第37話 今カノは彼氏にも妹にも甘い
「わかったな? 由乃さんを孕ませられたくなかったら、おとなしく俺達の関係を見ているんだな」
と奈々子に改めて釘を刺してやると、奈々子は唖然としており、言葉が出ない様だった。
効いているな、奈々子め。
由乃さんを盾に取られてはお前も黙っているしかあるまい。
「正直さ。怒りを通り越して、ちょっと感心しちゃった。嘘でも本気でも、今みたいなゲスな事を平気で言葉に出来るなんてさ。並大抵の外道じゃ無理よね?」
「あ? 俺がどれだけくされ外道だろうが、お前のクズビッチっぷりには勝てないね」
「そんな事で争うつもりないけどさ……でも、今ので確信しちゃったわ。陸翔、あんたやっぱりお姉ちゃんの事、全然好きじゃないってね」
「むしろ、逆さ。由乃さんの事、好き過ぎてさあ。お前に何を言われようが、それこそ死んでも別れたくない。だから、お前のお痛があんまりにも過ぎると、由乃さんを襲って、既成事実を早めに作っちゃいたいのさ」
「それ以上、汚い口でお姉ちゃんの事を喋るなっ! お姉ちゃんの事、好きなら、冗談でもそんな事、口にするわけないじゃない、このクズ野郎!」
「あのさー、そのクズとお前だって、何ヶ月か付き合っていたんだろうが」
「こんなクズだとわかっていたら、私だって付き合ってなんかいないわよ! あの時は、もう少しまともな男だと思っていたのに……二度と、その汚い面を私達の前に出すな!」
「二度と出すなって、お前とは同じクラスなんだから、嫌でも……」
「うるさいっ! あんたなんか、声も聞きたくないし、顔も見たくない! お姉ちゃんにも指一本触れるなっ!」
本当にブチギレてしまったのか、ヒステリックに喚き散らしながら、屋上から足早に去っていく奈々子。
うーむ、流石にクズムーブしすぎちゃったか。
今の由乃さんを孕ますうんぬんって俺の発言、奈々子の奴、絶対、由乃さんにチクリそうだな。
とは言っても、もう本人にも何度もやらせてくれって直接言っている訳で今更なわけだが、先回りしてフォローしておいた方が良いのかもしれない。
放課後――
『もしもし? 陸翔君、どうしたの?』
「すみません、ちょっといいですか?」
帰りのホームルームが終わった後、人気のない校舎裏に行き、由乃さんに電話をしてみる。
背後が騒々しいので、大学に居るんだろうか?
「いえ、実はですね……さっき、奈々子とちょっと喧嘩しちゃって、怒らせちゃったんですよ」
『あらー、また? もしかして、私の事だったりする?』
「はい……」
『そう。うーん、困った子ね。私の心配をしてくれるのは、嬉しいんだけど、陸翔君に当たるのはちょっと違うわよね』
由乃さんも、いつもの通りというか、奈々子にはやっぱり甘いんだな……。
まあ、善意に解釈すれば、お姉ちゃんの為にやっていると言えなくもないんだけど、俺に別れろだの死ねだの、しつこいのでどうにかして欲しいのだ。
「それでですねー。俺もちょっとカっとなって、奈々子にキツく当たっちゃって」
『まあ。そうなんだ……でも、奈々子も陸翔君も悪気があってやった訳じゃないと思うから……』
一応、これまで嘘は言ってないんだが、流石に由乃さんを無理矢理妊娠させる発言は本人には言えないので、ちょこっとオブラートに包んでおく。
『ちなみに、何を言ったの?』
「え? あー、はは……あんまり、お痛が過ぎると、代わりに由乃さんとあんな事やこんな事しちゃうぞ的な……」
『…………』
「い、いえっ! 俺もカっとなっちゃったんですって。あいつがキツく当たるから、俺の心も体もマジで傷ついているんですよ。ですから、由乃さんに体で癒して欲しいなーって思っていた所でつい……由乃さんの体で責任を取ってもらうっていったら、激怒しちゃって」
流石に由乃さんも呆れてしまったのか、言葉を失っており、溜息を付いて項垂れている様だった。
奈々子にも言われたが、よくこんな発想が口にできたものだと、由乃さんも逆に感心しているのかもしれないが、とにかく平謝りしないとな。
「すみません、由乃さんに失礼な事を言ったのは謝りますので」
『も、もう。火に油を注ぐ様な事を言っちゃ駄目だよ! はあ……本当に反省している?』
「もちろんです。はは、由乃さんを盾にするようなことを言ってすみません。奈々子の奴、何か言ってくると思うので……」
『わ、わかった。陸翔君も私の事、どういっても構わないけど、あの子を傷つけるような言動は控えてね。奈々子も、その……ちょっと自分を見失っているだけだと思うから」
自分を見失っているねー……そんな可愛い物なんだろうか?
俺に対する歪んだ逆恨みが凄すぎて、もう念力だけでも殺されそうなくらいな勢いなので、あいつを宥めるのは俺にはもう無理だ。
(しかし、由乃さんも自分の事はどう言っても構わないって事は……)
孕ませる云々発言も、喧嘩の際に出た売り言葉に買い言葉の一環ということで、許してくれそうなのでホッとした。
やっぱり、心が広いお方だな。
「本当にすみません。あんな暴言はくなんて、自分でもどうかしてましたね」
『うん。あ、ゴメン。ちょっと友達が呼んでいるから、今日はこれで……』
「はい。あの、今度はいつ会えます?」
『え? ああ、日曜日はサークルの友達と遊ぶ約束しちゃったから、土曜日にしない?』
「わかりました。空けておきますね」
『うん。電話ありがとう。じゃあね』
一先ず、今度会う約束を取りつけられたので、安堵しながら電話を切る。
元カノで今の彼女の妹の奈々子にどんだけ嫌われようが、由乃さんとの関係が続くなら、俺は痛くもかゆくもないね。
その後――
「あ……」
廊下を歩いていると、奈々子とバッタリ会うが、奈々子は顔も合わせず、プイっと振り向いて、教室へと入っていく。
ふ、すっかり汚物を見るような目で見やがって。
あいつに嫌われてようが、由乃さんとの関係は続いているから、良いんだよボケが。
とはいえ、誰か由乃さん以外で、あいつに物申せる奴はいないのかな……奈々子と仲良い女友達とは、あいつと別れたから、完全に絶縁状態で、もはや相手にもされてないからな。
しかも、クラスの女子からの視線も何か最近、微妙に冷たいんだよな。
奈々子の奴が俺の事、クラスで悪く言っているのかもしれない。
あー、陰湿な女だこと。俺を悪く言い過ぎると、そんなクズ男と付き合っているお前の姉だって、印象悪くなるんだからな。
そして、デートの日になり――
「えっと、由乃さんは……あ、いた」
「あ……こ、こんにちは」
「ん? って、奈々子! 何でお前が……」
「…………」
待ち合わせ場所に行くと、由乃さんの隣に、奈々子がおり、俺が来るや、由乃さんの腕をがっしり掴んで俺を鋭い目で無言で睨みつける。
「ご、ごめんね……奈々子が勝手に付いてきちゃって」
と、罰が悪そうな顔をして由乃さんが謝るが、どうやら、また由乃さんとのデートを邪魔しに来やがったのか。
あー、気分悪いけど、そんな事をしても無駄だってのわかんねえのかよ、全く。
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