第十八話 背けた記憶 と 色褪せぬ愛情

 記憶の回廊を進む中で、私は両親との思い出をひとつずつ取り戻していった。それは、まるで時が止まったかのように鮮明で、まるで両親との再会のような、温かく、そして切ない時間だった。記憶の回廊は、まるで心の奥底に眠る宝箱を開けていくような、そんな感覚だった。


 両親と一緒に行った遊園地。色とりどりの風船が浮かび、楽しそうな笑い声が響き渡る。メリーゴーラウンドに乗り、手を振る両親の笑顔。ジェットコースターに乗り、一緒に叫んだ時の興奮。観覧車から見た夕焼け空の美しさ。それらは、まるで昨日のことのように鮮明で、私の心を温かく包み込んだ。


 両親と一緒に行った旅行。青い海が広がり、白い砂浜が輝くリゾート地。旅館の温泉に入り、一緒に食べた美味しい料理。星空の下、語り合った時の静かな時間。旅先で買ったお土産を、嬉しそうに私に手渡す両親の姿。それらは、まるで夢のように美しく、私の心を優しく撫でた。


 両親と一緒にお祝いした誕生日。手作りのケーキに飾られた、私の年齢の数だけ灯されたロウソク。プレゼントの箱を開けた時の、私の驚きと喜び。両親が歌ってくれたバースデーソング。家族みんなで食卓を囲み、笑い合った時の温かい時間。それらは、まるで宝石のように輝き、私の心を幸せで満たした。


 どの思い出も、私にとってかけがえのない宝物だった。それは、私が両親との絆を確かめるため。そして、私が未来へ進むための、希望の光だった。


 しかし、記憶の回廊には、両親を失った悲しみの記憶も残されていた。それは、まるで心の奥底に隠された、決して触れてはいけないパンドラの箱のようだった。


 両親の葬儀。冷たい雨が降り続く中、棺に花を手向け、涙を流す私。参列者たちのすすり泣く声が、静かな葬儀場に響き渡る。両親の遺影を見つめ、別れを告げる時の、心の痛み。それは、まるで心臓を鷲掴みにされるような、耐えがたい悲しみだった。


 両親の遺品整理。両親が使っていた家具や服、写真や手紙。それらを手に取るたび、両親との思い出が蘇り、涙が溢れ出す。両親のいない部屋で、一人で過ごす夜の静けさ。それは、まるで心の隙間を埋めることができない、深い孤独だった。


 両親のいない生活。朝起きても、夜眠る前にも、両親の姿を探してしまう。食卓に並ぶ料理は、いつもより味がしない。街を歩けば、楽しそうな親子連れの姿が目に留まり、心が締め付けられる。両親のいない世界は、まるで色が失われたモノクロの世界のようだった。


 どの記憶も、私にとって耐えがたいものだった。それは、私が目を背けていた、最も辛い記憶だった。


 私は、悲しみと向き合い、涙を流した。それは、心の奥底に溜まっていた感情を解放するための、浄化の儀式だった。涙が枯れるまで泣き、悲しみを吐き出した時、私は心の奥底に、両親の愛情を改めて感じた。


 両親は、いつも私を愛してくれていた。それは、私がどんなに悲しんでいても、どんなに苦しんでいても、変わることのない真実だった。両親の愛情は、私の中で生き続け、私を支え、私を導いてくれる。


 私は、両親の愛情を胸に、心の傷を癒していった。それは、私が過去と向き合い、未来へ進むための、希望の光だった。


 記憶の回廊を進む中で、私はフアナさんと再会した。それは、まるで長い旅路の果てに、ようやく辿り着いた安息の地のような、そんな安堵感に包まれた再会だった。フアナさんは、変わらぬ優しい笑顔で私を迎え、まるで旧友との再会を喜ぶかのように、私の手を温かく握りしめた。


「アキさん、よく来ましたね。あなたがここに来ること、待っていました」


 フアナさんの声は、記憶の回廊に響き渡る静かな調べのように、私の心を優しく撫でた。私は、フアナさんの隣に腰を下ろし、記憶の回廊で出会った両親との思い出。そして、心の奥底に封印していた感情について、ゆっくりと語り始めた。


 フアナさんは、私の言葉に静かに耳を傾け、時折、温かい眼差しで私を見つめた。まるで、私の心の奥底に隠された感情を、全て理解しているかのように。


「アキさん、あなたは本当に強い子ですね。両親の愛を胸に、ここまで辿り着いた。あなたは、きっと素晴らしい未来を切り開いていくでしょう」


 フアナさんの言葉に、私は心の奥底に溜まっていた感情が、少しずつ浄化されていくのを感じた。それは、まるで心の傷口に、優しい光が差し込んでくるような、そんな温かい感覚だった。


 フアナさんは、私が記憶を取り戻すのを手伝ってくれた。それは、まるで記憶の糸を紡ぎ、失われた絆を再び繋ぎ合わせるような、そんな神聖な作業だった。


 フアナさんは、私に両親から聞いた思い出話を聞かせてくれた。それは、私が知らなかった両親の姿、私が知らなかった両親の想いを教えてくれる、貴重な物語だった。


「あなたの両親とは、彼らがなくなった時に会いました。私は彼らの魂の導き手を任されたんです。そして、死者の国に来てからもアキさんを一人にしてしまったことをずっと悔やんでいました」


 フアナさんの話を聞き、私は胸が熱くなった。両親は、私を心から愛してくれていた。その愛は、私がどんなに時が経っても、決して色褪せることのない、永遠の光。それは、私の心に深く刻まれ、私を支え、私を導いてくれる。私は、両親の愛を胸に、未来へと歩んでいくことを誓った。


 フアナさんの優しさに触れ、私は心の奥底に溜まっていた感情が、まるで雪解けのように浄化されていくのを感じた。

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