第十七話 真実 と 解放
両親の愛情を受け止める覚悟を決めた時、私は、まるで啓示を受けたかのように、両親が受けた感情の浄化の試練が、自分にも課せられていることを知った。それは、過去の自分と向き合い、封印された記憶を取り戻すこと。心の奥底に閉じ込めた、喜び、悲しみ、後悔、愛情。それら全てと対峙し、受け入れること。
それは、まるで暗闇の中に立つような、恐ろしくも神聖な感覚だった。私は、震える手で、その扉を開けることを決意した。過去の自分と向き合うことは、再びあの時の悲しみを味わうことを意味するかもしれない。しかし、私はもう逃げなかった。両親の愛を、もう一度、心の奥底へ刻み込むために。
「ヒスイ、私、試練に立ち向かう」
私は、ヒスイに力強く告げた。ヒスイは、私の目をじっと見つめ、優しく頷いた。
『分かった。僕も一緒に行く。どんな事があっても僕はアキのパートナーだから』
ヒスイの言葉に、私は心の底から安堵した。一人では、とても立ち向かえなかった。ヒスイがいてくれるから、私は前に進める。
私たちは、手を取り合い、記憶の迷宮へと足を踏み入れた。そこは、まるで万華鏡のように、様々な感情が渦巻く空間だった。幼い頃の無邪気な笑顔、両親との温かい触れ合い、そして、両親を失った時の深い悲しみ。それらが、まるで生きているかのように、私を取り囲んでいた。
記憶の迷宮は、まるで迷路のように複雑に入り組んでいた。私たちは、記憶の断片を頼りに、奥へと進んでいった。壁には、両親との思い出の写真が飾られていた。それは、私が忘れてしまっていた、かけがえのない瞬間を切り取ったものだった。
「見て、ヒスイ。この写真、私が初めて海に行った時のものだ」
私は、砂浜で両親と手をつないでいる写真を見つけた。幼い私は、目をキラキラと輝かせ、楽しそうに笑っていた。
『アキ、本当に楽しそうだね』
ヒスイが、写真を見つめながら言った。
「うん。本当に楽しかった。でも、私、この時のことを全然覚えてなかった」
私は、少し寂しそうな声で言った。
『でも、こうして写真を見れば、思い出せる。記憶は、心の中にちゃんと残ってるんだよ』
ヒスイの言葉に、私ははっとした。そうだ。記憶は、ただ思い出せないだけで、消えてしまったわけではない。心の中に、ちゃんと残っている。
私たちは、記憶の迷宮をさらに奥へと進んだ。そこには、両親を失った時の記憶が待ち受けていた。病院の廊下、葬儀場、そして、がらんとした家。それらは、私が目を背けていた、最も辛い記憶だった。
私は、震える足で、その記憶へと近づいた。それは、まるで深い傷を抉るような、痛みを伴う行為だった。しかし、私は逃げなかった。過去と向き合い、乗り越えなければ、前に進むことはできない。
記憶の中で、私は泣き叫んでいた。両親の名前を呼び、助けを求めていた。しかし、両親はもういない。私の声は、虚しく響くだけだった。
私は、記憶の中の自分を抱きしめた。そして、優しく語りかけた。
「もう大丈夫。あなたは一人じゃない。私がいる。私が、あなたを救う」
記憶の中の私は、私に抱きしめられ、静かに涙を流した。そして、ゆっくりと、消えていった。
記憶の迷宮は、私にとって、最も恐ろしい場所だった。しかし、同時に、最も大切な場所でもあった。そこは、私が過去と向き合い、心の傷を癒す。そして両親との絆を再確認するための、神聖な場所だった。
記憶の迷宮を進む中で、私は、まるで心の奥底に隠されたパズルのピースを拾い集めるように、失われた記憶を取り戻していった。それは、幼い頃の無邪気な笑顔、両親との温かい触れ合い、そして、両親を失った時の深い悲しみ。それらは、まるで生きているかのように、私を取り囲み、私の心を揺さぶった。
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