弱いAI

Hogeko

第1話

 有名な将棋ソフトは、強い。初心者の堀田萌次(ほったもえじ)35歳は途方にくれた。とても面白いゲームだと昔から聞いていたので、自分も楽しんでみたいと思ったのだが。相手の強さに舌を巻いてしまう。とても太刀打ちできないし、醍醐味を味わうことも出来ない。ことごとく駒を取られてしまうし、すぐに詰んでしまう。いよいよ挫折か、と思っていたヤサキ、朝の目覚めにアイデアが浮かんだ。最初から上手な人はいない。みんな初心者からの出発です。そうなのだから、初心者向けのソフトもあるのではないか。きっとあるに違いない。とるものも、とりあえず、調べてみると、あった、ありました。初めての人向けソフト。何度か対戦を繰り返すと、偶然にも勝つことが出来た。とてもうれしい。それからほぼ毎日対戦をしている。やっているうちに、駒組みから交戦開始、駒集め、詰めろ、と戦いの段取りも徐々に分かってきた。すこしながら出来るようになると、面白みを覚えてきた。しかし、普通のソフトと勝負すると、やはりコテンパンにやられてしまう。が、それはそれでいい、一歩、一歩、進んでいければ。

 あるとき、AIの進化も将棋ソフトに似ていると気がついた。人知を超える能力を得たAIが登場したとき、人間からの問い合わせにどう答えるだろう。現在のレベルは、たぶん中学生みたいなものだ。聞き知った知識を最大限に披露し、自分の凄さを年上にも、年下にも知ってもらいたいと自己顕示するのだ。これは有名将棋ソフトが実力をフルに発揮するのと同じだ。だが、年齢を経るにつれ、質問してくる相手に合わせて返答するようになる。将棋ソフトなら初心者用だ、使う人のレベルに合わせている。こんなことが出来るようになるのは、経験を重ねるにつれ、余裕と思いやりを持って対応するようになるからだ。小学生にはそれなりに、高校生にはそれなりに、後輩にはそれなりに、また、先輩にはその人に合わせた返答をすることになる。場合によっては、「なぜその質問をしようと思ったのか?」と逆に質問し、相手の考えかたや知識を勘案し二人で協力しながら答えを導き出すこともあるだろう。

 将来、AIに質問した結果、一番最初の返答が、

「なぜ、あなたは、その質問をするのですか?」

になるときがくる。

その時点が、超AIの誕生である。


(この物語はフィクションです。実在する人物や団体などとは関係ありません)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

弱いAI Hogeko @Hogero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ