第38話 今カノもやっぱりズレている

「あのさー、奈々子。今日は俺と由乃さんとのデートなんですけどー……」


「帰れ」


「…………」


 恐る恐る俺を睨みつけていた奈々子にそう言うと、奈々子は問答無用とばかりに俺を睨みつけながら、一喝する。


 マジでブチ切れていやがるな……どんだけ俺と由乃さんの仲を妨害したいんだよこいつは。



「あの、奈々子。今日は陸翔君と二人で出かける約束をしているから……だから、ね?」


「こんなのと一緒に居ちゃ駄目だよ。早く帰ろう」


 堪らず由乃さんも奈々子に帰る様に促すが、奈々子は頑として、立ち去ろうとはせずに、由乃さんを俺に触れさせまいとばかりに、彼女の前に立ちはだかって、俺にさっさと帰れと目で訴える。


 ああ、もうストレス溜まるなあ……そんな事しても、無駄だってのがわからないのかよ?



「そ、そうだ。どうせなら、今日は三人で出かけようか! ね?」


「え? で、でも……」


「良いじゃない、たまには。陸翔君たも私と奈々子の二人と一緒なら、両手に花って事にならない?」


 ならないですって!


 いや、傍から見れば美人姉妹と二人で遊びに行くって、羨ましい状況かもしれないけど、奈々子は今やマジで俺を殺す勢いで憎んでいるから、こんなのと同行するって、針のむしろみたいな状況でデートするようなものじゃん。



「帰れ。お姉ちゃんにも私にも触れるな」


「お前の方こそ、帰ってくれないかな……別に由乃さんに変な事はしないよ」


「嘘ね。あんたの言う事なんか、一語一句全て信用出来ない」


 聞く耳をもはや持ってくれそうにないので、もうこいつに由乃さんの交際を認めてもらうのは不可能だろう。


 別に妹のお前なんかが反対したって、関係ないんだけど、由乃さんが奈々子に気を遣っているので、それが不安なんだよなあ。


 奈々子と俺、どっちが大事なんですかって聞きたいけど、そんな意地悪な質問をされても由乃さんは困るだけだろうし、選べはしないだろう。



「わかりました。じゃあ、このまま行きましょうか」


「ご、ゴメンね。この埋め合わせ、いつかするから」


 仕方ないので、奈々子がくっついた状態で、由乃さんとのデートを始める。


 このまま帰るのは癪だし、どんな形でも彼女とのデートを中止にされてたまるか。




「じゃ、じゃあ何処に行く?」


「うーん……どうしましょう?」


 由乃さんと二人きりに強制的にでもなれる場所がないかと考えるが、どうも思い浮かばない。


 カラオケボックス以外だと漫画喫茶にも個室があるんだっけ? 


 近くにあったかな……ちょっと調べてみるけど、漫画喫茶は会員証がないと無理だから、


「そうだ。三人でちょっと話し合いたいから、ちょっと家に来ない? 今、両親が出かけていていないから……」


「二人の家にですか? いいですけど……」


 奈々子と由乃さんの家なら、あいつも拒否は出来ないだろうと思い、了承する。


 こんな形でまた二人の家にお邪魔する事になるとは




「おじゃまします」


「どうぞ。そうだ、私の部屋に行こうか」


 三人で由乃さんと奈々子の家に行き、二階にある由乃さんのお部屋にお邪魔する。


 だが、奈々子が俺に由乃さんを触らせまいと、がっしりと由乃さんをガードするように歩いており、手を繋ぐことも出来なかった。



「じゃあ、お茶を淹れてくるから、ゆっくりしてってね」


「はい」


 由乃さんのお部屋に入ると、すぐに由乃さんがお茶を淹れにキッチンへと行ってしまい、俺と奈々子の二人きりになる。


「あのさー、俺と由乃さんの邪魔しないでくれる?」


「あんたが邪魔しないといけないような事を言ってきたのが悪い」


「く……由乃さんが怒っていたんなら、土下座してでも謝ってやるけどさ。お前もいい加減にしろよ。大体、奈々子が……」


「うるさい、うるさい、うるさい! しゃべるな! さっさと出ていけ!」


「いや、由乃さんが上がって良いって言うから……」


「私はあんたが我が家の敷居をまたぐことを了承してないの。ここ、私の家でもあるんだからね」


 そんなのわかっているけど、お前より彼女である由乃さんの意思の方が優先だっての。




「こら、二人とも喧嘩しない。折角、陸翔君が来てくれたんだから、ちゃんともてなさい」


 何て言い合いをしていると、由乃さんが紅茶を三杯持ってきて、部屋の真ん中にあるテーブルに置く。


「はい、どうぞ」


「どうも。良い香りですねー」


「うん。えへへ、ほら、奈々子も。この紅茶好きでしょう?」


「ちょっ、お姉ちゃん。そんな奴の隣に……」


 ちょうどテーブルと挟んで、奈々子と向かい側に座っていたので、由乃さんは俺の隣に座ることが出来、俺の腕に絡んでくる。



「ゴメンね。私達、やっぱり付き合っている訳だし、こういう事もしたくて」


「ゆ、由乃さん~~……俺も、由乃さんとずっとくっついていたいです」


「きゃっ! こ、こらそういう事するのは駄目よ」


 今の言葉に感激してしまい、由乃さんに思わず抱き付いてしまう。


 うんうん、やっぱり俺達は付き合っているんだよな。



「お姉ちゃん、そんな汚い男と付き合うの止めなよ。この前も言ったでしょう。そいつ、お姉ちゃんを無理矢理孕ますなんてひどい事言ったんだよ。そいつ、絶対、お姉ちゃんの事なんか好きじゃない。せ、性欲でしか見てないじゃない」


「そ、それはあなたと口論になって、カッとなって言ったんでしょう。確かに良い気分はしないけど、反省はしているのよね?」


「はい、もう反省しまくっていますよ」


「あん、もうそういう所よ~~……」


 由乃さんの菩薩か聖母のような優しい言葉に感激してしまい、思わず彼女の胸を揉んでしまう。


 いいねー、こうやって際限なく甘やかしてくれて。


 どうだ俺達はお前なんかの妨害に負けないくらい、ラブラブなんだっての。



「今のどう見ても、ふざけているようにしか見えないんだけど! お姉ちゃん、そいつを甘やかしすぎなのよ! そんなに甘い顔をしたら、いつか酷い目見るから言っているの!」


 流石の奈々子もイラついたのか、由乃さんに声を荒げるが、由乃さんは溜息を付きながら、


「私もちゃんと嫌なことは嫌って言っているから大丈夫よ。陸翔君、本当に嫌がる事は私にはしないし」


「そ、そんな事は……」


 由乃さんはいきり立つ奈々子の手を握りながら、彼女を宥めていく。




「ありがとう。私の事、心配してくれたのよね。奈々子は可愛くて良い子なのはわかっているから、もうちょっと私の事信頼してくれると嬉しいな。ね、陸翔君もそう思うわよね?」


「えっ!? あ、はあ……」


 奈々子が良い子? いやいや、俺にとっては最低最悪の元カノなんですけど……。



「うん。えへへ、そうだ。奈々子、今度美味しいカフェ見つけたら、二人で行こうか。私が構ってあげなかったから、寂しかったのよね?」


「へ? あ、あのそういう事じゃ……別にいいけど……」


「決まりね。と言う訳で、陸翔君。来週は奈々子とデートするから。しばらくぶりに姉妹で遊びに行こうと思って」


「う……は、はい」


 由乃さんが俺達の間に入って、勝手に話を進めるが、やっぱりこの人もちょっとおかしいかも……。

 

 俺にも甘いけど、妹にも甘すぎて、俺も奈々子も困惑が隠せなかった。

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