元カレが異世界に行ったかもしれない
芝草
こんな話、誰にも言えないな。
――オレ、異世界に来ちゃったかも。
あたしが明日の期末テストに向けて、徹夜覚悟の勉強を始めようと教科書を開いた時だった。
元カレのアイツから、そんなメッセージが届いた。
ずぼらなアイツは、付き合ってる間も滅多に連絡してくれなかった。
あたしが毎日のように「おやすみ」とか「おはよう」とか、メッセージを送っても、「どうせ明日、学校で会うじゃん?」と、スタンプ一つ返してくれなかったくせに。
今更何を言うかと思えば、異世界だって?
こんなふざけたメッセージ、無視してやろうか、と思った。でも。
――どしたの、いきなり。
気がついたら、あたしはそう返信していた。
アイツのことだから、と、返事は全然期待してなかった。
でも、あたしがテスト勉強に戻るより早く既読が付き、間髪入れずにアイツからの返信が来た。
――いや。オレもよくわかんない。でも、塾の帰り道に、急に光に包まれて。気がついたら知らない場所にいた。
――なにそれ。知らない場所って、どんな感じなの?
――めっちゃ田舎の村みたい。電気とかガスとかもないくらいの。で、オレを助けてくれた村の人、よくわからん呪文を唱えて火とか水とか出してる。
――え、何それ。魔法ってやつ? 異世界じゃん。
――だから、そうかもって言っただろ。
ここにきて、あたしはちょっと混乱していた。
アイツが、わざわざこんなメッセージを送ってふざけるなんて、まどろっこしいことするかな?
あたしをからかうにしても、アイツらしくないな、と。
あたしはちょっと考えてから、返信した。
――なんで私にそんな話するの?
――お前、こういう小説よく読んでたろ? 異世界とか、魔法とか。だから、詳しいんじゃないかと思ってさ。なんか、帰り方のヒントとか分かんねーかな。
――悪いけど、そんなヒントとか分かんないよ。それより、あたしは数学の教科書八〇ページの問一五のヒントの方がほしい。
――頼むよ。問一五のことは置いといて、真面目に考えてくれ。まともに話を聞いてくれそうなの、お前しか思いつかなかったんだ。こんな話、他の誰にも言えないだろ。笑われちまう。
――そうは言ってもね……。
その後、アイツとのメッセージをやり取りは、朝まで続いた。
アイツのスマホのバッテリーがやばい、とのことでメッセージのやり取りはいったん終了になったけど、問一五のヒントも、アイツが異世界から帰るヒントも全然分からないままだった。
これじゃ、今日のテストは絶望的だ。学校で会ったら、アイツに文句を言ってやろうと思ってた。
でも、アイツの席は、その日のチャイムがいくつ鳴っても空っぽのままで。
ついに、下校のチャイムが鳴り終わってしまった後に、あたしは今さら気づいた。
どうやらあたしは、もう一度アイツに会いたいらしい、ということに。
でも、だとしたら。こんな気持ちはアイツだけには絶対言えないな。
「お前、オレのこと好きじゃんかよ」って、きっとアイツに笑われてしまうだろうから。
元カレが異世界に行ったかもしれない 芝草 @km-siba93
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます