ジ・オード

胃にダイレクト

第1話 シラハという青年

ザザッ―――


「この世界は、世界に平和をもたらした英雄、まだらの戦士が転生し、平和な世界を謳歌するありきたりな物語である!」


ザザッザ―――


ノイズがひどくてラジオ小説が聞き取れない。


「クソっ、こりゃひどいな。ラジオの電波全然拾えねぇ。」


フロントガラスを前のめりで覗き込み、意味もなく電波のありそうな空間を探す。アクセルをやや強く踏んでしまい、慌てて首をひっこめる。

繁華街を抜け出して、ビルの背が低くなりつつあるものの、いまだに車は目的地に着かない。ため息をつきながらカーナビを覗き込む。目的地のイワクラ傭兵専門学校まではあと2分だ。


恥ずべき戦争からはや10年。世界中で軍や警察への不信感が高まった結果、武力は民間企業に集中。防衛、攻撃、護衛、治安維持等、武力が必要な場面では常に傭兵に委託され、世界は傭兵バブル真っ只中でいた。


イワクラ傭兵専門学校に到着したシラハが車のドアを閉める。


「しっかし、イワクラ傭兵専門学校が本当に存在するとはなぁ。」


イワクラ傭兵専門学校は、数ある傭兵学校の中でも世界最大かつ最大手としてその名を馳せている。この学校で最高の実力を誇る者は、すなわち世界一の傭兵と称されるのだ。


係員「受験生はこちらにお並びくださーい!」


係員たちの指示に従い列に並んだが、受付はおろか、入り口すら見当たらない。胸中に膨らんだ期待感を憂鬱感がいさめた。


~~4時間後~~


「よ、ようやく受付にたどり着いた...」


どうやらここにミルコちゃんがいるらしいが...記入用紙に名前を書く前に物思いにふける。


「え~っと...」


立ち往生する様子を不思議に思った受付スタッフらしき人物がこちらへと歩み寄ってきた。それに誘われるように、周囲の視線も一斉に自分へと注がれる。


「もしかしてシラハ?」


シラハ「その声、も、もしかしてミルコちゃ、さん⁉」


ミルコ。黄金の髪に透き通った黄金の皮膚。黄金人種と呼ばれる人種でモデル顔負けの美貌を誇る。


ミルコ「シラハ~!!!!久しぶり~!!!!」


ミルコがシラハに抱き着く。


シラハ「久しぶり~!!!!!ほんとにいた!!!!」


ミルコ「ほんとに来てくれた!すっごーーくうれしい!!!!!」


会話を交わそうとしたシラハとミルコだったが、激しさを増したざわめきが二人の間を遮った。


「「すげぇ!ミルコだ!」」

「「イワクラの勝利の女神!」」

「「かわいい〜!」」


ミルコ「は、早く名前を書いて!」


ミルコがシラハの左手を取り、せかすように上下に揺らす。


シラハ「ああ、わかった!」


シラハが慌てて書いた文字は乱れていたが、ミルコがそれでもわかるからと説得し、シラハが納得する前に奥に引いて行った。


シラハ「すごい人気なんだなミルコ・・・さんは」


ミルコ「久々だからって遠慮しなくていいのに~。ミルコでいいよっ!恥ずかしがるなんてかわいい~(笑)」


シラハ「でもミルコすごいきれいになったよね。なんか遠い世界に行っちゃった気分」


ミルコ「ほんと⁉シラハに会えるのが楽しみで自分磨き頑張りすぎちゃった!なんちゃって...(笑)」


ミルコは照れたように微笑み、そのはにかんだ表情には、かつての彼女の面影が確かに宿っていた。


2時間後、シラハとミルコの尽きない会話を遮るかのように、館内放送が流れた。


館内放送「受験者の皆様、受付はすべて完了いたしました。本日はこれにて解散とし、明日午前9時に再度お集まりください。」


シラハ「ここまでか……」


ミルコ「名残惜しいけど、今日はここまでみたい。じゃあ、また明日ね!」


シラハ「明日、会えるかな……?」


ミルコ「当たり前でしょ! 私の未来視のこと、忘れたの?」


シラハ「そうだった……! じゃあ、また明日!」


ミルコ「そうだシラハ!明日、絶対に力を使わないでね...!」


シラハは生返事をしながら出口へと歩き出す。曲がり角で振り返ると、ミルコが手を振っており、その姿に安心しながら、名残惜しさを胸にその場を去った。


翌日


アナウンス「これより第5回、イワクラ傭兵専門学校入学試験を行います。」


第一試験は筆記試験だった。結論から言えば、シラハは満点で合格した。

出題されたのは、シラハが5歳のときに習った内容ばかり。あまりに簡単だったため、彼は学力というよりも、自身の記憶力を内心で誇らしく思った。


アナウンス「第二試験は実技テストです。配布された受験番号の順に並んでください。

第一テストは身体測定。第二テストはバックパックブースターを装着しての起動テスト。第三テストは各種銃器を使用した射撃テスト。第四テストはさまざまな近接武器を用いた格闘テストです。

以上が第二試験の内容となります。詳しい説明は、それぞれのテスト会場にて行います。


そして、このテストは受けたテストが合格水準を下回った場合、次のテストを行うことができません。


では、1番から30番の方、会場へお入りください。」



第一テスト。握力、上体起こし、反復横跳び、50m走、砲丸投げ、20mシャトルラン。シラハは力を使わず、すべての競技で合格水準よりやや上を通過し合格した。


そして、第二テストであるバックパックブースターの起動テストに向かう。

ただし、装着機材の数には限りがあり、受験者たちの間には待ち時間が生じていた。

シラハは「早く試したい」という歯がゆさを覚えながらも、黙って順番を守って待つ。


やがて、周囲がざわつき始めた。

初対面同士の受験者たちが、ぽつりぽつりと雑談を交わし始めたのだ。


男1「なあ、噂のエクスカリバーって今何人持ってんのかな。」


男2「エクスカリバー?なんだったっけそれ?」


男1「盾やバリアを無視して敵本体をぶった切れるビーム剣だよ」


男2「ああ、あれか。聞くところ相当高そうじゃねぇか。」


男1「そりゃあそうとも。だが、値段は問題じゃねぇ。重要なのは相性さ。」


男1「エクスカリバーは未だ理論値を出せていない。相性の悪い人間がそれを使うとダメージが大きく減少する。しかも刀身の色まで変わるんだぜ?相性の悪い順に赤、オレンジ、青ってな感じだ。青に刀身が光ったことはないんだとよ。」


男2「光ってないのになぜ青色の存在を知っているんだ?」


男1「さあな、俺もそこまで詳しくねえ。なんてったって最近作られたばかりの新型なんだからな。」


シラハ(エクスカリバーか)


係員「では560番から595番まで来てください」


シラハ(おっ!ちょうどいいや。サクッと受けちゃいますか!)


係員「それではテスト用のスーツを上から着てください。

着用しながら聞いてください。筆記テストで出たのですでにご存知かもしれませんが、ブースターの推進剤は身体から溢れるコドーを使用します。合格水準は5分間の飛行です。それでは頑張って下さい。」


シラハ「よーし、やっちゃいますか!」


2分後


シラハ「お、おかしい...こんなはずでは...」


初めて使うバックパックブースター。挫折を知らなかったシラハにまさかの誤算。


シラハ「ふん!ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


力むものの、ブースターの出力は徐々にしりすぼみに。

そして、4分を超える前にとうとうシラハはしりもちをついてしまった。


係員「シラハさん、失格です。」


シラハ「うそでしょ!? で、でも4分はもったし、テストパスでいいよね⁉ ね⁉」


係員「残念ですが……傭兵の作戦行動および、それに伴う本校の訓練には最低5分の滞空時間が求められますので……」


シラハ「噓だ…そんなの噓だ!ミルコさんを呼」


ミルコ「んだ?」


シラハ「うぉ!ビックリした!

いやそれどころじゃないよ!どういうこと⁉」


ミルコ「失格しちゃったね?」


シラハ「いいのこれで⁉ 受からないことが正しい未来なの⁉」


ミルコ「いいえ。受かるのが正しい未来よ。」


シラハ「でも現に落ちちゃってるじゃん!」


ミルコ「大丈夫。シラハは受かるよ!

思っているより早く。ね。」


シラハ「え...?それってどういう」


ドカーン! 爆音とともに会場が激しく損壊した。一拍遅れて、会場から悲鳴が響き渡る。


受験者「何なんだ!」


アナウンス「皆さん落ち着いて係員に従って避難してください!」


混乱する会場の中で受験者の一人が叫ぶ。


受験者「りゅ、竜族だー‼」


受験者の視線の先に一人、竜族がいた。


竜族は、タンポポの綿毛に似た種を息で吹き飛ばして攻撃する。

種は風に乗って舞い、着弾した場所で手榴弾のように爆発するのだ。


連続爆破により会場の混乱はますます深まる。


竜族「ノラはどこだ!さっさと出てこねぇとここの人間全員皆殺しだぞ!」


???「土足で踏み込んでおいて名乗りもなしか!」


オペレーター「マクヤ先行しすぎです!下がって部隊と連携を!」


マクヤ「その部隊の方が遅いんだよ!早くこさせろ!」


シラハ(あれは!オレンジのエクスカリバー!)


竜族とマクヤとの戦闘が始まる。


{戦闘状況}

2分ほどの戦闘の末、マクヤ劣勢。

{戦闘状況}


勝負の決着は受験者をかばったマクヤの敗北に終わった。


マクヤ「ぐあぁ!クソッ!」


マクヤの片腕が吹き飛んだ。


エクスカリバーは宙を舞い、シラハのもとに落ちてく来た。


シラハ「...! そういう事か!」


シラハはエクスカリバーを拾い、試験用のバックパックブースターも持っていく。


{戦闘状況}

タンポポの種爆弾を手に持っているブースターで竜族側に飛ばし、竜族付近で爆破させ、竜族を怯ませる。爆破でできた死角からシラハが突っ込みエクスカリバーで撫で斬り。

{戦闘状況}


事態が収拾し、一息つくシラハ。


受験生「お、おい、あれ。」


受験生たちがどよめく


受験生「エクスカリバーが...





白く光っている...」







イワクラ「竜族はどこだ!」


遅れてイワクラ理事長がやって来る。理事長は現場に着くとシラハと目が合った。


シラハ「マクヤさんにキュアーゼを!」


イワクラ理事長は言われた通りにマクヤに弾丸を打ち込む。そしてシラハに近づきエクスカリバーの様子を見る。


イワクラ「君の名は?」


シラハ「シラハです」


イワクラ「そうか、シラハ君。テストの結果がどうだったかは知らないが君を飛び級合格にしよう。」


シラハ「ほんとですか⁉やったー!」


イワクラ「そして、とても申し訳ないんだが。シラハ君」


シラハ「...?はい。」










イワクラ「君を拘束する」

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ジ・オード 胃にダイレクト @inidairekuto

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