第29話 彼女のお願い
「うーん、やっと終わった」
ようやく中間テストが終わり、羽根を伸ばす。
久しぶりに友達と打ち上げをしたりして、楽しい放課後を過ごしたが、そんな事より由乃さんと会いたいなー。
『もしもし、陸翔君?』
「由乃さん。今、良いですか?」
『うん。もう中間テスト、終わったんだっけ?』
「はい。はは、由乃先生のおかげで、結構手応えありましたよ」
『くす、なら良かった』
家に帰ってすぐ、由乃さんに電話する。
彼女の声を聞いただけでも試験の疲れ、癒されるなあ……
「あの、それで何ですけど、由乃さんに会いたいです」
『うん、私も会ってちょっと話がしたいなって思って』
ならちょうど良い。
もうこっちは由乃さんに会いたくて、ウズウズしてしまい、禁断症状でも起きそうだ。
『明日、午後なら空いているけど……』
「ああ、土曜日でしたね。わかりました。由乃先生に勉強見てもらったお礼、改めてしたいです」
『くす、何それ。じゃあ、明日ね』
と明日、由乃さんと会う約束を取り付ける。
いやー、楽しみだなぁ……今度こそ、由乃さんと……なんて、下心が抑え切れず、ニヤニヤが止まらなかった。
翌日――
「あ、由乃さん」
「ごめんなさい。待たせちゃった?」
「いえいえ。全然ですよ」
こんなデートの定番のセリフも自然に出てくるようになってきたが、俺も段々と
「あの、何処に行きましょうか?」
「そうね。二人きりで話出来る場所が良いかな。そこのカフェに行こうか」
「わかりました」
カフェか……出来れば、密室で二人きりとかになりたかったが、まあ一緒に居られるだけで良いか。
「ふふ、試験はどうだった?」
「もうバッチリですね」
「そう。なら、よかった」
カフェに入ったあと、二人で隅っこの席に座り、カフェオレを頼む。
こういう落ち着いた雰囲気も良いなあって。
「あ、あれは持ってきた?」
「ん? あれって……」
「んーー……この前渡した奴。これ」
ん? 何だろうと思い、由乃さんがスマホのディスプレイを見せると、
「ぶっ! こ、これって……」
「口で言うの恥ずかしいから、写真を見せたの。ほら、ここならだれも見てないから見せて」
「あ、ありますよ……」
由乃さんのスマホに写っていたのは、前に渡されたコンドームの写真……。
ちっ、しっかり覚えていたのか……。
「うん。これがないと不安だしね。陸翔君、最近見境なくなってきたというか……まるで、おさるさんみたいになっているからなー」
「そ、そんなですかね、俺?」
「そうよ。まあ、その……悪いとは言わないけど、もうちょっとデリカシーを持ちなさい」
しっかりと釘を刺されてしまったが、こうやって俺に怒っている姿も何だか保育士さんみたいで、微笑ましい。
由乃さんには悪いが、怖さを全く感じないんだよなー……こんなんじゃ、いくら怒られても反省しないかもしれないぞ。
「って、ちょっときつく言い過ぎちゃったかしら……ゴメンね。でも、やっぱり万が一のことを考えると……」
「いいんですよ。俺も出来る限り、自重するよう努力しますから」
「だ、だから、そういう言い方するから……」
「いえ、その……はは、俺も男なんで! あんまり、保証出来ないと言うか」
敢えてやらないと断言すると、由乃さんも呆れた顔をして溜息を付き、
「んもう……まあ、いいわ。一応、今の言葉は信じておくから」
「ありがとうございます」
もちろん、由乃さんが嫌がったらやるつもりはないけど、彼女も本気で嫌がっている感じがしないから、こっちも調子に乗っちゃうんだよな。
「本当よ。でも、ちゃんと持ってきたのは偉い、偉い」
「えへへ、もっと褒めてください」
「子供みたいなこと言わない。って、まだ未成年だけどさ……わかったなら、ちゃんと言う事聞くのよ」
「はーい。もう、由乃さんの言う事なら、何でも聞いちゃいますから」
「何でも? 本当かなー?」
「もちろんです」
由乃さんが望むなら、もう地の果てだろうが、宇宙だろうが地獄だろうが、何処にだって行ってやるわ。
こんな素敵な彼女の為なら、誰だってそう思うだろうよ。
「あの、それじゃ……ちょっとお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「えっと、奈々子の事なんだけど……」
「あ……あはは、あいつまた何かしたんですか?」
何かと思ったら、あいつの事かよ……正直、由乃さんの頼みと言えど、気が引けるけど、一応聞いておこうか。
「奈々子、この前、彼氏と喧嘩別れしたみたいで……」
「またですか。何人目なんですかね。というか、付き合っているんですか、それ?」
「わからないけど、とにかく学校でちょっと喧嘩になったみたいでね」
カフェオレの入ったカップを持ちながら、由乃さんが言いにくそうな口調でそう言ってきたので、胸が一瞬、ズキっとする。
この前学校で彼氏と喧嘩した所を見たけど、もしかしてあの時の事か?
「その時、ちょっと取っ組み合いになったみたいで、あの子、怪我しちゃったんだって。大した怪我じゃなかったんだけど、それ以来、心配になっちゃって……」
「そ、そうなんですか……」
や、ヤバイ……冷や汗が出てきた上に、心臓もバクバク言い始めて来た。
あの女……俺があの時、素通りした事、由乃さんに言いやがったな。
間違いない。でなきゃ、俺にこんな事を聞くはずがない。
「本当に知らない?」
「え?」
「怒らないから、正直に言って欲しいな。私の言う事、何でも聞くんだよね?」
こ、ここでそれを使ってくるか……というか、もしかして誘導された?
「その……ああ、そう言えば、奈々子が誰かと口論になっている所を見たような……」
「やっぱり、見たのね。それで、陸翔君、どうしたの?」
「う……そ、その……」
由乃さんが不安げな瞳で更に聞いてきたので、思わず視線を逸らす。
こ、これ完全に怒っているよな?
あまり、表情には出してないけど、確実に良い感情は抱いてない。
「すみません、何をしているかよくわからなかったですし、その……」
「そう……奈々子とは、あんな事があったから、良い感情を抱いていないのはわかるんだけど……あの子が、困っている時は少しは気にかけて欲しいなって……同じクラスなんだよね?」
「は、はい」
あいつの事を気にかけてくれか……もう、あんな性格最悪の元カノなんぞ脳みそからデリートしたいんだけど、由乃さんにそう言われちゃうとそれもう出来ないじゃん。
「陸翔君に頼むはちょっとどうかという気がするけど、今度から奈々子が危なそうな目に遭っている時は、助けてあげて。お願い。あなたにしか頼めないのよ。あの子、トラブルを色々と抱えっているっぽいから心配で心配で」
「うう……わ、わかりました」
「本当? 約束よ」
由乃さんに上目遣いの視線でそう頼まれてしまうと、もう断る事は出来ず、つい頷いてしまう。
「くす、よかった。学校では奈々子の事、お願いね」
「はい……」
最愛の彼女の頼みだから仕方ないとはいえ、正直嫌すぎる……。
当の奈々子からは感謝されるどころか、嫌がれるの確定なので、気乗りしないけど、由乃さんのお願いなら……と思うしかないのか。
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