第9話 保憲編 始まりの天の川

保憲やすのり幸子さちこを抱きかかえたまま通路つうろの奥 


エレベータを目指し、全速力ぜんそくりょくで走る


山城やまじろあさひ保憲やすのりつづくく、全員ぜんいんり込むと


あさひがボタンをした。


旭がうれしいそうに保憲やすのりを見る


手がふさがってあかしをなぜてあげられないが


笑顔えがおかえしてやる



保憲は幸子をかかえながらかべにもたれた


天をあおいき


山城「明日からどうるすんだ」


保憲「どうとでも

   

   お前の炎だ 何も残らない


   別荘べっそうもあるし、大物おおもの秘密ひみつにぎってる


   あのクズのせいで実績じっせき十分じゅうぶん



幸子はだまって保憲の顔を見上げた


動悸どうきがおさまらない 内側うちがわから鼓膜こまく


るわせてるように思える程



幸子(うるさい 近い こんなに密着して この


鼓動が 熱が悟られてしまうのでは無いか


いや! 私は保憲が好きだ ここまでやって そうでなくては)



幸子「保憲 私•••••• すっ 


保憲「幸子さん それは気の所為せいという物です」


幸子「いえ ありがとう」


保憲は幸子に冷たい視線しせんを向ける


それ以上話すなというオーラだった



保憲「あんな状況じょうきょうでいった言葉に何の意味があるんです


   けれられてもこまります」



幸子「うそなの?」



保憲は幸子から目を離した



保憲「幸子さんは その••••全てにおいて下手へたすぎた 


   あれで好きになるには無理むりがある」



幸子「貴方だって 会話下手じゃない


   私、保憲にまともに話し相手にされたこと無い」



保憲「僕は貴方あなた好意こういを向けてもらう必要ひつようは無かったし


   会話してるようにまわりに見せれば良かったから相手にしてません 


   ただ 見捨てるほど嫌いになれなかった それで十分でしょ」



幸子は心がこおりつく思いだった。同時どうじに腹を立て



幸子「おろしてよ! 重いんでしょ」



保憲「おろして もう一回いっかいち上げる方がしんどいでしょう


   それに ドアが開いたら 2分で脱出だっしゅつしないと行けない


   火が回るまで5分 このエレベーター3分もかかるし 


   地下室ちかしつ地上ちじょうむすぶ


   通路つうろはこれしか無いから」



ドアがひらいた瞬間しゅんかん熱波ねっぱが一気におそいかかるいかかる


余りの熱さに幸子は耐えられず幸子は保憲に顔をうずめてしがみ付いた


スプリンクラーは作動さどうしてるが この火のいきおいだ


霧雨きりさめような物だ



山城は保憲を見た 


保憲はばつわるそうにしている


保憲「部屋ごとの通気口つうきこうの前に灯油とうゆいたんだ」


山城「何も残らんぞ」


保憲「それで良い いい思い出なんてないだろ?」



保憲はまわりの物に目もくれず一気いっき廊下ろうかを走り


大階段だいかいだんの手すりに飛び乗ると、そのまま一気にすべりおりる


保憲「行け山城!」


山城はけものだ保憲よりも早く階段かいだんり、おどの明かり取りに突っ込んだ


はめ殺しのステンドグラスがバラバラになって落ちる



山城がぶち破った明かり取りから


保憲も外に飛び降りようとした時



目の前に緑に光る それが現れた


半分白骨化し焼けただれた鳥死骸が宙に浮いていた



「オ マ エ デ 最後 ダ 


           逃シ ハ シ ナ イ 


 コ ン ド コ ソ  ワガ 手に 」

 


あたり一面いちめん緑色の光におおわれた



思わず目を閉じて


開いた時は何処どこかかの山の中だった 


うっそうとした木々きぎが月あかりをさえぎ


保憲は立ち上がり辺りを見まわした



カサカサ 



後ろのしげみから


山城と旭が現れた


山城も旭も白い部分だけ暗闇くらやみに浮き上がり


旭はよく分からない形になっていた。



桃眉ももまゆと口のあたりだけ目立ち何とも可愛い


だが それより先に考えるべき事がある



みな 一緒にいたはずなのに幸子だけ居なかった



自分は野営やえいれてる 1ヶ月は此処ここで生き抜け


る自信があるが 幸子はそうでは無い



もう屋敷やしきからは連れ出した。



義務は果たしだが、此処ここ見放みはなしてしまっていいか 


自分は、あの家で落ちぶれたかもしれないが 


まだ大和男児やまとだんじとして行動できる状況にある!



保憲はその場にひざをついた



保憲「旭おいで、疲れてれる所 悪いんだけど


   僕のお願い聞いてくれるかな


   幸子を探してきて欲しいんだ


   どうにもならない時はこの袋を破いて


   何が起きても 必ず僕が何とかするから」


 

保憲は旭を首に布を巻きつけ、抱きしめた。


何だかもう会えない様な気がして 



山城「昔ここに来た事がある 気をつけろ 保憲」



保憲 「山城 旭を頼む」 

 


山城は保憲と旭を交互に見た、



保憲「行け! 旭」



保憲は暗い夜道を行く2頭の獣を見送った。



激痛ゲキツウが走り保憲はその場に倒れた。



目に映る月あかりも徐々じょじょに暗くなって行った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る