どうやら受付嬢に何故か嫌われている俺。理由は彼女の勘違いでした

武 頼庵(藤谷 K介)

どうやら受付嬢に嫌われているようです



 現在結構な修羅場に遭遇している俺、佐藤光毅さとうみつきはようやく入社できた会社の営業マンとして働いている24歳。もちろん独身で彼女いない歴は年齢イコールなモテない男子だ。


「ちょっと礼二さんこれどうゆう事かしら!?」

「やだなぁ響子、彼女はただの同僚だよ? 何か勘違いして無いか?」

「勘違い? ただの同僚なのに、腕を組んで歩くのかしら?」

「まぁまぁ、ここは会社の正面玄関だから、な? 他に場所を移そう。それから話を聞いてくれよ。な?」

「話を聞くも何も見たままでしょ?」


 営業が終わって少し遅くなってしまった俺は、急いで会社に戻って報告した後に今日の日報を提出しなければならない。その時には会社の正面入り口から入った方が早いので、今日も今日とて営業で疲れた体を引きずるようにして帰社し、ようやく今日の仕事の終わりを報告するだけとなっていたのだけど、そんな折に会社に入ってすぐにこの場面に遭遇してしまった。


詰め寄られている男性社員が古賀礼二こがれいじといって、俺の二つ年上の先輩で、同じ営業課に所属している同僚。そしてその先輩に詰め寄っているのは、先輩が彼女を自慢するために待ち受けにしているのを何度もみてきているので、記憶に刷り込まれている女性だ。


 先輩の横には、今年入社したばかりの新入社員の女子社員が、礼二さんの腕に引っ付いたままで、あくびをしながら二人の言い合いを聞いている。


――なにこれ? どういう状況?

 仕事の疲れが一気に吹っ飛んだというか、それ以上に驚きの光景が目の前で繰り広げられていた。


 少し離れた所居る会社の受付嬢の二人も、どうしたらいいのか悩んでいる様で、ずっと騒いでいる人達の方へと視線を向けている。


――はぁ。まったく何をしてるんだか……。

 大きなため息をついて、俺は先輩たちの方へと歩み寄った。



「先輩」

「あん? うるせぇな!! なんだよ!!」

「先輩皆が見てますよ?」

「はぁ?」

 俺が先輩に話しかけると、ようやく周囲に人が居て、皆が自分たちの事を視ている事に気が付いたようで、少しだけ慌てる。


「あ、いや、これはな!! 事情があってだな!!」

「先輩の事情なんてどうでもいいんですけど、はっきり言って邪魔ですよ」

「な!! てめぇそんな口聞いていいのかよ?」

「そんな口って……先輩俺の事を何かしようとする前に、明日からの自分の事を考えた方がいいんじゃないですか?」

「なんだと!!」

「会社の入り口でこれだけの騒ぎ起して……。しかも女性絡みですか? これが報告上がらないと思ってます?」

「えっ!? あ、そ、それは……」

 俺の言葉が聞いたのか、先輩はそれまでの威勢がスッと霧散した。


「君も君だ」

「え?」

 俺は続けざまに未だに先輩の腕にくっついている女子社員へと視線を向ける。


「君確か今年入って来たばかりの子だろう?」

「そうですけどぉ~。私は関係なくないですかぁ?」

「関係なくはもうないぞ。これだけの騒ぎの中に居た事は、ここで見ていた人たち皆が見てるんだから」

「えぇ~、わたしぃ先輩に誘われただけでぇ~――」

「それはそこの彼女さん? にでも言ってくれ。後その言い訳を会社の人達が信用するかは俺には分からないな」

 ここで一息入れて、もう一人の当事者へと視線を向けた。


「申し訳ないですけど、ここはまだ会社の中です。そしてまだ業務中です。あまり騒いで迷惑をかけるようだと、警備員を呼ぶことになりますし、更に騒ぐと業務妨害で届を出す……なんて事があるかもしれませんよ?」

「え? あ、その……。そうですね。カッとしてしまって大きな声を出してしまいました。申し訳ありません。仰る通りにすぐ退出しますので……」

 先輩の彼女さんと思わしき女性は、俺からの言葉を聞いて少し冷静になったのか、慌てて謝罪した後に頭を下げ、後輩女子を引っ付いたままの先輩を引っ張って外へと歩き出した。


「ふぅ~……」

 暫くすると完全に出ていった三人を見て、俺は大きなため息をついた。


パチパチパチ

 ぱちぱちぱちぱち

「やるなぁ……」

「ちょっとカッコ良かったかも……」


 それまで静かだった入り口付近に拍手と歓声が上がる。そんな中を俺は頭を下げて受付の前を通り、そのままエレベーターの前まで歩き、上りの矢印を押してようやく一息ついた。


――明日は騒ぎになるな……。

 降りて来たエレベーターに乗り込んで明日の事を考えながら、再び大きなため息をついた。




「おはよう!!」

「ん? あ、おはようさん」

 最寄り駅を折り、会社へと向かう途中で、コーヒーショップから出て来た女性と顔を合わせる。


「昨日は大活躍だったんだって?」

「え? なんのこと?」

「ほら、会社の入り口での騒ぎを収めたんでしょ?」

「何で知ってるんだ? 昨日の夜の事だぞ?」

「グループチャットで流れて来たのよ」

「そうですか……」

 俺にスッと会社のグループチャットでの会話部分をみせながら、「やるね」と話すこの女性は、俺の3歳年上の総務課の主任さんで、今野弘美こんのひろみ

 

「ちょっと話題になってるみたいよ?」

「は?」

「春が来るといいわね!!」

 片目を閉じてウインクし、そのまますたすたと歩き去っていく。


――そんなんで春なんて来るかよ……。

 俺も彼女が出て来たお店へと入り、同じ様にコーヒーを買う。そしてそれをすすりながら会社への道を再び歩き出した。




何事もなく時間が経って、お昼休み時間になった時、数人の男性社員が俺の方へと歩いて来た。


「なぁ、佐藤」

「ん?」

「今週の週末――土曜日の夜だけど、空いてるか?」

「俺に聞いて空いてないことが有ったか?」

「いやまぁそうなんだけどさ」

 声を掛けて来たのは葉山一平という同い歳の同期社員。


「先輩、今めちゃくちゃ話題になってるじゃないですか!? そういう人と一緒に行く事こそが大事なんですよ!!」

 両手を握り締めてフンスと鼻息荒くするのが、一年後輩の鹿目洋二かなめようじ


「なになに? どういう事だ?」

「合コンだよ合コン」

「へぇ~」

「今を時めく先輩の名前を出したら、向こうも乗り気になってくれまして今週末に合コンすることが決まったんすよ」

「ん? 俺を知ってる人が来るのか?」

 葉山と鹿目が二人顔を見合わせる。


「なんと!! 綺麗どころの多い、マドンナが居るあの受付嬢さん達と合コン出来る事になりました!!」

「おぉ……。それは凄い……」

「だろ? だから行くよな?」

「うぅ~ん……何かダシに使われるようで嫌だなぁ……」

「わかったよ。じゃぁ一次会のお前の分は俺達が払うってのでどうだ?」

「まぁ……それならいいか……」

「「よっしゃぁ!!」」

 二人の声がフロア内に響く。


――まぁ、合コンなんて所詮は陽の者が勝つ仕組みだからな。俺は静かに酒でも飲んでればいいだろう。

 そんな考えを持ちつつも、朝コーヒーと一緒に買ったサンドイッチを口へと放り込んだ。





 土曜日・夜――


「かんぱーい!!」

「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」

 ガチャンといい音を鳴らしてそれぞれのグラスが重なる音と共に、集まった人達でのワイワイとした話声が聞こえてきて、一人一人の自己紹介が始まる。


「えっと俺は佐藤光毅で――」

「あぁコイツ佐藤っていうんだけど、あんまり仕事できない奴なの。でも今日の合コンにどうしてもっていうから俺の広い心で了承したわけ。そんなわけで俺はこいつらの上司で主任の近藤正義。よろしくね!!」

「あはははは……」

 自己紹介の途中で話に入って来たこの男性は、ウチの彼の主任を任されている先輩なのだけど、先日玄関先で問題を起こした先輩と同じように、色々な意味で会社内でもなかなかに評判宜しくない人である。

「じゃぁさ、自己紹介も終わった事だし、もう席替えしない? 最初は話したい人の所へ移動するって事で――移動開始!!」

 何故か近藤先輩が仕切り始めた合コンは、ひとまず先輩の言う通りに進行していく。


「ごめんな佐藤」

「ん?」

 はじき出されるようにして、端で静かに飲んでいた俺の横に葉山が腰を下ろし、俺の耳元で静かに謝罪する。


「先輩……勝手に来ちゃったんだよ」

「あぁ。そういう事に鼻が利きそうだもんな」

「まぁな。しかもさ、先輩あの子の事狙ってるらしくて……」

 葉山が親指で指し示した方へと視線を移すと、そこには近藤先輩に話しかけられてちょっと困った顔をした新見知佳にいみちかさんの姿が有った。


「まぁ……会社の顔っつーか、マドンナって言われてるからな。先輩じゃなくても狙ってる男はいるだろ?」

「まぁな。でもあそこまであからさまじゃねぇよ」

「確かに……」

 何度も席替えが有ったのにもかかわらず、先輩は何故かいつも新見さんの近くに腰を下ろして話をしている。


「佐藤も少しは楽しんでくれよ? お前と話をしたいっていう子がいるから、このセッティングしたんだから」

「へぇ~そんな子がいるんだな……」

 葉山の言っている事を話半分に聞きながら、俺は俺の近くへと腰を下ろしてくれた人たちと当たり障りのない話をして、自分なりには楽しんでいた。


「宴もたけなわではなりますが!! この辺で一次会は締めたいと思います!!」

 

 合コンが始まって既に2時間と少しが経った頃、葉山が一人立ちあがると、そう音頭を取って一次会を締める。


 盛り上がっていた人達で二次会へと流れる事になったのだけど、俺は何となくそういう気分になれなかったから、一次会で帰宅することにした。


「悪い葉山俺はこの辺で――」


「いいじゃん!! これから二次会行こうよ!! ね? 皆で行くんだからいいでしょ? あ、それとも俺と二人きりでの方がいいのかな?」

「ちょ、ちょっと……」

 お店の出口でお会計を払う葉山と共に外へと出てきた俺は、葉山にそう言って帰ろうとしたのだけど、その少し先でそんな話声が聞こえて来た。


「なにない? 照れること無いでしょ? あれでしょ? 今日の中で俺が一番イケメンでしょ? ね? だから一緒に行こうよ」

「は、放してください……」

「なんで? これからじゃん? いいから行こうよ? 先輩がこう言ってるんだよ? 行かないと――わかるでしょ?」


 そこまで聞いた瞬間に俺は先輩の前へと進み寄っていた。


「先輩それ以上はダメですよ」

「あん? 邪魔すんなよ佐藤。俺はお前には用事無いんだよ。ね? 新見ちゃん」

「い、嫌です!!」

「ほら先輩彼女も嫌がってるじゃないですか。それ以上はパワハラになっちゃいますし、セクハラになっちゃいますよ?」

 俺は無理矢理二人の間へと体を入れた。


「っ……とに邪魔すんじゃねぇよ!! この陰キャ野郎が!!」

 スッと俺は体を新見さんの正面から少しずらして、新見さんには被害が及ばないようにすると、その瞬間に顔に衝撃が有った。

 ドカッ!!

 ガスッ!!


「あっ!? 近藤さん何してるんすか!! 暴力はいけませんって!!」

「るせぇ!! こいつがしゃしゃり出てくるのが悪いんだろが!! 俺は新見ちゃんと一緒にこれから二人きりの二次会に行くんだよ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」

 慌てて男性陣が近藤先輩を抑え込む。然しそれさえも振りほどきそうな勢いの近藤先輩。


「……いってぇ……」

「佐藤さん大丈夫ですか!? きゃぁ血、血が出てますよ!!」


 激高した近藤先輩に殴られて、顔に鈍い痛みが走る頬を拭いながらも、俺は新見さんのそばから離れる事はしないで、近藤先輩の様子を伺っていた。


「ちょっと先輩やりすぎですよ!!」

「くそが!! 覚えてろよ佐藤!! お前会社に居られなくしてやるからな!!」

 抑え込まれ、遠くへと運ばれながらも近藤先輩は俺に対しての暴言が収まらなかった。


「す、すみません皆さん。こんな状況になってしまって。あの皆さんにお怪我など無いですか?」

「そんな状況になっても私たちの事を心配してくれるんですね」

「さすが佐藤さんです」

「うん。これは逃がしちゃいけないわね」

 店の前で固まって様子を見ていた女性陣に俺は頭を下げるが、なぜか皆が皆「気にしないで」と言って、それよりも怪我の具合などを逆に心配してくれる。


「まぁ、この事は後で何かしらあると思うし」

「そうね」

「じゃぁ知佳ちゃんお願いね」

「は、はい!!」

 そう言いながら、俺と新見さんを残して、女性陣はその場から歩いて去っていく。


「あ、あの……大丈夫ですか?」

「え? あぁ、うん。ちょっと……痛いけどね。俺は平気だよ。それよりも新見さんは大丈夫? 怪我とかしてない?」

「わ、私は大丈夫です……けど……」

 そっとハンカチを俺の口元に当ててくれる新見さん。


「あの……もしよかったら――」


「あれ? 光毅じゃない? どうしたのこんなところで……」

「え?」

 新見さんが何か言いかけたところに、前から歩いて来る集団に声を掛けられる。


「あ、あね――」

「え? なになに? ちょっとケンカ? 誰にやられたの!?」

 俺の顔が見えるところまで来ると、ハッとした顔になった今野さんが走り寄って来て、俺の顔へと手を当てて叫ぶ。


「あの……」

「ん? あ、あなたは確か受付の……」

「はい新見知佳です。それでその実は――」

 新見さんが事のあらましを話すと、それまで眉毛を下げて心配していた顔が、一瞬にして般若の様な表情へと変化した。


「そう。近藤さんね。はぁ……まったくやってくれるわね。大事な子に……」

「え? 大事な……こ?」

「うんありがとう新見さん。ちょっと光毅大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。一人で帰れるから……。それよりも新見さんの事を――」

「あ、あの!! 佐藤さんの事よろしくお願いします!! わ、私はこの辺で失礼しますので!! だ、大丈夫です一人で帰れますから!!では!!」

「え?」

 いうが早いか新見さんは走って駅の方へと行ってしまった。


「あぁ……はそういう事?」

「ん? どういう事だ?」

「ん~……。まぁちょっと後で考えるわ。まずは手当てしないとね。さ、帰るわよ」

「いいって一人で帰れるから」

「何言ってんのよ!! ちゃんとあなたからも聞かなきゃいけないことが有るんだからだ~め!!」

「……仕方ないなぁ……」

 そうして俺は、今野さんと一緒に居た方と共に家路へとついた。




 その日から毎日、俺は受付の前を通る時に、誰からも挨拶をしてもらえなくなった。






 なぜそうなったのかは見当がつかない。ただ仕事をしている以上は受付の方々と話をしなければいけない事もあるので、そういう時は話を聞いてはくれるけど、それ以外の事に関しては一切何も返答してくれないという日々が続いた。


 会社の中の同僚たちも、何故そのような態度をとるのか聞いてみたことが有るらしいのだけど、誰一人として明確な答えをいう事を避けている様で、俺と同じように悩んでくれている。


 中でもあの日、一緒に行動していた葉山と鹿目は俺の怪我の事もあって心配してくれているけど、明確な答えを出すことが出来ず、申し訳なさそうにしていた。


 そんな中でもあの近藤先輩は出社して、あの日以来俺に対するあたりは強くなった。


「おい能無し!! こんな事もできないのかよ。だから女にもてねーんだよ出直してこい!!」

「あぁ!! ここが間違ってるだろが!! 何回言ったらわかるんだよ!!」

「こんな仕事もできないから能無しって言われるんだぞ!! お前は出世しねぇよ」

「もうさ……お前辞めたら?」

 など等。けっこうな暴言の嵐が、毎日の様にフロアに吹き荒れる。あまりにも酷い言い方に、見かねた上司が注意をするけど、その日だけは大人しくなるものの次の日になると忘れてしまったかのように、同じような暴言の嵐が俺の周囲にだけ吹き荒れていた。


「あれそろそろヤバくないか?」

「そろそろっていうか……前から酷かっただろ」

「輪をかけてひどくなりましたよね最近」

 葉山と鹿目と共に、一緒に昼食に出かけると、最近は近藤さんの事が話題に上ることが多い。


「そういえば聞いたか?」

「何を?」

「凝りもせずに新見さんの所に毎日通ってるらしいぜ」

「そうかぁ……でもなぁ……行きづらいんだよなぁ」

「あぁ、佐藤先輩何故か受付嬢さん達に嫌われちゃってますもんね」

「どうしてそんなに嫌われてんの?」

「知るかよ!!」

 葉山も鹿目も不思議そうに俺の方を見るけど、そんなの俺の方が聞きたいくらいだ。


「まぁいまの俺にはどうしようもないかな……」

「一時期はヒーローだったのにな」

「落ちる時は早いですねぇ……」

「お前らなぁ……」

 昼食を食べて会社へと戻って来ると、受付の前に肘をつき、受付嬢さんと話をしている男性が居た。


「おいあれって……」

「そうだな。近藤だ……」

「またやってるんスかあの人……」

 そうして俺達が受付の近くまで来ると、この日のこの時間の受付をしていたのが新見さんだったらしく、彼女は一瞬俺の事を視て目を大きくしたけどすぐにスッと逸らし、近藤先輩からの話をジッとしながら聞いていた。


「ね? いい加減に俺と付き合いなよ。俺ってけっこう有望株なんだよ? 俺と付き合えばこの先安泰なんだからさ」

「今、勤務中ですので、そういった話は後に――」

「後にって言ってもさ、新見ちゃん話を聞いてくれないじゃん? だからこうして俺が来てやってるんだよ? そろそろ俺もさぁ限界なんだよね。だからね?」

 近藤先輩が新見さんの腕を掴んだ瞬間に、俺は無意識のうちに彼らの方へと歩いて向かっていた。


「おい佐藤!?」

「先輩!?」



「いい加減にしませんか?」

「あん? 誰――またてめぇかよ!!」

「佐藤さん……」

 彼女の腕を握る近藤先輩の腕をギュッと握り、俺は力を込めていく。


「は、放せよ!! い、いて……」

「あなたがその手を離したら、俺も離しますよ」

「ちっ!! クソこのバカ力の能無し野郎が!! 何回も邪魔すんじゃねぇよ!!」

 あまりの痛さにやっと手を離した近藤先輩。その隙をついてその場から離れる新見さんと、新見さんを守るように立つ葉山と鹿目。



「は!! いい度胸してるじゃねぇか!! お前ら一度ならず二度までも邪魔するなんて、覚悟はできてるんだろうな!?」

「覚悟って何のですか?」

「お前らが会社をクビになる覚悟だよ!! 俺が一声かければおまえらの首なんてすぐに――」


「出来るのあなたに?」

「なんだと!? ってなんでお前が……それに専務まで……」

 俺達がにらみ合っているところに、連絡を受けていたのか、見知った顔の二人が歩み寄ってきた。


「近藤くん。話は聞いているよ。しかし君の声で首を切ることが出来るのか。そうか。良いこと聞いたよ。その件も含めて調査しないといけないね」

「あ、いえ、その、ち、違うんですよ。これはこいつ等が悪いんですよ。私は何もしてません」

 専務の声にそれまでの威勢の良さが失われる近藤先輩。


「残念だけどね、あなたのこれまでの事、色々と調査させてもらったのよ。そうしたら出るわ出るわ……。パワハラにセクハラ。そうして恐喝まがいの事までしているのね。呆れちゃうわ。それに暴力事件まで」

「ぼ、暴力事件? いえ、私は知りませんよ暴力事件なんて……」

「そう? でもこうして動画になって上がってるわよ?」

「え?」

 今野さんが見せてくれるスマホには、あの日俺が殴られるところがばっちり映っていて、その後の暴言などもしっかりと録画されていた。


「あ、いえ、これはちょっとした――そ、そう!! これは教育でして!! 先輩に対する態度を教えていたんですよ。ですから暴力では――」

「残念だけど、彼に協力してもらって、既に警察には被害届け出てるので、もうすぐあなたの元に来るんじゃないかしらね?」

「え? け、警察が……」

「あ、ほら……噂をすれば……」

「あ……、あ、あぁ!! そ、そんな!! ご、す、すみません!! 謝ります。なんでもしますだから警察にだけは――」


「もう遅いのよあなた。どうして私達がここに来たのかわかるかしら?」

「え?」

「彼はね、いや……光毅君は私の義理の弟なのだよ」

「「「「は?」」」」

 専務の言葉にその場にいた社員一同が驚きの声を上げる。


「それと、私の弟でもあるわね」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 俺に向かいウインクする今野さん。いや姉貴。



「弟……さん?」

 そして小さな声でつぶやく新見さん。


「あぁ~いやだぁ!! 俺は何もしていない!! なぁ助けてくれ!! なんでもするかr――」

 警察の人に肩を取られながら、会社の外へと引っ張られるようにしていく近藤先輩の声は、虚しく小さくなってやがて消えて聞こえなくなった。


「さて……と」

 そうしてつかつかと俺の方へと歩いて来る姉貴。


「新見さん?」

「は、はい!!」

「ちょっと誤解しているみたいだから言っておくとね。私は旧姓佐藤なの。佐藤弘美。つまりはそこに居る光毅の実の姉で、専務の妻なの」

「え? ほ、ほんとうに……?」

 新見さんが俺の方へと視線を向けるので、俺は頷いてソレを肯定した。


「知佳ちゃんでいいかな?」

「は、はい!!」

「かわいいわね。えっと知佳ちゃんはもしかして光毅の事が?」

「え? え? っと……」

 新見さんの顔がぼっと赤く染まる。


「うん。そっか。その様子を見るだけでわかったわ。あとは二人でね?」

「は、はいぃ~……」

 新見さんにニコッと笑顔を見せると、専務と一緒にエレベーターの方へと歩いていく。


「姉貴!! 義兄さん!!」

「ん?」

「ありがとう……」

「どういたしまして」

 ふわりとした笑顔を見せる姉貴と、手を振る専務。そしてそのまま二人はエレベーターに乗って行ってしまった。



「さぁてと……俺達はお邪魔みたいだしな」

「そうですね!! あ、皆さんも御一緒に!! お邪魔にならないように出ていくっスよ!!」

 葉山と鹿目が俺に手を振る。


 そして誰もいなくなったところで、新見さんが話しかけて来た。


「あ、あの……」

「ん?」

「覚えてますか? その……入社試験の時の事……その時ヒールが折れてるところを助けてもらってから、佐藤さんの事がその……」

「え?」


 そう言われて思い出す。

 新見さん達が入社してきた時の入社式の日に、会社の少し手前でヒールが折れてしまい、足をケガしてしまっている女性が居た。それを見つけた俺が女性を背負い、会社の医務室へと送り届けたことが有った。


「あぁ!! あの時の!!」

「はい!! ありがとうございました!! やっとしっかりお礼が言えます!!」

「うんそうか良かった。心配してたんだよ」

「あ、あう……それでその……。私とお付き合いしてくださいませんか?」

「え? お、俺でいいの?」

「はい!! 佐藤さんがいいんです!! 佐藤さん以外じゃダメなんです!!」

「そっか……。うん。じゃぁ――」




 その後、俺達は会社内の公認カップルとなり、数年後に結婚を果たした二人の間に新たな命が誕生するのであった。




※あとがき※

お読み頂いた皆様に感謝を!!


 本当はですね、他では2話構成での掲載なのですけど、ギュッと纏めて1話にしました。 


 お楽しみいただけたら嬉しいです。(*^▽^*)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうやら受付嬢に何故か嫌われている俺。理由は彼女の勘違いでした 武 頼庵(藤谷 K介) @bu-laian

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ