散策

「……え?」

俺はその言葉に絶句する。だって、そんな訳が無い。日本は2つの国に分かれてるはずだ。

「いやいや、そんな訳――」

俺はそう言いかけたが、言い終わる前に口が止まった。よく考えてみたら、新潟にいたのに急に東京にいるなんて普通に考えてありえない事だ。そんなあり得ない事がすでに起きてるんだから別の世界線に来てしまってもおかしくは無いかもしれない。

「いや、やっぱり何でもないです……」

「本当に大丈夫ですか……?熱とかありませんか?」

彩は俺の額を触ろうとし、俺は反射的にその手を避けてしまう。

「あ、そうだ。今って何年ですか?」

俺はあることを思いつき、今の年を訊く。もしここが本当に俺の住んでいる世界と違うなら、歴史も違うから元号も違うはずだ。

「2027年ですけど……」

彩は怪訝な表情をする。

「西暦じゃなくて、元号で何年ですか?」

「令和9年です」

令和……?やはり俺の世界の元号と違う。俺の世界の元号は関久29年だ。

「昭和は何年まで続きましたか?」

「昭和64年、西暦だと1989年までです」

俺の世界では昭和は72年まで続いた。その後関久になり、2027年まで29年続いている。俺は確信する。この世界は俺の住んでいる世界とは違う別の世界だと。なら、なぜ俺はその世界に来てしまったのだろうか。もしかして、北日本との国境のすぐ近くにあった樹木の穴が別の世界への入り口なのでは?……まあ、難しいことを考えるのはやめて、少しこの世界を見てみるか。

「あの、少しこの世界を案内してくれませんか?」

俺はこの世界を少し見物してみようと思い、彩にそう訊いてみる。

「この世界?」

あ、やべ。

「あ、えーと、東京を見物してみたいと思ったので、案内してくれませんか?」

「え?まあ、いいですけど……休んだほうが良いんじゃないですか?」

彩は訝しげに言う。ヤバい、怪しまれてるのだろうか。

「もう十分休んだので大丈夫です。さあ、早く行きましょう」

俺はこれ以上怪しまれる前に場を仕切り、玄関へ向う。彩は相変わらず怪訝な表情で俺のことを見ていた。


「どこに行ってみたいですか?」

あの後、俺たちは白山通りという大通りを歩いていた。東京に来ること自体が初めてだったので、たくさんの車やたくさんの人が新鮮に感じた。

「東京駅とかに行きたいです」

「じゃあ、10分くらい歩くと巣鴨駅に着くので、そこから山手線に乗りましょう」

彩の言った通り、10分ほど歩くと5階建ての「atre」と書かれた駅ビルと、巣鴨駅と書かれた建物に着いた。

「JR……?」

白い文字の巣鴨駅の隣にはアルファベットのJとRが合体した文字が書かれていて、その下には緑の文字でJR東日本と書かれていた。

「あの、JRって何ですか?」

「え?知らないんですか?JRっていうのは鉄道会社のことです。あまり詳しくないですけど、昔あった国鉄を民間の会社にしたものらしいです」

なるほど、この世界では国鉄が民間の会社になってるんだな。俺の世界では昔から今までずっと国鉄だったから、違和感があるな。俺たちは駅の中に入り、改札でチケットを買う。チケットを買うときに彩が取り出したこの世界の千円札を見て、俺はまた彩に色々訊いた。

「間違ってたら申し訳ないんですけど……もしかして記憶喪失ですか?」

彩は財布をかばんにしまい、心配した顔で俺の目を見る。やっぱり怪しまれていたようだ。

「いや、まあ、記憶喪失ではないですね。はい」

俺は話をはぐらかす。本当のことを言うべきか迷ったが、やっぱり言わないことにした。俺はチケットを、彩はICカードを改札にタッチし、ホームへ行った。ホームに着いてから2分くらいすると、黄緑と銀色のデザインの電車が風を起こして入線し、俺の服と髪を揺らした。これがこの世界の山手線か。俺の世界でもテレビで山手線を見たことがあるが、俺の世界の山手線は色がなく車体全体が銀色だから、こっちの世界の方が良いな。俺はそんなことを思いながら、人混みに紛れて電車に乗った。

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