第50話 今カノは想像以上に重かった
「は、はは……冗談はきついですよ、由乃さん。俺、まだ高校生ですよ」
「くす、高校生なのに、私を孕ませるなんて言ったの何処の誰かしら?」
「あの、すみません! 調子に乗りすぎましたね! 謝りますから、どうかご容赦を!!」
やっぱり、由乃さん怒っていたみたいなので、とにかく頭を下げて、ご機嫌取りをする。
由乃さんが優しいからって、調子に乗りすぎちゃった自分が馬鹿すぎたが、由乃さんもこんなにも根に持つタイプだったとは……。
「くす、謝らなくて良いって言っているじゃない。陸翔には怒ってないどころか、むしろうれしかったんだから。そんなにも私のこと、愛してくれていたんだってね」
「ははは……まあ、そうなんですけど……」
俺の頭を優しく撫でながら、幼い子供をあやすように言った由乃さんが逆に恐ろしく感じてしまい、冷や汗をかいてしまう。
正直、何を考えているのか、わからないのが一番怖い……怒っているなら、ハッキリそう言って欲しいんだが、まさか本気じゃないよな?
「じゃあさ。陸翔は何歳になったら、子供が欲しい?」
「え?」
「今が嫌なら、何年後くらいに子供が欲しい? 高校を卒業したら? それとも私が大学卒業して就職したら? もしくは陸翔が大学を卒業して、お互い社会人になってからが良い? 陸翔はどう思う?」
「そう言われましても……」
よくわからないとしか、言いようがない。
俺が高校を卒業してすぐじゃ早すぎるし、大学を卒業して就職してからだと、えーと、何年後だ?
(ひい、ふう……あ、六年後か)
現役で大学に行ければという条件付きではあるが、六年後ならまだだいぶ先だ。
その間に由乃さんから逃げられる隙も……いや、何を考えているんだよ俺は!
「あ、そうですね。やっぱり、大学を卒業して一人前になってからが良いです」
「くす、そう。陸翔ならそう言うと思ったわ」
「ですよね、はは」
おっ、由乃さんもわかってくれたか。
そうだよな。今、子供が欲しいなんて本気で言う訳がないし、由乃さんだってその方が一番いいのはわかっているはずだ。
取り敢えず、しばらくは猶予が出来そうでほっとしていると、
「そうやって、結論を引き延ばして逃げようとするってね」
「は?」
由乃さんが笑顔のまま発した言葉を聞いて、一瞬固まってしまう。
「陸翔、あなた本当に私の事、好き?」
「好きですよ! もしかして、信じてくれないんですか?」
「私の事しか考えられないくらい好き?」
「も、もちろんです」
何を言いたいのか、真意はわからないが、由乃さんは好きだよ?
でも今の由乃さんは怖くて何か近づくの怖い。
「ふーん。そんなに好きなら、今の内に既成事実を作って、自分だけのしたいって思ったりしない? だから、私を妊娠させるなんて言ったんじゃないの?」
「あ、あれは……言葉の弾みというか、奈々子があんまりにしつこいんでつい……」
ああでも言えば、奈々子が黙るかと思って、脅しのつもりで言ったんだけど、由乃さんを怒らせることはある程度は覚悟していたが、まさかこんな展開は想像も付かなかったよ。
「そう。奈々子の事よ。あの子が、私達の交際を認めてくれる方法が一つだけあるわ」
「何ですか、それ?」
不意に由乃さんが思いも寄らぬことを言ってきたので、ビックリして聞き返すと、
「既成事実を作っちゃうことよ。私が陸翔の子を産めば、あの子ももう認めざるを得ないわ。奈々子は優しい子だから、私の子供を邪険に扱ったりはしないわ。そうよ……簡単な事だったわ。子供を作れば、奈々子も私達を認めるわ。陸翔が本気で私を好きだって理解するだろうし」
いやいや、その理屈はおかしいだろっ!
仮にそんな事を今したら、俺が奈々子に刺されかねないんですけど、それわかっているんですかねっ!?
明らかに暴走していないか……こんなにも攻めてくる性格だとは思わなかった。
「わかった? 奈々子に認めてもらいたいなら、私を本気で好きだって所を見せないと」
「そ、それは見せたいんですけど……」
「やーん、そうやって怖がっている陸翔も可愛いなあ♡んじゃ、そろそろ中に入ろうか」
「は、はい? いやー、俺制服なんで、まずいですよね!」
「着替えなさい。ほら、Tシャツ持ってきているから」
「く……」
もはや逃がさないとばかりの強引な態度に流石にうんざりしてしまい、ここから脱出ないか考える。
由乃さんは好きだけど勘弁して欲しいわ……奈々子だって、こんな強引な事はしてなかったのに、これじゃある意味奈々子より性質が悪い。
「今日はゴム付けても構わないから。それで安心でしょう?」
「あ、そうですね……」
と言って、由乃さんは俺にコンドームを手渡してきたので、ゴム付きならまあ良いかな。
「すみません、子供に関してはすぐに結論出ないんで、もう少し待ってくれませんか?」
「もう少しっていつ? 何分後?」
「あんまり意地悪言わないでくださいよ……てか、さっき言った大学卒業して就職してからじゃ駄目なんですか? 俺、由乃さんと少しでも肩を並べられるようになったら、そうしたいですよ」
「ふふ、ごめんなさい。その気持ちも嬉しいよ。陸翔はそうしたいんだね」
おっ、やっとわかってくれたか。
あんまりに押せ押せだったんで、逃げないとまずいと思ったが、今の言葉を信じるなら、俺の事を試していたって事なんだろうな。
そう安心した所で、由乃さんが貸してくれたTシャツに着替えて、ホテルに入る。
高校生なのにホテルに女子大生の彼女と出入りとか、どんだけませているんだろうな、俺。
というか由乃さんも随分と変わったよな……何か口調も奈々子みたいになってきたし、ファッションも垢抜けた感じになってしまい、何だか最初の頃と別人と付き合っているみたいな気分になっていた。
「くす、今日はわざわざ遠くまで付き合ってくれてありがとう」
「いえ……俺も会えてうれしかったです」
ホテルから出た後、車で最寄り駅まで送ってもらい、由乃さんとお別れする。
はあ……結局、今日もやってしまったか。
ま、俺が言い出したことだし、付き合っているんだから問題はないんだけど、何だろうなこの虚無感は。
由乃さんが満足するためにひたすら奉仕させれているような……ま、こういう関係も悪くないと思い直すしかないか。
「ふふ、陸翔も純粋な子ねえ。騙されたりしないか心配だなあ」
「はい? どういう意味ですか?」
「うーん……いずれわかるんじゃない?」
「は? 気になるんですけど……」
車から出ようとすると、由乃さんが意味深な事を言い始める。
「ねえ知っている? ゴムを付けていても出来る時は出来るんだって」
「え……そ、そうなんですか?」
「そうなんだって。だから、今日も安心じゃないかもねー」
「お、驚かさないでくださいよ」
由乃さんが不穏な事を言ってきたが、まさか穴でも開けてないだろうな?
まさかねえ……そんな事はしないと信じますよ、由乃さん。
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