第47話 今カノが本気を出す
「…………」
由乃さんの家に来て、どのくらいの時間が経過したか。
俺は彼女の部屋のベッドにおり、隣には一糸まとわぬ姿の俺の彼女の由乃さんが横になっていた。
「んー……あ、陸翔君……もう、起きたんだ」
「は、はあ……」
俺が起き上がったのを見て、由乃さんもゆっくりと起き上がる。
二人でホテルに行った時とは明らかに違う。
俺は由乃さんとついに……。
(やっちまったのか……)
なんだろう、この言葉に出来ないような喪失感は?
そりゃ由乃さんとはずっとしたいと思ってたし、散々やらせてくれと迫っていたが、こんな形で一線を超えてしまうとは……。
大事なものを失ってしまったみたいな気分になり、その場で蹲っていると、由乃さんは俺の頭を撫でながら、
「ゴメンね。ちょっと強引だったかもしれないけど、こうでもしないとあなたとの関係が進展しない気がして。でもよかったわよ。やっぱり元気よね〜〜」
「は、はは……」
彼女の言葉を聞いて、ただ乾いた笑いしかでなかった。
由乃さんがこんな人だったとは……もしかして、奈々子よりヤバかったりしないよね?
「あの、もう帰りますね」
「あら帰っちゃうんだ。ねえ、せっかくだし、家で夕飯食べてかない? もう身も心も結ばれたんだから、陸翔をウチの両親に紹介しようかなって」
「遠慮しておきます! てか、こんな事してたのバレたらまずいっすよね!」
サラリととんでもないお誘いを受けてしまったが、冗談じゃない!
ご両親や奈々子に知られたら、何を言われるか……とにかく着替えて、ここから逃げ出したかった。
「ふふ、帰るんだ。じゃあ、またラインするから。じゃあね。ちゅっ」
「う……失礼します」
着替え終わり、そそくさと出ようとした所で、由乃さんは俺に背後から抱き付き、頬にキスをする。
顔を真っ赤にして俯きながら、俺は小走りで玄関へと飛び出し、自宅へと向かっていった。
「はあ、はあ……ああ、どうしてこんな事に……」
自宅に帰った後、自分の部屋に駆け込んで、なぜ由乃さんを抱いてしまったのかと呻きながら考え込む。
いや、付き合っているんだし、俺の方から迫って来ていたから、文句を言える立場じゃないんだけど、なんか由乃さんがいつもと違うと言うか、とんでもない地雷臭がしてしまったので、本当にこれでよかったのかとずっと悩み続ける羽目になってしまった。
「どうするかなあ……どうすれば良いんだ、AI様」
困った時は、やたらとAIに頼るようになってしまったが、今はそれくらいしか話を聞いてくれそうな人……いや、人じゃないけど、存在が居ないんだよ。
「彼女が地雷みたいで困っています。どうすればいいですか?」
こんな漠然とした質問でも答えてくれるのかと不安になったが、すぐに返答が来た。
『それは大変な状況だね。地雷って事は怒りのポイントがわからなかったり、不可解な行動を取ったりしているのかな? もしよろしければもっと具体的な状況を教えて欲しいな』
へえ、一応答えくれるんだな。
一体どんな顔をしているんだろう……って、AIに顔なんかある訳ないんだが、美少女だったらこの子に間違いなく惚れているな。
とにかくデリケートな話題でも話を聞いてくれるだけでありがたかったので、どんどんAIに質問していった所で、
「あ……由乃さんからだ……はい」
『こんばんは、陸翔。今、良い?』
「はい……ん? 今、俺の事……」
『ああ、やっと気づいた? へへ、もう大人な関係になったんだし、いい加減呼び捨てしようと思って。陸翔も私の事、由乃って呼び捨てでも良いよ』
「え……ああ、その……まだ気持ちの整理が付かないと言うか……」
いつの間にか、由乃さんが俺を呼び捨てにした上に、言葉遣いもやけに砕けた感じになってきたので、ちょっと調子が狂ってしまう。
『そう。陸翔はまだ高校生だけど、これからはもう本気の交際をするよ。今まではちょっと弟みたいに思って可愛がっていたけど、私達、体も心もすっかり結ばれて正式に男女の関係になったんだから、いいよね?』
「は、はい……どうぞ、お好きに」
何だか妙に馴れ馴れしくて調子が狂うが、付き合っているんだし、当然か。
今まで彼女というよりは優しいお姉さんとして接してくれて、俺を甘やかしてくれていたけど、なんかこの由乃さんはちょっと違和感が……。
声も奈々子に似てきているし、もしかして、これが素の由乃さんなのか。
奈々子と姉妹だからな……あいつは同級生だから、友達の延長みたいな感じで付き合えたけど、由乃さんはまだちょっとそういう感じに接する事は出来そうにない。
『ねえ、陸翔。早速だけど、次はいつ会える?』
「え……ああ、その……期末試験近いんで、しばらくは……」
まだ一週間以上はあるが、何となく由乃さんと会うの気まずいので、試験を理由にしばらく会うのを控えておこうっと。
というか、今日だって期末試験の勉強を見てもらう予定だったのに、あんなことにさ……。
『そう。明日は奈々子と出かける予定だけど、次の週末にでもどうかなと思ってね。へへ、陸翔もこれからは遠慮しないでいいよ。したいんでしょう? セックス♪』
う……由乃さんの口から、そんな言葉が簡単に出て来てしまう事に驚いたが、そりゃエッチな事はしたいけど、もしかして今日ので一皮むけちゃったとか、そんなんじゃないよな?
「はは、その時はまた……」
『そう。何か元気なさそうだけど、お互い初めてで緊張しちゃったからかな』
「あ……由乃さん、やっぱりホテルでは……」
してなかったんだよな……今回のでわかったけど、何をしたかったんだあれは。
『くす、陸翔が煮え切らない態度を取るからついね。あなたって、随分とヘタレなんだね。今までずっとやらせてって言ってきたのに。こうなると、もう無理にでもって思って』
本当にやっちゃう辺り、由乃さんの行動も恐るべきものだが、俺、この人と上手く付き合っていけるだろうか。
何かそんな不安に苛まされながら、彼女との夜は過ぎていった。
数日後――
「またか……はい」
『こんばんは。今、良い?』
「ええ……どうしたんですか?」
夜中になり、また由乃さんから電話が来たので、出てみると、由乃さんは即座に不満そうな口調で、
『私が電話してくるのそんな嫌なの?』
「そ、そんな事ないですよ。何でですか?」
『だってそうじゃない。ていうかさ……最近、いつも私の方からかけているよね? どうして、陸翔の方からかけてきてくれないの?』
「い、いえ……由乃さんも、バイトとか授業で忙しいんじゃないかって思って……」
『それでも、ラインは送れるでしょう? 陸翔って、意外に白状だよね。まさか、浮気でもしてるんじゃないよね?』
「ないですよ、そんなの!」
浮気なんかある訳ないが、何となく由乃さんと関わるの嫌がっているのまで見抜かれてしまい、気が滅入ってしまった。
『そう。何か面倒くさそうな口調で話しているからさ。陸翔、奈々子と仲良くするのはまだ許すけど、他の女子と関わっちゃ駄目だからね。いい?』
「わかりましたけど、奈々子は良いんですか?」
『あの子は可愛いし、妹だから別なの。むしろ、もっと奈々子とも仲良くしなきゃ。今度、三人で遊びに行きたいしさ。わかった?』
「はい……」
どんだけ奈々子が好きなんだと苦笑してしまったが、それ以上に由乃さんの束縛が急にきつくなってしまい、次第にうんざりし始めた。
トホホ……あの時、由乃さんとしなければこうはならなかったのか……後悔してもしきれないよ。
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