ちょっと待って!そんな服よりもこの服凄く似合うと思いますよ!」
「いやいや、そんな古臭い服よりもこれ!お兄さんには最近のトレンドが一番似合いますよ!」
「あなたたち、まだまだね!トレンドなんて直ぐに過ぎ去るものよ、時代はオシャレで長く着られる服よ!」
「お兄さん!」
「お兄さん!」
「お兄さん!」
「「「お兄さん!」」」
「あはは…失礼しますー」
俺は若干引きながら、会釈をしてそのまま通り過ぎる。後ろから3人同時にズッコケるような音が聞こえてきた気がしたが、きっと気のせいだ。
さっきのお店の店員さんに関わらず、どうしてか周囲の俺を見る視線が痛い。普段は気配を薄くして、なんなら存在ごと忘れ去られるくらいの存在感の薄さを発揮しているせいで、こういった好奇の目線に慣れていないのだ。
なんだ?今の俺がイケメンだからか?顔がいいからなのか??先程から店の前を歩く度、何かしらオススメされているようでならないんだが?イケメンサービスか?悔しいからフツメンサービスも実装してくれない?は、無理?やっぱ世の中、顔と金ってことか?マジでクソだな!!(←一体こいつは誰に憎しみ抱いてるんだ…?)
「はぁ〜、やっと辿り着いた」
通る店全てに接客を受けた俺は、若干やつれながら目的地に到着した。人混みも凄かったので余計疲れた。材料だけ買ったらフードコートフロアで何かしら食べて帰ろうかな。
「さて、切り替えるぞ」
儀式魔法に必要な
一つ目、シロツメクサ、一般的にクローバーと呼ばれるやつ。まぁ、これに関しちゃあ売ってるというよりそこにあるというか、ここに来る道中で見つけたのでもう入手済みだ。
二つ目、お酒。流石に未成年では買えないので身体を大人に作り替えたらいけた。得意魔法なだけあって完璧な魔法の仕上がり。ん?非合法だって?いやいや、身体はちゃんと大人なんだから余裕で合法だわ、何言ってんの?
三つ目、日本人形。実はこれかなり探してようやく(主に中古品を売ってるお店で)見つかった代物だった。もちろんこれも儀式魔法で傀儡として使うつもりだ。ぬいぐるみというよりかはこういう年季の入った人形等を使うと上手くいく、らしい。らしいというのは俺自身あんまり信じてないから。まぁ、俺はこの情報を信じていないだけであって、教えてくれた師匠のことは信じているので無問題だろう、多分。
◇ ◇ ◇ ◇
「よし材料は揃った」
早速フードコートフロアで何か食べて帰ろう。さっきから視線がうるさいし。お腹すいたし、早く帰りたい。フードコートフロアは2階なのでエスカレーターに乗って移動する。
2階にあがると一気に美味しそうないい匂いが溢れる。おお、これは期待できそうだ。内心ウキウキとさせながらとある有名なあのイタリアンレストランで、ナポリタン、コンスープ、エスカルゴを頼み腹を満たした。
「さて、ここにもう用はないしさっさと帰って儀式魔法の準備でも……あれ?」
フードコートフロアを行ったり来たりと彷徨いて涙目を浮かべる見るからに迷子そうな少年が一人。そうな、じゃなくて絶対迷子だろあの子。
「大丈夫か少年、迷子か?」
「…お兄さんは誰?」
「誰と言われてもな……どこからどうみても夏休みにぼっちでショッピングセンターに来ている普通の男子高校生としか言えんが…」
言ってて悲しくなるなこれ…
「お兄さんも1人なの?」
「まぁ、そうだな。いや俺よりも自分の心配をしたらどうだ?お母さんとお父さんはどうした?」
「はぐれちゃった…」
まぁ、そうだろうなとは思ったけど。
しかしどうすっかな、迷子センターはマップ見た限りだとここから1階に降りて真っ直ぐ向かって右に曲がったところにある。しかし道を教えたとて多分小学生にもなっていない子供が一人で辿り着けるとは到底思えないんだが。
「そうか、迷子センターの場所は知っているか?」
「分からない」
「じゃあ教えてやるからついてこられるか?俺が嫌だったらそこらにいる定員さんに話しかけることをオススメするが」
「お兄さんについていく」
「そうか、昼時も相まって人がかなり混んでいるから離れるなよ」
「はーい」
しかしまだ読み書きも出来ない年齢であろうに随分と返事がはっきりしてんだな。最近の子供って皆こうなのか?俺には前世の記憶があるから区別がつかん。ちなみに幼少期から天才肌の双葉は例外だ。そもそも比べるのが間違ってるくらいだからな。
「大丈夫かな…」
ふと隣から微かに不安の声が聞こえた。
「大丈夫だろ、向かってる道中で会えるかもしれんしな」
実際、少年が見つかった辺りはエスカレーターがある。多分1階で両親と買い物してる時にこの少年はいい匂いにつられて2階に来てしまいはぐれてしまったのだろう。まだ子供だから歩いた距離はそこまででもないだろうし少年の両親はきちんとそれを理解しているはずだ。
と、今の俺にできるのはこいつの不安を取り除くことだけだ。
───結論的に言えば彼の両親はすぐに見つかった。
俺の推測通り少年のはぐれた場所からほど近い場所で少年を探していたので、本当によかった。
少年は泣いてお母さんらしき人に抱きついていた。感動…はしていない。会って数分の人間に何を感情移入すればいいのだろうか。そんないささか無粋なことをポケーっと考えてたら少年に名前を呼ばれてドキッとした。その後笑って誤魔化した。
少年からは泣きながら笑って感謝されたし、両親はペコペコを頭を下げてお礼にとドーナツを渡された。ドーナツは俺の好物の一つだ。とても嬉しい。やっぱり人には親切にするものだね、と改めてそう思った。
ドーナツは飲食OKの休憩スペースで食べることにした。なぜなら帰ったらお菓子好きの黒猫によって食い尽くされてしまうからである。
袋の中身であるドーナツはポンデリングにオールドファッション、エンゼルフレンチ、チョロスの4つ。あのご家族分かってる。王道中の王道とオマケのチョロス。完璧だ。もちろん味は文句のつけようがないくらい美味い当然だ。ドーナツが嫌いな人はこの世に存在しないと思うね。
せっかくだからこの袋は取っておこう。期間限定でゲームキャラがポンデリングの中に印刷された袋だからな。
さて目当ての物は買えたし美味いものくったしいいことあったし今度こそは帰ろうか。そう思ったのもつかの間、俺は得体の知れない気配がこのショッピングセンターに凄まじい勢いで近づいてきていることに瞬時に気がつく。
──ドカぁぁぁん!?!?!?
「ッ──!?」
近くで爆発が起こったかのような爆音がショッピングセンターに響き渡る。咄嗟に天井を向くとそこには赤色の巨人が天井を突き破って1階に落っこちていた。このままじゃ潰されてしまうと判断した俺はすぐさま行動に移し、迷うことなく回避を選択する。そして念の為取っておいた先程もらったドーナツの袋を
………いやとうとう頭おかしくなったわけじゃないぞ?とうとうって表現はおかしかったけど……。まぁ、念の為だ念の為。多分あれば妖魔だと思うし完全に魔法少女案件だ。深く関わってもいいことない。
目の前の妖魔をじっくりと観察する。赤色の肌に屈強な身体。刀身が光る巨大なタガーを担ぎあげる姿はまるで童話に出てくる鬼のようだった。しかし童話に出てくるようなデフォルメされた鬼では到底似ても似つかないくらい恐ろしいものが目の前にはいる。リアルで見るとすげー怖いんだな鬼って、俺はそう思いましたはい。
後ろからは得体の知れない恐怖に苛まれ混乱した一般人の皆様が悲鳴をあげながら逃げようと必死で妖魔から距離を取ろうとしている。彼らは幸運だった。怪物のヘイトは全く別の違う方向に向いていたから。そう残念ながらそのヘイトは俺に向かっている。
──グルウ"ゥゥ…
鬼は唸るように殺気を込めた眼差しで俺を睨んでくる。心做しか腕を振り上げてるように見えるんですけどこれって気の所為じゃないよねー?!
「あちゃー、こりゃ完全に目をつけられましたねーやばいねー逃げなきゃ!!??」
俺は横に飛び込んで鬼の攻撃を避ける。後ろから直に衝撃が伝わってくる。思わず振り返ると──
「…うわー」
──地面がクレーターを作っていた。
このショッピングセンター、できたばかりなのに可哀想。
「とりあえず逃げましょかね」
俺はなりふり構わず駆け出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「妖魔を投入したぞ」
「ご苦労さま、さてあとは魔法少女を迎え撃つだけかねぇ」
「今回の
「そうねぇ」
彼らの目的とは、被害が大きくなりそうな場所に妖魔を送ること。妖魔はあくまでも餌。彼らの目的を達成する一つの方法というだけだ。
「ところで、最近我らが宿敵、浮浪が現れたらしいな」
「そうねぇ、"見つけ次第殺さずに様子を見ろ"なんて嫌になっちゃうわ」
「全くだ。見つけ次第殺しにかかった方が早い」
「考えが蛮族のそれだけれども重ね重ね同意だねぇ」
彼らは実際に浮浪に会ったことは無いが、組織が敵だと判断すれば彼らは己の敵だと認識する。
「しかし厳命されれば致し方なし」
しかし彼らは組織の番犬、であるからして主人の命令は絶対なのだ。
「そろそろ魔法少女が動き出す頃合かねぇ」
女は舌なめずりをする。
「さぁて、清掃の時間だよ」
◈ ◈ ◈ ◈
──ドコォン!
「うわっ」
──ボカァン!
「よっ、と」
──バガボコーン!!
「危ねぇ!?」
俺は怪人の攻撃を交わしながら裏の出口へ向かっていた。理由はちゃんとあって裏の出口はあまり駐車場人気が少ないからだ。少ないということは人もあまりいない。厄介事に巻き込まれたくもないがそれと同じくらい誰かを巻き込みたくもないので裏の出口に急いだ。
「俺が変身出来れば早いんだが…」
今の状況で、んなこと言ってられないのは分かる。しかし言いたくもなるだろう。魔法少女が来るまでおそらくもうそんなに時間はかからないとは思うんだが、前世の体になったとはいえ身体強度は普通の人間止まり。とても脆く弱いのだ。あの怪物の攻撃を1度でも喰らえば死体すら残らないだろう。
「出口が見えてきた!」
出口までいけばあとは箒君を呼んで逃げ出せる…!
……あれ?そういえば鬼の攻撃が来てないような…
俺は嫌な予感がして振り返る。
「は?」
それは残酷なことについ最近聞き覚えのある声で──悲鳴が聞こえた。
「(あればさっき助けた親子!!?)」
先程の迷子の少年とその両親は逃げ遅れたのか、はたまた車を停めていた駐車場が裏の出口方面で俺が連れてきてしまったのが災いとなり、鬼は一向に捕まらない俺を諦めて次の獲物に目をつけたらしく先程の親子に向かって理不尽の刃を突き立てようとしていた。
両親は子を守ろうとして覆いかぶさっている。見た限りだと気絶しているようだ。ただ状況把握が追いついていない少年だけがぽかんとした顔で鬼を見つめている。
「まずいっ?!」
俺は気づけば飛び出していた。距離は遠かったのに何故か追いつけていた。こんな時ばかり足が早くてうんざりする。
──直後、強烈な激痛が俺の身体を貫いた。ロズがこの前貫いた痛みの比ではない。
「グッ…」
口からどうしようもないほど血が溢れる。
分かっていた。理解していた。飛び出して、彼らを庇えば、俺がただでは済まないということを。でも本能が俺をつき動かした。本当は見捨てればよかったのに、つくづく俺は魔女に向いていないんだなと思い知らされる。
「お兄…さん…?」
少年の顔が見える。その目には当然──
「だ、大丈夫…なの…?」
少年は震える声で問う。俺は不敵な笑みを浮かべ(袋で見えないけど)少年に言った。
「言ったろ?大丈夫だ」
……今の俺にできるのはこいつの不安を取り除くことだけ、と言いたいところだが。このままじゃ普通に俺が成仏しちまう。
鬼は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。なんだろうムカつくな。まだ
俺はこれまで、はなみはなさず持っていた買い物袋をぶちまけた。
「ぶっつけ本番だがいけるだろ、なんてったって儀式魔法は俺の得意中の得意分野だ!!」
──瞬間、俺の周りに魔法陣が広がる。
鬼は本能で良くないことが起こると察知しすぐさま俺の身体ならタガーを引き抜く。身体から引き抜いたことによって、激痛と共に大量の血が溢れるが堪える。出血多量で意識が遠のくが無理やり覚醒させ、踏ん張る。
「実は困ってたんだよな、
想定していなかったことだが、予期せずこうして準備が整った。さて、改めて俺の晴れ舞台といこう。
「名乗ろうか──俺の名は【浮浪の魔法使い】グラン!厄災にして最古たる魔法の祖であり、定命たるもの達を守る
──そして運命は動き出す!
──ロズ視点──
「────っておい!トア居ねぇじゃねぇか!?」
────────────────────
はーいどうも朝露です。
前回からだいぶ期間が空きましたが何とかかけました!
ところで皆さんはドーナツで言うと何が好きですか?
私?私はエンゼルフレンチです!
人間完璧な妹を影から見守る魔法使いの兄 朝露颯 @asaro
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