シオン2
リュカエル様に連れられてやってきたのは、広大な庭園だった。そこには、様々な種類の動物たちが自由に歩き回っていた。しかし、そのどれもが、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「ここが、幻獣たちの住む場所、幻獣の聖域です」
リュカエル様はそう言い、私を庭園の中へと導いた。
「神秘的な場所ですね」
「はい。幻獣は、試練を受ける者にとっても、神の使いとなる者にとっても、なくてはならない存在です。彼らは、あなたの力となり、あなたを支えてくれるでしょう」
リュカエル様の言葉に、私は少しだけ心が躍った。どんな幻獣と出会えるのだろうか。
庭園を歩いていると、一羽の大きな鷲が近づいてきた。その鷲は、片方の目を閉じ、私をじっと見つめた。そして、ゆっくりと頭を下げた。
「この鷲は、片目を失っていますが、非常に優れた能力を持つ幻獣です。幻獣は、自分が認めた者にしか近寄ってきません。あなたは、隻眼の鷲の主になる器があると認められたようですね」
リュカエル様がそう紹介してくれた。隻眼の鷲は、漆黒の羽毛に、鋭い眼光を持つ、威厳のある姿だった。
「あなたの名前は、まだないのね。これから、一緒に旅をするパートナーとして、私が名前を付けてもいい?」
私は隻眼の鷲に話しかけた。鷲は、静かに頷いた。
「そうね……。あなたの片目が、まるで夜空に輝く星みたい。だから、あなたの名前は『ノクターン』。夜想曲を意味する言葉よ。これからよろしくね、ノクターン」
私がそう言うと、ノクターンは優雅に翼を広げ、高らかに鳴いた。その鳴き声は、まるで夜空に響く美しい旋律のようだった。
「ノクターンは、あなたの言葉を理解し、あなたの心を感じることができます。彼は、あなたの良きパートナーとなるでしょう」
リュカエル様の言葉に、私は頷いた。
「ありがとうございます。リュカエル様。ノクターンと共に、精一杯頑張ります」
「期待しています。シオン。あなたは、これから様々な魂と出会い、彼らを導くことになるでしょう。あなたの優しさと強さが、彼らの心の光となることを願っています」
リュカエル様の言葉に、私は決意を新たにした。私は、ノクターンと共に、迷える魂たちを救うために、精一杯頑張ろう。
「では、早速ですが、あなたの最初の仕事について説明しましょう。あなたは、ある魂を探し出し、彼女を死者の国まで導くことになります」
リュカエル様はそう言い、私に一枚の絵を見せた。そこには、一人の少女が描かれていた。
「この少女の名前は、木崎アキ。彼女は、まだ自分の死を受け入れられずにいます。あなたは、彼女の心に寄り添い、彼女が正しい道を見つけられるように手助けをしてください」
リュカエル様の言葉に、私は頷いた。
「分かりました。アキさんを、必ず導きます」
「頑張ってください。あ、ひとつ言い忘れていました。幻獣は現世へは連れていけませんのでご注意を」
「それでは、ノクターンは……」
「幻獣のままでは連れていけないだけです。ノクターンにこちらの水晶を近づけてみてください」
リュカエル様に言われたように、水晶をノクターンに近づける。すると、ノクターンが水晶の中に入った。
「あの、リュカエル様。これ、大丈夫なんでしょうか?」
「問題ありません。気になるなら、彼に問いかけてみてください」
リュカエル様に言われたように、ノクターンに問いかけた。
「ノクターン、聞こえる? 嫌な感じとかないの?」
『シオン、聞こえてるぞ。嫌な感じは全くない。むしろ、シオンが触れているからか心地良いくらいだ』
ノクターンからだろう、落ち着いた声が頭に響いた。
「シオン、彼の能力は、人から見えるあなたの姿を変えること。ただし、人型以外の姿にはできないので注意を。彼の能力は、水晶に入ったままでも使えます。上手く使えるよう祈っています」
そうして私は、リュカエル様の言葉を胸に、私はノクターンと共に、アキを探す旅に出ることを決めた。
アキさんがどこにいるのか正確な場所はまだわからないが、自分の死を受け入れられていない、ということから現世にまだいるのだろう。まずは現世へ行かなければ何も始まらない。
「リュカエル様、現世へはどのように行くのでしょうか?」
リュカエル様に尋ねた。
「先程、あなたがルカとであった場所。そこに、あなただけが通れる扉があるはずです」
「扉……」
「ええ、その扉は、この死者の国への案内口のひとつ、現世の日本、東京にあるカフェへ繋がっています」
「カフェ……ですか?」
私はリュカエル様の言葉を繰り返した。カフェが現世への扉になっているとは、想像もしていなかった。
「はい。そのカフェは、生者の世界と死者の世界を繋ぐ、特別な場所なのです。あなたは、その扉を通って現世へと向かい、アキさんを導いてください。カフェのマスターはこちら側なので相談してみるのも良いと思います」
リュカエル様はそう言い、私に一枚の地図を手渡した。
「これは、アキさんが最後に亡くなった場所を記した地図です。この地図の場所は、カフェからほど近い。もしかするとマスターが何か掴んでいる可能性はありますよ」
私は地図を受け取り、リュカエル様に深く頭を下げた。
「ありがとうございます。リュカエル様。必ず、アキさんを連れてきます」
「期待しています。シオン。あなたの優しさと強さが、アキさんの心の光となることを願っています」
リュカエル様の言葉を胸に、私はノクターンと共に、扉の在る場所へ向かった。
私の死者の国、最初の場所に戻ると兄がいた。
「シオン、どうしたんだ?」
「魂の導き手になった。これから仕事」
「そっか、頑張れよ。お前の扉はそれだ」
淡い紫色の扉を指差ながら兄は言った。
「ありがとう。じゃあ、行ってきます」
兄にお礼を言って、現世のカフェへ繋がる扉を開けた。
店内は、外観からは想像もできないほど温かく、落ち着いた雰囲気だった。薄暗い照明、使い込まれた木のテーブルと椅子、そして、心地よいコーヒーの香り。
カウンターの中には、優しそうな笑顔のマスターが立っていた。
「あなたが、シオンさんですね。リュカエル様から、お話は伺っています」
マスターは、私を見るなり、そう言った。私は驚きで言葉を失った。
「あなたは、死者の国から来られた魂の導き手。アキさんという少女を探しに来られたのですよね」
マスターは、私の目をじっと見つめ、そう言った。私は、マスターの言葉に頷くことしかできなかった。
「私は、この場所から離れることはできませんが、代わりにリオンが外でアキさんの魂を見かけたそうです」
「リオン……ですか?」
私はマスターに尋ねた。マスターは頷き、カウンターの下から小さな白い猫を抱き上げた。
「ええ。リオンは、私の幻獣です。彼女の能力は別にあるんですが、普段は、街を自由に動き回り、情報を集めてもらってます」
マスターは、リオンを優しく撫でながら言った。リオンは、私を見ると、小さく鳴いた。
「彼女が見たアキさんは大学に通っている学生とのこと」
「なるほど。でも、アキさんは亡くなってますよね。人間にアキさんは認識できないんじゃ」
「それが、リオンが見た状況だと、人間にも認識できている時があるようなのです」
「それなら、私もその大学の学生っていう設定でアキさんに近付く方が良さそうですね」
「それなら、リオンの能力をお使いください」
「そういえば、リオンさんの能力って」
「リオンの能力は、人間の記憶を少しだけ操作できます。例えば、シオンさんがあの大学に通う学生であるとかね。それにもしかすると、その能力はアキさんにも掛けられるかもしれません」
「それは、例えば入学当初から私とアキさんが友人とか?」
「そうですね」
「それはいい能力ですね。リオンさん、私の初仕事をあなたの能力で手伝ってくださいませんか?」
私の問いかけに、リオンは頷くと店を出て行った。
「リオンが戻ってきたら、能力は発動されている状態です。今回のような広範囲に能力を使うのは初めてなので、いつまで持つかは」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、何かありましたら相談下さい。リュカエル様からも、シオンさんを助けるように言付かっています」
私は、マスターに再度お礼を言い、明日へ備えることにした。
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