第7話 二、三、四階層

"宝箱を見つけた。妖刀叢雲を手に入れた"


「ふぁっ!?」


あれ、あれあれあれ〜?


驚きつつも、俺は宝箱から叢雲を取り出し、鞘からゆっくりと引き抜く。


薄紫の刃文が鈍く光り、ぞくりと背筋が震えた。


自分の口がニマーっと薄く開き、口角が上がるのが分かった。


ヒヒヒヒ。


俺はピシャンと刀を鞘に納め、腰に備え付ける。

アイテムボックスから木の杖を取り出し、ポイッとその辺に投げ捨てた。


もう、いらん。こんなもん。


"木の杖を使って前方のタイルを調べた"


おっ……目の前のタイルが落とし穴に変化した。


なるほど、理屈は分からんが、武器は放り投げることで罠のチェックができるらしい。

試しにステータスを確認するが、特に変化はない。MPも消費していないようだ。


……まあ、そんなことはどうでもいい。


叢雲さえあれば、すべての敵は一刀両断だ。


俺は再び柄に手をかけ、刀を引き抜く。


「叢雲の錆にしてやる……!」


ズンズンと扉に向かって進む。

落とし穴に落ちようが大してダメージはないと分かったので、無視だ。


"スライムがあらわれた!"


「ふっ」


瞬く間にスライムを無数のさいの目状に切り刻んだ。

ゲル状の身体が飛び散る。


"プレイヤーは239のダメージを与えた"

"勝利した!経験値を10得た"


息を整え、鞘に刀を納める。


面倒だ。

いのっちまで一直線に駆け抜ける。


ザンビー王の話では、いのっちは五階層にいるらしい。



---


『妙な攻撃魔法やエクスヒールで回復も使う。極めつけは肉弾戦もこなすと聞いている。隙が少ないが、お主なら力で圧倒できるはずだ』


---


……力でゴリ押しねぇ。


確かに叢雲があれば、気がついた時には頭と身体が泣き別れだろう。


だが、一つ気になることがある。


五階層に到達し、いのっちと戦った者はどうやって生還したのか?



---


『帰還した兵士たちも気がついたら塔の外にいた……としか、報告を受けておらんのだ』


---


ザンビー王のことだ。何か隠しているに違いない。


生きて帰ったら、ただじゃおかん。


そう心に決め、俺は叢雲の柄に手をかけた。


そこからの記憶は朧げだ。


叢雲を手にする際は、心を穏やかに、自制心を持って扱わなければならない。

乱れた心で柄を握れば、殺害衝動に駆られ、意識を乗っ取られてしまう。


覚えているのは──


ゴブリンの首を刎ね、オークを袈裟斬りにし、ゴーストを滅殺し、ドラゴンを唐竹割りにしたこと。


そして、上層階へと猪突猛進したこと。


ドアを蹴破り、鍵をこじ開け、長い階段を壁に身体をぶつけながら駆け上がる。


この階層の生き物という生き物の魂を食らい尽くした頃──


叢雲は満腹になったのか、俺は正気に返った。


ハァ……ハァ……。


叢雲の切れ味と身体強化のバフは強力だが、この刀には「狂戦士バーサーカー」という呪いが刻まれている。


"生き物が動かなくなるまで斬り続ける" 精神操作系の呪いだ。


俺は叢雲と相性が悪く、元来の臆病で慎重な性格が呪いの影響を弱めているらしい。


臆病風に吹かれている時に叢雲を手に取ると、不安な気持ちが和らぐ。

……その程度の作用だったはずだ。


俺は刀身を覗き込んだ。

刃は光を反射し、俺の顔を映している。


紫色の刃文が完全に消えている。


しばらくは狂戦士化せずに済みそうだ。


俺は叢雲を納刀し、周囲を見渡した。


無数の柱が立ち並び、視界が悪い。


ステータスウィンドウを見ると「4階」と表示されていた。


……それだけではない。


状態異常の欄に、青ざめた顔と下を指差す手の絵が表示されていた。


何の意味があるんだ?


俺は口元に手を当てる。


ぬるっ……。


嫌な感触が指に伝わった。


はっとして、手を広げて見ると──


真っ赤に染まっていた。


──血だ。


それに気がついた途端、全身がガクッと力を失い、極度の空腹状態に襲われる。


腹が鳴る音が、やけに耳に響いた。


めまいがする……。


そのまま、俺は後ろへと倒れ込んだ。


カチッ


──!


カッと視界が真っ赤になったかと思えば、次の瞬間には真っ白に上書きされる。


意識が落ちる直前——


轟音が響いたような気がした。


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