第30話 元カノとの体育祭

「はあ……どうするかな……」


 月曜日になり、憂鬱な気分で溜息を付きながら、通学路を歩いていく。


 いくら由乃さんの頼みとは言え、性格最悪の元カノのケアをしてくれなんて、嫌なんて物じゃない。


 しかし、奈々子は俺のクラスメイトで彼女の妹でもあるので、断る理由も思いつかず、了承してしまったが……また、この前みたいな事があったら、俺が奈々子を助けないといけないの?



(嫌だ嫌だ……生理的に無理)


 あいつを助ける義理がそもそもない上に、仮に助けても絶対に感謝なんかしてくれない。


 むしろ嫌味を言われるのがわかりきっているのに、見守ってくれって……妹の事が心配なのはわかるけど、そもそもあいつの素行が悪すぎるのが元凶な訳じゃん。


 とはいえ、由乃さんが悲しむ顔も見たくないし……由乃さんの為と思って我慢するしかないのか。



「あ……」


「…………」


 何て考えながら、上履きに履き替えて、教室に向かおうとすると、廊下を歩いていた奈々子とバッタリ遭遇してしまった。


「よう」


「…………」


 ちっ、挨拶もなしかよ。


 最近、どんどん愛想が悪くなってきているな。


 俺に対する憎悪に満ちたこの態度……逆恨みも甚だしいと言いたいが、ちょっとだけ釘を刺しておくか。



「ちょっと待て」


「何?」


「お前、この前さ……また男と喧嘩していただろ」


「あんたに関係なくない、そんなの?」


「ああ、ないな。俺も関わりたくはないんだけど、由乃さんがお前の事を心配していてさ……」


「いちいち、お姉ちゃんの事、引き合いに出さないでくれない? お姉ちゃんの為とか言われて、私の事をとやかく言ってくるの凄く気分悪いんだけど」


 あー、もうムカつく女だな! やっぱり、放っておこうか、こんな女。



「そうだな。しかし、俺の彼女な訳で……」


「止めて。あんたなんか、お姉ちゃんの彼氏だなんて、こっちは認めてないから。自称されただけでも気分悪いし」


 自称じゃねえよ! 普通に付き合っているんだ、こっちは!


(だああああ……奈々子と話しただけで、ストレスが溜まっていくうう……)


 何か方法ないかな……由乃さんと付き合いながら、こいつと絶縁できる方法。


 厄介なことに、奈々子と由乃さん、姉妹仲は良さそうなので、由乃さんと付き合うと自然にこいつとの繋がりも出て来ちゃうんだよ。



「ごめんなさいね。性格悪い妹で。でも、陸翔には全然敵わないけどね。振られた腹いせに、元カノの姉に手を出すとか、ゲスにも程があるじゃん」


「へえ、自分でも性格悪いって自覚しているんだ」


「それが何だっていうの? あんたには言われたくないし」


 あー、そうだよ。俺だって、性格は良くないかもしれないけど、お前にだけは言われたくねえんだ。




「とにかくさ。学校ではもうちょっとおとなしくしててくれない? 少なくとも俺の目の届く場所で、この前見たいな事はやるな」


「あんたの指図なんか受けると思う。それより、いつお姉ちゃんと別れるのよ?」


「死んでもそんな気はないから安心しな」


 いきなり何を聞くのかと思えば、まだ俺と由乃さんを別れさせようとか考えているのかよ。


 もううんざりなんだけどさあ……。




「じゃあ、忠告しておいたぞ。俺に色々口出しされるの嫌だったら、せめて学校じゃおとなしくしておくんだな」


「待ちなさい」


「何だよ?」


 いい加減、奈々子と話すのも面倒になったので、そう告げてとっとと教室に向かおうとすると、奈々子に引き止められ、


「こっちも忠告しておくから。私に関わりたくないなら、お姉ちゃんと別れる事ね。いや、お姉ちゃんがあんたに嫌われて、振られるのが理想だけどさあ……どうすれば、そうなると思うかしら」


「…………お前さあ、そんな態度で由乃さんに嫌われたりしないの?」


「お姉ちゃんは私には甘々なの。ゴメンねえ。私の我侭なら、基本何でも聞いちゃうから、お姉ちゃんにどうしてもあいつと別れろって言えば、考えちゃうかもね」


「そんな事は……」


 有り得ないと言いたかったが、あの人も奈々子にはやたら甘い感じするので、本気で泣きついてきたら、そうしないとも言い切れない……。




(いやいや、由乃さんを信じないと)


 彼氏である俺が信じないでどうするんだ。奈々子の妨害なんかにあの人が動じる訳ないじゃないか。


「ああ、もうこれ以上は時間の無駄だ。じゃあな」


 奈々子と話すと、ストレスが溜まる一方なので、さっさと教室に向かう。


 くそ、朝から気分が悪くてしょうがない。


 あいつと付き合っている時は、学校で奈々子と会うのが楽しみで仕方なかったんだが……もはや、そんな事も夢みたいな話だ。



「えー、これから体育祭に出場する種目を決めます」


 ホームルームになり、今度の体育祭で出場する種目を決める事になった。


 あー、もうそんな時期になったんだな。


 何にしようかな……由乃さんが見に来てくれれば良いんだけど、ムカつく事に平日にやるっぽいから、それも無理だろうし、別に一位になったからって、何も貰える訳じゃないからな。


「それじゃ、二人三脚をやりたい人」


「はい」


 二人三脚に立候補したい人を委員が募ると、奈々子が真っ先に手を挙げた。


 あいつ、また男漁りのきっかけにするつもりかよ。




「それじゃ、男子では……」


「はい」


 他に立候補しそうな男子がいなかったので、仕方なく俺が立候補する。


 いや、別に変な意味はないんだよ。


 奈々子と寄りを戻そうとかそんな気は全くないんだが、あいつを常に監視するためにだな。


 案の定、奈々子が嫌そうな顔をしており、奈々子と別れたことを知っている男子の友達も驚いた顔をしているが、そりゃ俺を振った元カノと二人三脚とか気がおかしくなったと思うだろうな。



「ちょっと、どういう事?」


「ああ? いやー、何か二人三脚やりたくなってさ」


「はあ? そんな訳ないし。また私へのいやがらせのつもりじゃないでしょうね?」


 ホームルームが終わった後、奈々子は案の定、俺に二人三脚の立候補してきたことにクレームを付けて来た。


 俺だって嫌だよ。でも、奈々子のことを由乃さんに見ててくれと言われたから仕方なくだ。


「嫌なら、お前も辞退すれば」


「いいわ。やってやるわ。その代わり、足引っ張るんじゃないわよ」


「ん? お、おおそうか……」


 辞退するかと思ったら、あっさりと了承したんで、驚く。

 

 絶対になんか企んでいそうだが……まあ、いざとなったら、由乃さんに言いつけてやるけどな

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