第45話 元カノの後悔
「じゃあ、次は何処に行こうか?」
「あの、由乃さん……さっきのはやっぱり……」
「ん? なあに?」
ホテルから出た後、由乃さんは俺を逃さないとばかりに腕をがっしりと組んで、引っ張っていく。
いつものような由乃さんのおっとりとした笑顔が今は恐ろしく感じてしまい、冷や汗を掻きながら、彼女と歩いていったが、やっぱりおかしい。
(どう考えても嵌められている……)
だって、由乃さんとやった記憶なんか全くないし、感触もゼロだし、何より体が全然疲れてない。
あのまま眠ったまま、由乃さんに脱がされただけに違いないが、あの急な眠気は一体……そうだ。
「由乃さん、さっき飲んだ麦茶は?」
「麦茶? ああ、それならもう全部飲んじゃったから、ゴミ箱に捨てちゃったよ。また喉乾いちゃった? なら、ちょうどお昼時だし、何処か食べに行こうか」
「い、いえ……あの麦茶に何か入れませんでしたか?」
「何かって?」
一服盛られたとしたら、あの麦茶しか有り得ないと思い、聞いてみると、由乃さんもあからさまにすっ呆けたような顔をして聞き返してくる。
あにペットボトルの麦茶……そういえば、飲みかけだったような気がしたが……駄目だ、思い出せない。
特に変な味は感じなかったが、緊張していたせいで、がぶ飲みしちゃったから、何か盛られたとしても気付くのは難しかっただろう。
「由乃さん、正直に言ってくださいね。俺と由乃さんしてないですよね?」
「何を?」
「と、とぼけないでください……」
ここは街中なので、あまりはっきり言えなかったが、言わんとしていることくらい、由乃さんだってわかっているだろうに、意外に意地悪な人なんだな……。
「くす。私が嘘を付いているとでもいうのかな?」
「そ、それは……」
「じゃあ、確かめてみる?」
「はい?」
由乃さんは俺の顔に近づけて、小さな声で、
「私と陸翔君がしてないってなら、もう一度してみる? そうすれば、わかるよ」
「ど、どういう事ですか?」
何を言っているのか理解出来ずにいると、由乃さんが更に耳元に顔を近づけて、
「私、経験ないの。だから、嘘なら、あるはずだよね。膜が」
「…………」
とギリギリ聞き取れるくらいの小声で、由乃さんがそう言い、ようやく彼女の言葉を理解すると、顔が真っ赤になってしまい、言葉を失う。
「も、もう。あまり恥ずかしい事、言わせないでよね」
「う……ちょっ、由乃さんが……」
「ほら、行こう。お腹空いちゃった。そこで、ハンバーガーでも食べようか」
由乃さんも恥ずかしかったのか、俺の腕を引いて、近くにあったファストフード店に連れ込み、そこで昼食を摂る。
その間、由乃さんは終始、ニコニコ顔だったが、俺は食欲もロクに湧かず、彼女の話に適当に相槌を打つしかなかった。
「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ。あ、写真送るね」
「写真?」
昼食を摂ったあと、しばらく二人で駅前のショッピングモールをぶらつき、今日のデートも終わるが、別れ際に俺にそう言って、スマホで何かの写真を送信する。
「じゃ、またね」
「は、はい……」
一体、何の写真を送信してきたのかと、スマホを見て確認してみる。
「えっと……ぶっ!」
由乃さんから送信された写真を見て、思わず吹き出してしまう。
さっき、ホテルのベッドで一緒に寝ている時の写真や、由乃さんのあられもない姿の自撮り写真が何枚も……これ、ここじゃ見るのまずい。
「うう……どういうつもりなんだろうな……」
本当に俺と由乃さん、やっちまっていたのかな……だとしたら、記憶が全くないのおかしいし……。
というか、由乃さんの裸を俺はちゃんと見てすらいないぞ。
さっきの写真に写っていたかな……だったら、家に帰った後、ゆっくり鑑賞しておこうっと。
いや、そうじゃないって!
「はあ……帰るか」
ここで考えてもしょうがないので、一先ず家に帰って、ゆっくりと考える事にする。
しかし、由乃さんがあんな大胆な事をしてくるとは……優しくて、お淑やかな女性だと思っていたのだが……ああいう所は奈々子のお姉さんなのか?
これから、どうやって彼女と付き合っていこうか悩んだまま、家路へと付いたのであった。
「あ、いたいた。ちょっと良いか?」
「またなの? いい加減、話しかけないでって言ってるでしょ」
「頼むから来てくれよ。話聞くだけでいいからさ。由乃さんの事でさ……」
「く……どうして、私に聞いて来るのよ……」
次の日の放課後、廊下を歩いていた奈々子に声をかけて、強引に人気のない場所へと連れ出す。
露骨に嫌そうな顔をしていたが、由乃さんの名前を出すと、嫌々ながらも、付いてきてくれたので、意外に面倒見良い奴なのか、それとも由乃さんの事を放っておけないだけなのかわからないが、とにかく今は奈々子にちょっとだけでも話をしたかった。
「それで、何なの?」
「あー、その……由乃さんってさ。もしかして、怒ると怖かったりする?」
「…………」
ドンっ!
「いてえっ! な、何しやがるんだ、てめえっ!?」
由乃さんの事を聞くと、奈々子は無言で膝に蹴りを入れて来たので、
「そういう事を私に聞くって事はさあ……あんた、またお姉ちゃんを怒らせるような事をしたってことでしょう! 最低っ! いい加減に、私達に関わるの止めてくれるっ!?」
「そ、そうじゃなくてだな……」
凄まじい剣幕で、奈々子が俺に怒鳴り散らしてきていたが、何かしたのはお前の姉貴だっての!
だが、流石に昨日の事を正直には言えないからな。
「じゃあ、何だって言うのよ? ああ? どうせ、お姉ちゃんに無理矢理やらせろとか迫ったんでしょう? そうに決まっているわね」
「違うっての! いや、その……由乃さん、今までの事を怒っているなら、謝りたいって言うか、何度も謝っているんだけど、どうすれば良いのかなって」
無理矢理迫ってきたのは由乃さんの方だって言おうとしたが、どうも俺が何度もやらせろと迫った事が原因っぽいので、そう切り出しておく。
ああ、何でこんなのに相談しないといけないんだ……どうせ、アドバイスもしてくれないけど、話せる相手が奈々子しかいないのも事実なんだよな。
「知るか。あーあ、こんなのにウチのお姉ちゃんがたぶらかされるなんて……でも、最近はさ。私にも原因があるかなって思っているのよ」
お? 奈々子にしては随分と謙虚な事を言ってきたなと思っていると、
「あんたが告白してきた時、断っていればこんな事にならなかったのよね。私って、超可愛いからさ。陸翔みたいなクズでも惚れるのはしょうがないと思うのよ。だから、あんたが私に告白してきたのはしょうがないけど、私の方がちゃんと断るべきだったわね。ああ、そうすれば、こんな屑とお姉ちゃんが付き合う事にはなってないのよね」
「…………」
何を言いだすかと思えば、そういう事かよ。
自分の事を超かわいいとか、どんだけ自意識過剰なんだよこの女は。
「あんたのおかげで、男はもっと厳選しないといけないって事は学んだわ。ま、男なんて元々、嫌いだし、貢がせるか、暇潰しの相手くらいにしか思ってないけどさ。そこだけは感謝しておくわ。じゃあね」
「あ、おい」
一方的にそう吐き捨てた後、奈々子は俺の元から去っていく。
案の定、相談しても何の助けにもならなかったが、何とも面倒な姉妹に関わってしまったと、俺も今更ながら後悔してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます