あなたへ

乙羽

あなたへ

「俺たち、もう別れよう」

 そうやって、私たちは簡単に離れ離れになった。


傷つくために恋をしているわけじゃないのに、私は傷ついてばっかりだ。

私はあなたのお金や顔、仕事とかファッションとか、そんなこと目当てで付き合ったわけじゃない。


ただただ、太陽みたいな朗らかな笑い方が好きだった。



見た目はちょっとだけチャラくて、派手な男の人だった。

でも意外と鈍感で、女慣れしてなくて、天然で……。

別れを告げられて一か月。まだあの人を忘れることは出来ない。

一人目の運命の人は、別れの辛さを教えてくれる人、二人目の運命の人は、永遠の愛を教えてくれる人らしい。

私はあの人を二人目の運命の人だと今も信じている。もしも一人目の運命の人だったとしてもこの先二人目なんて背合うことはないだろう。なぜかそう確信している。

別れてから送ったメッセージは全て未読。snsも見る事が出来ない。

「理由は……もう、上手くいかないような気がするんだ」

 最後に言われたこの言葉を、何度脳内再生しただろう。

私の何が悪かったの?それを言ってくれたら直すことだってできたのに。

いっそのこと、嫌いになったって言ってくれたら、もうあきらめる事だって出来たかもしれないのに。


「別れたの?あの人と」

 お酒を飲むことで、忘れることが出来ればと、親友を飲みに誘った。

「まあ、ね。うまくいかない気がするって言われた」

「私はね、あんなチャラそうな人とは別れるべきだと思ってたよ。あんたは真面目で繊細なんだから、もっと誠実な人と付き合うべきだよ」

 丁寧に巻かれた髪の毛を掻き上げながら彼女はそう言った。

私のことを想っての忠告だともちろん分かっているが、彼のことをよく知らないくせに見た目だけで判断する親友に少し腹が立った。反面、私だけが彼の良さを知っているという

優越感が少しあったのは間違いなかった。


消せない彼との写真、もうあの笑顔を隣で見る事が出来ないと思うと、死んでもいいかなとか思えてしまう。

もう一度、やり直すことは出来ないのかな。



三年が経った。さすがに、私も大人になった。私の隣には、二人目の運命の人がいる。

私の左手薬指には、キラキラと輝く指輪があった。

私は新たな幸せを掴んだ。

一途で、私の我儘を優しく受け入れてくれる。経済的に余裕があって、顔もカッコいい。二人でタワマンの最上階に住んでいる。

満足だ。今はもう、あの彼の写真を見る事なんて無くなったし、声も思い出せなくなってしまった。


『君といられて幸せだった。急に突き放したりしてごめん。本当に好きだった。他の人と幸せになってね』


急に届いた一通のメッセージ。三年前の私がずっと待ち望んでいた人からのものだった。

『僕はもう、死んでしまうから。君の時間を奪いたくなかった。君は優しいから、最期まで一緒に居てくれようとするだろうから。看護師さんに、最期のお願いとして僕が死んだときにこれを送ってもらうように託したから、これを君が読んだとき僕はもういない。だけど君は生きて、幸せになってね。大好きだったよ。幸せな日々をありがとう』

私はためらいもせずに最上階から飛び降りた。

最愛の彼の最後のお願いすら叶えてあげられないような女だけど、私の運命の人はあなたしかいないから。

本当の愛を教えてくれた、あなたしかいないから。

今の彼へ、私のことは忘れて下さい。




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