第43話 心地良い疲労を味わっちゃえばよくない?


 二人の【調教ミッション】を完了し。

 本格的に本日のダンジョン探索へと入る。


 目標は3階層。

【ダンジョングローブ】があるため焦らず、ちょっとずつ刻んでいこうと話し合った。



「よしっ、じゃあ行くか――」



 その【ダンジョングローブ】で、“2階層 入口”へと転移する。

 1階層の階段という正規ルートを使ってないので、ちょっと不思議な気分だ。



「ふぅ~……本当、あっという間に2階層だね」


「そうね。その分、探索に集中できてありがたいわ」


 

 西園寺と東條も同感のようで、それぞれ感想を述べあっていた。

 ……ただそちらに意識が向いているためか、二人の手がまだ、俺の身体に触れたままになっている。

 

 いや、俺は良いんですけどね?

   


「あっ――えっ、えっと。じゃ、じゃあレッツゴー!!」



 西園寺が気づきパッと手を離す。

 明らかに顔に照れが出ていたが、何事もなかった風を何とか装っていた。


 ……テレテレ西園寺、可愛い。

 なんか語感が“てるてる坊主”みたい。

 テレテレ西園寺、グッズ化してどこかにるせないかな……?


 

「そ、そうね! 行きましょうか」



 西園寺の行動で、ようやく東條もハッとする。

 ずっとつかんでいた服の裾を、クールな表情を崩さずサッと離していた。

   

 ……ほんのり赤い顔してた東條さんも可愛いね。

    



 しばらく歩くと、モンスターを発見する。

 通路をふさぐようにして、幾つものツタを伸ばした“ダンジョンプラント”だ。 



「うわぁ~凄いね!」


「……そうかしら? まあこんなものよ」



 西園寺はウネウネと動くツタを見て、純粋に驚いた声を上げている。

 一方で東條は特に変化もなく、淡々と見つめていた。



『うわぁ~雨咲君の雨咲君、凄いね!』


『……そうかしら? まあ雨咲君の雨咲君なんてこんなものよ』



 うぐっ!?

 な、何故か存在しない記憶に襲われてしまった。

 

 西園寺にとても褒められた気分になったのは良しとして。

 だが東條には、冷めた目でさげすまれた気分になってしまった。

  

 ……まあそれはそれで需要ありそうでいいんだけどね。

 

  

「あっちからは積極的に襲ってこないんだね」


 

 黄緑色のツタは、一本一本が独立した生物のように動き続けている。

 だが今のところ、それらがこちらへと襲い掛かってくる様子はない。

  


「ミニゴーレムと同じね。Eランクダンジョンなら、基本は1体でしか出現しないわ」


 

 東條はモンスターから視線をそらさず、冷静に俺と西園寺へレクチャーしてくれる。



「こちらから仕掛けるか、一定距離に近づいたら攻撃してくるの。定石、必勝法は、その距離外から魔法や遠距離攻撃をすることね」



 やはり冒険者科高校の現役女子高生だけあってか、東條はモンスターの知識に明るかった。

 外見から分かること以外の情報もスラスラと言葉にしている。

 

 流石だぜ。


 

  

「でも通りたいしな。……戦闘は避けられないか」


「そうだね~。私と雨咲君の魔法で先制する感じにしよっか」



 ……すまない、ダンジョンプラント。

 俺が死んで転生することがあったら、必ず突然変異種になって服だけ溶かす溶解液を習得してやるからな。

 


『転生したら何故か植物モンスターになってたので、触手と溶解液を駆使して女性冒険者をエッチにカモりたいと思います!!』



 うん、タイトルはこれで決まりだ。

 だから、安らかに眠ってくれ。 


   

「【マジックショット】!!」


「【ホーリーショット】!!」



 西園寺とタイミングを合わせ、魔法を放つ。

 息もピッタリ。

 俺たち、初めての共同魔法だね。


 それぞれが別のツタに命中する。

 太い根本から食いちぎられるように、魔法で弾け飛んでいた。

 

  

     

「)$&FG%#&!!」        



 中央。

 目のない顔部分はあまり変化が無い。

 だが本体部分のような口から、悲鳴のような鳴き声が上がる。

 手足の幾つかをもがれたような、そんな叫び声に聞こえた。



「っ! ――触手、来たぞっ!!」 

      


 堪らずといった風に、他のツタが襲い掛かってきた。

 しなるむちのように揺れたかと思うと、ギュンと勢いよく伸びる。

 

 

「ええっ、任せて――んっ!!」



 ――それを、東條が踏ん張って迎え撃つ。

   


 ツタの威力を全く気にしないというように。

 両手剣で、真正面から受け止めた。


 ギンッと鈍い衝突音が鳴る。

  

 ツタが弾かれて勢いを失くし、宙へヒョロリと伸びた。

 東條は全く力負けすることなく、そのまま隙だらけのツタを輪切りにしてしまう。



「せぁっ!!」

 

「G&#($!K&!?」



 完全にダンジョンプラントがひるむ。

 ただ鳴き叫ぶだけの、空白の時間が生じた。

    


「やぁっ!!」


「っし!!」


 その隙を逃さない。

 駆けだした東條を追うように走り出す。


 モンスターの懐に到達。


 残ったツタも。

 本体の痛みに連動して痙攣けいれんするように、その場で動けないでいた。

 

  

「雨咲君っ!」


「ああっ!!」



 東條の呼吸に合わせるように、攻撃のタイミングを一致させる。

 東條が振りかぶったのを横目に、スキルを発動させた。



「はぁっ!」


「【強撃】!」



 東條の両手剣が、深々とダンジョンプラントに食い込む。


 そうして東條が作ってくれた道を後追いするように。

 スキルで光り輝き、強化された剣で切り裂いた。


     

「)$&E%#&D――」        



 ダンジョン内に響き渡るような絶叫を上げた後。

 ダンジョンプラントは残ったツタ諸共、粒子となって消滅したのだった。



◆ ◆ ◆ ◆    



 塞がっていた通路が無事、開通する。

 その後はスムーズに2階層の探索が進んでいった。


 途中ミニゴーレムやコボルト3体との戦闘を挟み、何事もなく勝利を収める。


 そしてそこからまた20分ほど歩いた。 


 再びダンジョンプラントと遭遇する。

 だが2回目ということで、より戦闘面も洗練されていた。



「ふぅ~何とかなったね。ゴクッ、ゴクッ……」



 反省もかねて、戦闘の感想を言い合う。

 同時に【従者箱ヒロインボックス】から出した水で、各自が喉を潤していた。


 550mlあったペットボトルはすぐに空になる。

 だがまだまだ貯蔵はあった。

 

 Eランクダンジョン、しかも今日はその2階層の探索のみが目標である。 

 流石に1度で全部がなくなることはないだろう。


 それでも。

 飲食料の物資面で不安がないことは、確実に精神面で良い影響を及ぼしていた。



「ええ。今のところは問題なく戦えているわ」

  

   

 空になったペットボトルを二人から受け取り、異次元の口内へと入れる。

 こういうのをポイ捨てしないの、ダンジョンマナーとしてとても大事だ。

 

 それに水が無くなっただけであって、空のペットボトルは他にも用途があるだろうしね。


 ……えっ?

 

 いやいやいや!!

 二人が口付けたペットボトルをこっそり取り出して、俺の口内に入れるとか。

 そういう話じゃないからね!?

 ベロベロ舐めたりもしないから、誓って!!

 

 また洗って使ったり、リサイクルに出したりってこと、それ以外にないです!

 ええ!

 


 そうやって短い小休止を挟み、探索を再開する。

 短時間ながらも、かなり進んできたなという実感があった。


 そしてその肌感覚は、正しかったのである。



「あっ、階段っ!!」


「お~やったね!」

   

 

 1階層でも見たことがある、下層へと続く階段を発見することができた。

 早速降りてみると、らせん状の階段がグルグルグルグルグルコサミンと続いている。


 だが小森さんたちと遭遇するようなイレギュラーも今度は起きず。

 無事、3階層へと到達したのだった。



◆ ◆ ◆ ◆


[ダンジョングローブLv.2 転移可能階層]



●1階層 入口


●2階層 階段前


●2階層 隠しエリア ←現在地点


●3階層 階段前 New!!

 


 転移可能人数 現在:3名


― ― ― ―


 

 今日のノルマを達成したところで、再び【ダンジョングローブ】で【隠し部屋】へと戻ってきた。


 もうここが、このEランクダンジョン内での仮拠点みたいな扱いとなっている。

 


「ちゃんと“3階層”も転移先に追加されてる。次回からは“3階層”でスタートできるぞ」


  

 これがやはり大きい。

 通常なら1階層攻略する度にダンジョンから戻る時間や、次回にそこまで向かう時間が増えることになる。

      

 だが【ダンジョングローブ】のおかげでその負担もなく、攻略すればするだけ次回も楽になるのだ。


 

「わ~本当、凄く助かるよね。転移って」


「ええ。とても助かってるわ」



 そう告げる二人は。

 自分の腕を枕にしてリラックスするように、そのまま石畳の上に寝転がっていた。

 

 頭を向かい合わせにして、完全にクールダウンタイムへと入っている。


 

「あ~西園寺も東條も。短い時間だったとはいえ、流石に疲れたか?」 

  

「あはは。まあ、ちょっとね。……あ~背中ひんやりして気持ちいい~」


「私も。短時間だった分、集中して進んだからかしら。……ん~そうね。気持ちいいわ」


 

 若干の疲れは感じさせながらも。


 心地よい疲労感を楽しむように。

 二人は他愛ない言葉のやり取りで、クスクスと笑い合う。


 まるで親友と夢中になって何かを楽しんだ後のような、そんな甘酸っぱい青春の雰囲気が伝わってきたのだった。


 

◆ ◆ ◆ ◆

 


「そのままで聞いてくれていいから」



 二人の尊い空間を邪魔しないように。

 また頑張った二人に、少しでも楽な体勢をして欲しいという思いで。

 

 視線を合わせるように、こちらがしゃがみ込む。



「今日は【調教ツリー】をどうするか聞いておきたいんだ」


 

 そう尋ねると、東條が身体をあお向けたまま反応する。       



「あ~そうね。私、今日も解放、お願いしようかしら?」


「OK。どれがいい? ……今日のミッションで得たのは100ポイントだ。それでできる奴な?」



【調教ツリー】を書き写した紙を、東條に見えるように掲げる。

 すると、東條は〈基礎〉の枝から伸びる【MP・魔力・魔耐+3】を指さした。



「【戦士】のジョブを得て。【強撃Lv.2】になったのはいいのだけれど。威力も増した代わりに、MP消費も上がったの」



 東條はそれが困ったことだというように、床に寝たまま口にした。

 確かに、東條のMPはかなり低い。 

【強撃】1発放ったら、もう後のことを考えないといけないレベルである。


 MP欠乏の症状は辛く、それだけで戦闘離脱になりかねない。

 東條が選んだ理由もよく分かった。



「なるほどな。……西園寺はどうする?」



 今日、西園寺はまたさらに1レベルアップした。

【調教ミッション】で得た200ポイントと合わせ、保有調教ポイントは300ポイントを優に超えている。

  


「えっと。じゃあ私もお願いしようかな。【ホーリーパワー】で」


 

【調教ツリー】を書いた紙を見ることなく、西園寺はそう即答する。

【調教才能】の恩恵も受けられるので、【ホーリーパワー】であれば250ポイントで解放可能だった。


 

 確認で、それぞれが選んだ物を復唱する。

 二人は起き上がることなく、その体勢のまま頷き返してくれた。

 

 このまま進めてくれということだろう。


 

「わかった。じゃあ行くぞ――」



 要望通り、西園寺と東條の【調教ツリー】を解放した。



「あっ――」


「っ!――」



 ――すぐさま、魔力でできた鎖が出現する。



 仰向けで寝たままの二人へ、襲い掛かるように飛びついていった。

 そして瞬く間にその四肢を拘束してしまう。



「んぁっ、んんっ」


「つっ、んんっ、あんっ」



 西園寺は頭上で手を縛られるようにして。

 東條は、まるで床下から生えた鎖に絡めとられるように、後ろ手に拘束されていた。


 そしてなんと、今度は二人の首から生えたかのように、魔力の鎖が現れたのである。

    

    

「ん、えっ!?」


「あっ、んっ、だめっ」



 西園寺は純粋に驚き。

 東條は咄嗟とっさに抵抗する素ぶりを見せた。



 だがそんなことはもちろんお構いなしに、事態は進む。


 二人の首辺りから伸びた鎖は、二つに分かれる。

 それぞれが二人の膝に近い右太もも、左太ももへと絡みついた。

 

 そして鎖は徐々にその長さを縮め、最終的には物凄く短くなってしまう。

 


「あんっ、いやっ」


「んぁっ、だめっ、引っ張ら、れて」



 短くなった鎖にその体勢を強制されるように。

 西園寺と東條の太ももが、どんどん首に近づいていく。

   

 そして抵抗する間もなく。

 二人はM字に開脚したような、とても恥ずかしい格好で緊縛されていたのだった。



「んんっ、んんっ。あっ、だめ、雨咲君、こんな、恥ずかしい姿、見ちゃ、だめ……」    



 西園寺が自身のあられもない姿を認識し。

 羞恥で顔を真っ赤にしながらも、何とか脚を閉じようとする。

 だがピンと張った鎖が、それを許さない。

    

 膝が内側へピクピクと微動するだけ。

 異性を誘惑するような、ただいやらしい動きをしただけに終わってしまう。

  


「あっ、んぁっ。ダメ、雨咲、君。お願い、あまり、見ないで、ちょうだい」 



 東條は赤く染まった顔を見られまいと横を向き、とても弱々しい声で懇願してきた。


 無意識に出てしまった異性にびるような、とても色気ある声が。

 脳を甘く強く刺激する。

    

 東條の引き締まった魅力的な太ももが、大きな胸に被さるようにして固定されている。

 グニュっと潰れた巨乳はまるで淫靡いんびな生き物のようで、異性の本能をこれでもかと揺さぶってきた。

 


「…………」



 そして西園寺も、東條も。

 脚がM字のように大きく開き、膝を閉じて隠すことを禁じられた中では。

 その魅惑的な臀部でんぶが、強調されるように見えてしまっていた。

 

 西園寺は短いスカートがめくれ上がり、純白の布が露出してしまっている。

   

 東條もスカートではないものの、ピタッと貼り付くようなとても丈の短いショートパンツだ。

 体勢のためか、綺麗なお尻の形もハッキリ見て取れてしまう。

 加えて何かに食い込んでいるかのようなスジやシワまで、鎖があらわにしてしまっていた。



 極めて刺激的な光景が、眼前で繰り広げられている。




 ――だがそれが、やっとのことで終わりを告げた。



 石畳の上で転がるだけしかできない、拘束された二人の上に。

 魔力で形成された錠前と、対応する鍵が出現する。


 

 鍵は自律的に動き出し、勝手に鍵穴に突き刺さった。

 そしてカチャリと音を立てて回る。


 

 すると二人の身を縛り上げていた鎖は。

 乾いた粘土のように、ボロボロと崩れ去っていったのだった。      



「はぁ、はぁ……終わった、のかな? あぅ~」


「その、ようね。……うぅ、私、何て恥ずかしい、格好を」



 未だ激しい羞恥心に襲われ、可愛く悶える二人をよそに。

【調教ツリー】は何とか解放されたのだった。 


――――

あとがき


途中、青春っぽいエモ話と言ってたな?

あれは嘘だ!(嘘ではない)


 

エッッッなお話になっていればいいんですが……。




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