憧れのアイドルと推し活と野外ライブと 後篇
これから何が起こるか分からない。そんな、緊張感漂う最中、美麗にライトアップする東京タワーを背に、滝沢しょこら単独野外ライブが始まった。
カウントダウンが始まり、バンドの生演奏が始まると、華やかな衣装を身に纏い、割れんばかりの歓声に迎えられた滝沢しょこらがステージ中央に立つ。
スポットライトを浴び、笑顔で唄って踊るしょこらが二曲めにさしかかった、その時だった。目を丸くしたしょこらが、ステージ上で立ち
観客席にいる少女が一人、ステージ上から流れる伴奏に合わせて歌詞を口ずさむ。
力強くも美声を奏でる少女の、プロ顔負けの歌唱力がざわつく会場を鎮め、やがて少女の歌唱を中心にして観客が唄い出し、波紋のように広がった。心を一つに、一万人ものファンの歌唱で我に返ったしょこらは状況を把握。タイミングを見計らい、笑顔で唄い出す。アクシデントはあったものの、その後は順調にライブが進んだ。
観客席からプロ顔負けの歌唱力を発揮し、会場内にいるファンを巻き込んでアクシデントを回避したさくらは、いつものようにステージで唄って踊るしょこらを、ほっと安堵した表情で見届けると退席した。
だれもいない場所までやって来たさくらは、手にした、金色の星のクリスタルが真ん中にはまる十字架を天に翳すと、青いマントを靡かせたマジカル
さくらはもっか、
さくらが連載する少女漫画のタイトルと言うのが、『美少女戦士 マジカル
剣次から
「―― 次の曲は、私が初めて作詞しました。なので緊張しますが……どうか、最後まで聴いてください! アニメ『美少女戦士 マジカル騎士』の挿入歌で、ミラクル・マジカル!」
しょこら自ら、自身の曲紹介をする。その後、バンドの演奏が始まり、しょこらが唄い出す。
『
もう生きられないと絶望した僕に
希望をくれた気高き
僕は今でも覚えてる
あの時、貴女が教えてくれた秘密の呪文を……』
希望に満ち溢れるしょこらの歌唱を背に、夜空へ飛び立ったマジカル騎士が空中に浮かぶと、眼下に広がる観客席を眺める。
観客席の、前列に狙いを定めるとマジカル騎士は、左腰に差している剣をやおら引き抜いた。
『ミラクルマジカル、幸運の星いでよ!
みんなに届け、傷を癒す無敵の呪文!
そう、それは……
落ち込んでくじけた僕を強くしてくれる魔法の言葉』
「あなたのせいで、どれだけ彼女が傷ついたか……神と契約する私の
マジカル騎士は辛辣にそう言うと、眼下に向けて剣を振り下ろした。剣の
銀色の光線に貫かれた男性は無言で退席すると、誰もいない会場内でガクッと膝から崩れ落ち、そのまま意識を失って倒れ込む。男性は、三ヶ月前にしょこらを襲い、現在逃走中のストーカーだったのだ。
『もう絶対に諦めないって貴女と誓ったあの夜
天使になった僕が月のスポットライトに照らされて歌う夢を見た
緩やかな神風に舞う花びらに呪文をかけて……
ミラクルマジカル、希望の星いでよ!
みんなの心に響け、愛奏でる星屑の唄!
そう、それは……
夢を諦めかけた僕に元気と勇気をくれる奇跡の
どんなに辛くても、苦しくても、
この呪文を唱えると明るく笑顔を振り撒いて頑張れる
悲しくなったらミラクルマジカルと唱えて元気を出して
あなたにはもう越えられい壁はないから
勇気を出して。どんなときも、僕は貴女のちからになる』
自らが作詞した『ミラクル・マジカル』をしょこらは歌い終える。
こうして、美麗にライトアップする東京タワーを背に、滝沢しょこら単独野外ライブは無事、閉幕した。
ライブ会場で意識を失った男性はその後、会場内を巡回していた私服の警察官に発見され、警察病院へ搬送された後に逮捕された。警察や、滝沢しょこらの関係者達が三ヶ月前の逃走期間中に一体何があったのかと不思議に思うほど、まるで人が変わったように清く、穏やかな表情をした男性が素直に取り調べに応じ、己の過ちを真摯に受け止め、一生涯掛けて罪を償って行く、もう二度と滝沢しょこらには近付かないと固く誓ったことを、しょこらの公式サイトにて、運営から発表された。
子供の頃、誰しもがアイドルになりたいと憧れたものだ。
そして、憧れのアイドルになるためオーディションを受けて養成所に通い、レッスンを受けながら練習を積み、多くのオーディションに挑む。
アイドルとは、憧れだけでなれるものではない。しょこらのように、命に関わるほど恐ろしく、危険なめに遭うこともあれば、努力に努力を重ね、自身がアイドルになって初めて知る、ドロドロとした『裏事情』、そして想像を絶するほど厳しい現実に直面し、いいこともあれば悔しい思いの連続なのだ。
むろん、これらは全て、アイドルとは無縁の、
了
第三者の視点で紡ぐアイドルのお話 碧居満月 @BlueMoon1016
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