第3話 保憲編 旭

世間一般せけんいっぱんでは告白こくはくされると嬉しいものらしいが


保憲やすのりはなんとも寝覚ねざめの悪い気持ちでいた。



宿舎しゅくしゃに着くと獣医師科じゅういかの教官がまっていた。



「保憲くん 君の所の軍用犬ぐんようけんあさひだけど 


 昨日から具合が悪いようで家の人に引き取りにきてもらった。


 預かっていた山羊やぎ山城やまじろ感染症かんせんしょうみたいなんだ 


 ついでだから こちらも連れて帰ってもらった」



保憲は目を丸くした。

 

次に怒りが込み上げて来た



保憲「そんな馬鹿ばかな!教官! お言葉ですが あさひ山城やまじろ


 今朝けさ、僕が見た時は元気でした!!」



教官「クッ 保憲!キサマ!! 私の見立みたてにケチを


   付けるのか!そんな事では良い兵士へいしにはなれんぞ!


    上をうたがうなかれだ 分かったか!!」



保憲は今にもなぐりかかりそうになるのをこらえて


教官をにらみつけた。かろうじてとどまり下をいた。


保憲「ちち差金さしがねですか?」



教官はその言葉に急に態度たいどやわらげた


教官「まぁ そういうことだ お前の父もひとが悪い


   こんなにすぐぐバレるなら俺に三文芝居さんもんしばいなぞさせずとも 


   よかったのではないか?」



教官は保憲がこれ以上 反抗はんこうしないのを見極みきわめると


一枚の封筒ふうとう手渡てわたした。


教官「オヤジさんから手紙だ 中はあらためさせてもらった。


   大した内容じゃ無かったぞ」


教官は学生宿舎がくせいしゅくしゃあとにした。




保憲は下をいたまま手紙を開いた。




(保憲 母さんの葬式そうしき以来いらいゆっくり話す時間がなかったが


 つい最近、穂積さんから 一年前にお前が尋ねてきたと聞いた。


 寝耳ねみみみずだったよ仕事はしっかりやってくれてるようで


 助かってはいるが 


 それ以外はずいぶん勝手な事をしてくれるようになったようだな


 ひさしぶりに話しをしよう


 あさひ山城やまじろ獣医師じゅういしに見せておくから



 明日向かいをだす 



追伸 久しぶりの帰省きせいだ手ぶらで帰って来ぬよう


   また石井先生に挨拶してから帰って来なさい





一週間前の國破邸


寝酒ねざけを飲みながら 新聞を読んでいる男が一人


國破岸郎くにばきしろう この男が保憲の父だ


岸郎「すばる 典子のりこを殺してしまったのは失敗しっぱいだったかな

 

   保憲があんなに薄情はくじょうなこに育ってしまって


   いうことを聞かすすべが 犬っころと老いた山羊だけとは


   心許こころもとない。



   穂積くんには悪いが、許嫁の件すっから忘れていたよ


   でも自分で婚約破棄こんやくはきを申し出たと言うし


   婚約者に興味がないのか それともじょうがあるのか


   どうだと思う?」


昴「あさひほどには役立たないかと思います」


岸郎「穂積の娘に利用価値はあるのか?」


昴「穂積家はこれまでに5名ほど陰陽領おんみょうりょうに入れています」


岸郎「典子より良い血筋と言うことか?


   そろそろ保憲には消えてもらって 


   新しい後継あとつぎでも作るか ははは」


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