第36話 元カノへの脅迫

「由乃さーん、お願いしますよ。水着、生で見たいです」


「もう、まだ言っているの。だーめ。写真で我慢なさい」


 水着を買った後も、しつこく由乃さんに水着を着用したお姿を拝みたいと頼み込むが、由乃さんは駄々っ子をあやす母親のような口調で断る。


「この写真、顔隠しちゃっているじゃないですか。これじゃ、誰かわからないですよ」


「万が一の時に備えてよ。陸翔君が何処かに流出しちゃった場合、私が痴女みたいに見られちゃうじゃない。顔を隠してもわかる人はわかるかもしれないけど、誤魔化しが利くようにね」


 ちっ、やっぱり信用されてないんだな。


 あれだけ、乳も尻も触りまくったら、警戒されるのは当然だろうが、俺は由乃さんの水着姿を誰かに見せるつもりは全くない。


 というか、俺だけの物にしたいんだよなー。海とかプールじゃしょうがないけど、それ以外の場所で由乃さんの肌を衆目に晒して堪るかってんだよ。



「そんなにがっついたら、女子に嫌われるよ。私だから、まだ良いけど、少しはデリカシー持ちなさい」


「はーい」


 別に由乃さん以外の女子にどう思われようが、知ったことではないんだが、由乃さんも怒りそうだったので、このくらいにしておく。


 まあ、顔を隠しているってのもなんか背徳感あっていいか。


「それじゃ、次はここに行きましょうか」


「ん? もう、今の話、聞いてなかったの!」


 水着は諦めたが、たまたま通りかかった建物を指差して、そういうと、由乃さんも呆れ顔で溜息を付きながら、声を荒げた。


「由乃さん、俺もそろそろ大人な関係になりたいなーって。というか、やりたいです」


「まだ、早いでしょう。大体、君は高校生なんだから……」


「卒業するまで我慢しないと駄目なんですか? ちゃんと、ゴム付けますんで」


「んもう、そういう問題じゃないの」


 由乃さんの腕にがっしりと組みながら、なんとかホテルに連れ込もうとするが、由乃さんは頑として応じてくれない。



 はあ……万が一のことを警戒しているんだろうけど、信用されてないのか、身持ちが固いのか。


 奈々子もエロイ事には露骨に拒否感を出していたから、姉妹でそういう性格なんだろうな。


「じゃあ、これで……」


「え、ん……」


 誰も見てない事を確認したうえで、由乃さんに軽くキスをする。



「い、いいですよね、これくらい」


「もう……これで我慢してね」


 すぐに顔を離すと、由乃さんも困ったような笑顔を見せながら、頬を赤くしてそう言う。


 悪い印象は与えてなかったようでホッとしたが、高校を卒業するまで、果たして我慢出来るのか自信ないなー。



 その後――


「うーん、生殺しのような気分」


 学校に行ったあと、昨日の由乃さんとのデートの事を思い出すと、どうもムラムラした気分を抑えきれん。


 あの人も焦らしプレイが好きだな……。


「ちょっと」


「あ? 何だお前か」


 何て悶々としていると、また奈々子が俺に声をかけてきた。


 最近、やけに奈々子が絡んできて、本当にうざいんだが、どうせまた由乃さんの事で文句を言いに来たんだろうな。


「話がある。こい」


「随分と偉そうだなー。どうせ、また由乃さんの事か」


「わかっているじゃない。いいから、付いて来い」


 いつにも増して、高圧的な口調なので、奈々子もまたお怒りのようだが、もしかして昨日のデートの事か?


 別に変な事はしてないつもりだけど、まーたこいつにイビられるのかと思うとうんざりしてきた。


「ここなら良いわね。あんたさ。本当に懲りない男よね。人のお姉ちゃんに好き放題やりやがって、恥らいとかデリカシーって概念はない訳?」


「何の事かわからないな」


「ふざけんじゃないわよ。お姉ちゃんのこと、またホテルに強引に連れ込もうとして……お姉ちゃんにも聞いたんだからね! このケダモノっ!」


「おっと」


 屋上に呼び出された途端、奈々子が案の定、由乃さんの事で文句を言ってきて、ぶん殴ろうとしてきたので、咄嗟に交わす。



 流石に奈々子が手を上げてくるのは予測できたので、こっちも微妙に距離を取って、避けやすいようにしていたのだ。


「いちいち、暴力を振るうなよ。由乃さん、怒っていたのか? だったら、由乃さんに直接謝るから、それで良いだろう」


「そうやって、いつもお姉ちゃんを盾にして! お姉ちゃんが人に強く言えない性格なの知っているでしょう! 大体、あんたお姉ちゃんの事、本当にエロイ目でしか見てないじゃない! お姉ちゃんの事、好きでもなきゃ、全然大切にしもしてない! それなのに、彼氏面して、偉そうにしやがって。だから、許せないのよ!」


 おいおい、随分な言い草じゃないか……由乃さんが怒っているならともかく、妹のお前が姉の交際にまで口を出してくるのはおかしいだろ。


 ましてや、こうなったのはお前のせいでもあるのにさ。



「お前もいちいち、疲れないか? 由乃さんとデートするたびに、俺にそうやって文句言ってくるの」


「そうね。おかげで、最近は男と遊ぶ気もなくなってきたわ。みんな、陸翔みたいなクズに思えて来てね。あー、ムカつく。お姉ちゃんと別れたら、イビるのやめてやっても良いわよ。それで、みんな幸せになると思わない?」


「思わないね。それで気が済むの奈々子だけじゃん」


「そうね。じゃあ、こっから飛び降りなさい。別れる気がないなら、陸翔が死ねば解決するから」


「…………」


 駄目だこりゃ。


 別れろってだけじゃなく、とうとう死ねとまで言ってきたよ。


 こんなのと和解しろとか無理ですよ、由乃さん。



「奈々子もさー、あんまり舐めた真似しない方が良いぞ。由乃さんがどうなっても良いのか?」


「あ? お姉ちゃんをどうするってのよ?」


「俺も男だしさー。今は自重しているけど、いずれ我慢できなくなっちゃうこともあるかもな。いや、お前があんまりにもウザイから、黙らせるために由乃さんと既成事実作っちまおうかなって」


「は、はあ? 意味わかんないんだけど」


 俺もハッキリと言いたくはないんで、回りくどい言い方をしていたが、仕方ない。


「これ以上、俺に手を上げるなよ。言う事聞かないなら、由乃さんにも保護責任取ってもらうぞ。無理にでも彼女とやってやる。そしたら……お前に甥っ子か姪っ子が出来ちゃうかもな、あはは」


「…………」


 と、ゲスっぽい笑いを上げながら、そう言うと、奈々子もようやく俺の言いたい事が理解できたようで呆気に取られた顔をする。


 流石に予想外だったようだな。


「男の子と女の子、どっちがいいかなー。気が早いと思ったけど、由乃さんなら、今出来ても俺との子を堕ろすとか言わないんじゃないかなって。そうなっても構わない訳?」


 と、言うと、奈々子は更に信じられないと言った顔をし、次第に汚物を見るような目に変わる。


 ふふ、ドン引きしているなー。まあ、こんなクソオスに自分の姉を汚されたくないなら、せめて黙って見ている事だな。

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