第7話 保憲編 昴

鍔迫つばぜり合いを終わらせたのはすばるだった



昴「威勢いせいのわりには大した事ない


  お前に殺しを教えたのは俺だ


  お前の戦い方は知りつくしてる」



昴は力で保憲をねじせようとする



正位置せいいちにあった切先きっさきは左側に傾いてきている



保憲(この体勢たいせいけた瞬間 右から横腹目掛めがけてやいばが飛んでくる)



保憲の方が一瞬はやく左後方に下がった


ほぼ拮抗状態きっこうじょうたいにあった双方そうほうかたなだが


突如均衡とつじょきんこうくずれ、昴の刀はくうを切る形となった



昴は保憲をにら



保憲「昴先生 これは試合じゃない殺し合いなんですよ


   僕は先生のタイミングに合わせる必要は無い」



昴はすぐさま体勢を立て直すと 保憲を上から何度も切りつけた




昴の一刀いっとうは刀の重さを乗せた重い一撃いちげき


それに 子供の保憲と大人の昴では


体格差たいかくさがある 想像異常そうぞういじょうに重い


だが、保憲はその全てをみねで受け切った



昴「何が殺し合いだ 防戦一方ぼうせんいっぽうじゃないか!


  速さがあっても 打力だりょくが弱い


  所詮しょせんは子供なんだよ」



保憲「先生こそ引退いんたいして 明らかに腕が落ちた



保憲は 昴の刀の一点をめがけおのが刃を上向うわむき刀身とうしんね上げた



昴の刀が折れ、切先が床に落ちる



保憲「そんな雑に切りつけたら刃こぼれから折れますよ」


   父の護衛ごえいなんてしてるから 


   こんな事も思い付かないくらい馬鹿ばかになるんです


   腕も落ちるし」



昴は保憲の方に何か投げつけた



煙玉けむりだま!! うッ 催涙さいるいか 



煙幕えんまくの奥から昴がナイフを持ってあらわれた



保憲「(しまった)うぎゃぁあ」



祭壇さいだんの物が床におちる



保憲は左肩をつらぬかれ祭壇には貼り付けられる形となった。



昴はなおもナイフに力を込め、保憲に馬乗うまのりりになった。



昴「父親を殺すだ? だからボンボンは嫌いなんだよ 


  こんな良い暮らをしながら


  何が不満ふまんなんだ!


  君の御父上おちちうえは俺ら兄弟を可愛がり養ってくれた」



保憲「昴先生みたいな道徳感どうとくかん崩壊ほうかいした 


   自分さえ良ければ周りも幸せだと思える 


   人間なら良いでしょう!



   貴方のようなクズがこの家に生まれたら


   何の不満も無いでしょうね 


   ですが 父上は貴方たちを養って


   自分にびない善人ぜんにんを殺し回った。



   女の子の生き血が欲しいだのいって


   面識めんしきもない貧しい子を買っては生贄いけにえしょうして殺した物だ


   自分以外の人間を虫ケラと思ってる」



昴「お前が好かれる努力をしないからだ!」



保憲「へつらう事が好かれてる努力ですか!


   まっぴらごめんだ


   ろくな事にならなくなる


   努力を重ねた結果 貴方の弟の


   北斗ほくとさんは毎晩まいばんの生ゴミ処理につかれ


   精神を病んでしまった


   貴方が代わりにやっても良いのに



   昴先生が早くこんな邸から出ていけば


   病まずに済んだはずだ


   弟思いの兄貴ずらなんかやめなよ


   どうせあなたも殺人狂さつじんきょうなんだから」



保憲はニヤリと笑うと先程部屋さきほどへやに持ち込んだ


包に目をやる 白い包みはもうおおかた赤黒く染まっていた。



保憲「そういえば北斗さんも 


   僕を殺すように言われてたんですね?


   あんなに弱いのに 可愛がられた結果がこれですか 


   笑えますよ」



保憲は しけた と言う表情で昴の方を向き直る



昴の顔から血の気が引いていく


明るくも無い部屋で虹彩が絞られ


瞳が小さくなるのを見た 動揺している



保憲の血が祭壇から床へ落ちる



肩に刺さったナイフのつか再度さいど力が加えられるのを感じた。


保憲「うっ」


保憲は苦悶くもんの表情を浮かべる


昴「保憲 キサマ! 殺してやる



その時



?「保憲 大丈夫か?」



 

全く聞き覚えの無い男性の声に驚き


昴が振り向くと声に見合う男の姿などなかった



床の近い位置に一匹 山羊がいるだけだ



昴(ヤマジロ?)



保憲「山城 そこの生首を燃やしてしまえ 消し炭にしろ」



昴が保憲の目を見る


昴の瞳が小刻みに揺れている



死んだ人間は戻らない 分かっている


保憲を殺してる間にこの世に残った唯一ゆいつかもしれ


ない北斗の一部が目の前で燃えて無くなる



保憲を抑える力が弱まった一瞬を見逃さなかった。



昴の手を跳ね除けると左肩に刺さっているナイフに手をかけ引き抜いた


そのまま昴の首を切ろうとしたが


昴はすでに赤黒い包の方へ走って行った 



保憲はナイフを投げ捨て 刀に持ち替え 昴の後を追う


次の瞬間 業火ごうかが昴の背中におそいかる



大火傷おおやけどを負いながら 包を大事そうに抱える昴がいた


観念かんねんして 包をそっと開けた 



保憲はそれを見ると何も言わず昴の首を切り落とした。


保憲「昴先生 北斗さんはお昼にこの邸を出ていきましたよ」

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