シオン3

 翌朝、私はマスターから教えてもらった大学へと向かった。リオンの能力によって、私はこの大学の学生として認識されているはずだ。キャンパス内は、期待と不安が入り混じった空気で満ちていた。多くの学生たちが、それぞれの未来に向かって歩いている。私は、その喧騒の中に身を置き、アキの姿を探した。


 しかし、広いキャンパスを隈なく探しても、アキの姿は見つからなかった。時間だけが過ぎていき、焦りが募る。私は、今日のところは諦めて、カフェへと戻ることにした。


 カフェの扉を開けると、マスターがいつものように優しく微笑んで迎えてくれた。私は、アキを見つけられなかったことをマスターに伝えた。マスターは、私の肩に手を置き、優しく言った。


「まだ、初日です。焦らずに、ゆっくりと探しましょう」


 マスターの言葉に、少しだけ心が軽くなった。私は、カウンターの椅子に腰を下ろし、マスターが淹れてくれたコーヒーを飲んだ。その時、カフェの扉が開いた。


 入ってきたのは、写真で見た少女、アキだった。彼女は、少し疲れた様子で、カウンターの前に座った。私は、アキに声をかけようと立ち上がろうとした時、ノクターンが水晶の中で光り、私の動きを止めた。


『シオン、今の姿で声をかけるのか?』


 ノクターンは、私の意識に直接語りかけてきた。私は、小声でノクターンに尋ねた。


「え、ダメなの?」


『リオンの能力がアキに効いているとしたら、友人に突然「あなた死んでる」って言われるんだぞ? 分かってるのか』


 ノクターンの言葉に、私はハッとした。そうだった。リオンの能力で、私はアキの友人として認識されている。もし、今の姿でアキに声をかけたら、アキは混乱してしまうだろう。


「あ、そっか。じゃあ、どうすればいいの?」


『俺の能力を使え』


「あ、人から見える姿を変える能力ね」


『そうだ。どんな姿を望む?』


「そうね……。このカフェに似合う、落ち着いた雰囲気のお客さん、って感じかしら」


『ん』


「ん?」


『能力を使った』


「え? もう?」


『いいから、早く声をかけてこい』


 ノクターンはそう言い残し、水晶の中で静かになった。私は、言われた通り、アキに声をかけることにした。


 私は、深呼吸をして、アキの隣の席に座った。そして、優しく微笑みかけながら、話しかけた。


 「初めて見る顔だね」



〈魂の導き手:シオン 完〉

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