第28話 元カノの腹いせ

「そろそろ終わりにしようか」


「はい。うーん、疲れましたね」


 夕方になり、そろそろ両親も帰ってくる時間になるので、由乃先生との勉強会もお開きになる。


 結局、真面目に試験勉強しちまったな。まあ、それで良いんだけど、もうちょっと由乃さんとね……。


「ふふ、陸翔君、思ったより呑み込み速いじゃない」


「いえ、そうでもないですよ。奈々子の方が成績良いですし。あいつに勉強教えたりしてるんですか?」


「たまにね。でも、あの子は私なんかよりずっと頭の回転早いし、教える事もないのよね」


 性格は最悪のくせして、成績は良いなんて、神様も不公平な事をしやがる。



「それじゃ、私はもう帰るね。お疲れ様」


「あの、ちょっと待ってください」


「なに?」


 由乃さんが帰り支度をして、部屋から出ようとしたので、慌てて彼女の手を掴み、


「その前に良いですか?」


「もう、なに? まさか、おっぱい揉ませてとか言わないよね?」


「は、はい。揉ませてください」


「冗談で言ったんだけどっ! うう……お父さんとお母さん、そろそろ帰ってくるんじゃないの?」


「まだ、もう少しかかるんで……」


 夜中になるって言っていたので、まだ帰って来ない筈。多分。



「はあ……ちょっとだけだよ……きゃっ」


「へへ、ああ、由乃さんの、マジで柔らかいです」


 遠慮なく、由乃さんの胸を後ろから鷲摑みにしていく。


 何だかんだでサービス良いなあ……いっそ、このまま押し倒しちゃっても良いんじゃないか。


「こら、もう駄目! ちょっとだけって言ったでしょう」


「うーん、由乃さんの揉み心地良かったのになあ」


「今日は勉強を教えてくれって言ったから、来たんだからね。そういうのはもう少し大人になってからじゃないと……」


 調子こいて、揉みまくっていたら、由乃さんも本当に嫌がったので、仕方なく手を離す。


 もうちょっとイチャイチャしたいんだけど、これ以上長居させると、親が帰ってきそうなので、この辺が潮時か。


「奈々子にもこんな事していたの?」


「してませんよ。頼んだことすらありませんから」


「どうして? あの子もスタイルは良いじゃない」


「うーん、何となくですかね」


 奈々子とエッチな事をしたい気持ちはそりゃあったけど、あいつはどうもそういうの嫌がる傾向あったんだよな。


 男とはやたらと付き合っているくせして、肝心なところはガードが固いというか……よくわからん奴だ。



「最近、陸翔君、顔つきも手つきもいやらしくて心配だわ。これから、私と会う時はコンドーム持参しておいてね。持って来なかったら、取りに帰るか、途中で買うかしないとデート中止にします」


「由乃先生、厳しいですよー……」


「きゃん♪ もう、甘えたって駄目だからね。君はまだ未成年で、私の方が大人なんだから、いざって時は私がしっかりしないと駄目なの。わかるでしょう?」


 ビシっとした顔で俺にそう言うと、俺も駄々を捏ねる子供のように、由乃さんの胸元に顔を埋めていく。


 信用なくしちゃったのかな……だとすると、悲しいな。




「んもう、万が一の事があったら、困るでしょう?」


「万が一とは?」


「あんまり言わせないの。察しなさい、そのくらい」


「うーん、俺、馬鹿だからわからないですよ。何ですか、万が一って? 教えてください、由乃せんせー」


「…………」


 由乃さんの胸に顔を埋めながら、すっ呆けたように質問すると、由乃さんも流石に呆れてしまったのか、頭を抱えて黙り込む。


 言わんとしている事は何となくわかるんだけど、一応、念のため、万が一というのは何のことか確認しておかないとな。




「わ、私が妊娠したら困るでしょう! そうなったら、責任取るの私なんだからね。陸翔君、子供が出来たらちゃんと養える? 学校はどうするの?」


「う……ですよね」


「うん。はあ……何か出来の悪い息子を持ったみたい……」


 溜息を付きながら、俺の頭をなでなでしてそう呟く由乃さんだが、何だかんだで甘々なんだなあ。


 俺に甘いのは嬉しいけど、他の男が言い寄ってきた時にちょっとだけ心配になっちゃう。




「由乃さんの子供かー。いつか欲しいですね」


「そうね。でも、もう少し待ってくれると嬉しいなあ。今、出来たら、二人とも不幸になるだけでしょう」


 まだ付き合い始めて間もないのに、こんな会話をするのも気が早すぎて馬鹿らしい気がするが、何年か後にはそうなると良いなあ。


「じゃあ、もう帰るから。試験頑張ってね。赤点取ったら、私が補習してあげるから」


「マジですか? じゃあ、赤点取っちゃおうかな」


「そういう事、言わない。それじゃ、またね。ちゅっ♡」


 と冗談を言った俺の頬に軽くキスをした後、由乃さんは部屋を出て玄関へと向かう。


 うーん、相変わらずサービスが良い人だなあ。


 こんな事されたら、ますます由乃さんの虜になっちゃうよ。


「送りましょうか?」


「大丈夫よ。奈々子に会ったら、面倒でしょう」


 玄関まで見送った後、由乃さんを自宅まで送ろうとしたが断られてしまい、そのまま彼女を見送った。


 もう少し一緒に居たかっけど、仕方ない。


 俺も早く由乃さんと同棲したいなー。


 翌日―

「んー、由乃さんとの勉強の成果かな。何だか、いつもより、授業も理解出来た気がしてきた」


 午前の授業が終わり、そんな事を考えながら、購買へ向かう。


 由乃さん、先生には合うかもなあ……あんな美人の先生に俺ももっと教わりたい。


 まあ、個人レッスンは彼氏の特権かもしれないけど、毎回って訳には行かないからなあ。



「ん? あれは……」


 渡り廊下を歩いている途中、中庭の方に目をやると、奈々子の姿が見えた。 


 男子と一緒に居るけど、何やら、口論しているみたいだが……何かあったのか?


 あいつの事だから、心当たりがありまくりだろうよ。


「無視無視。俺には関係ないね」


 奈々子とあの男の間に何があろうが知った事じゃない。


 どうせ奈々子が悪いんだろうしな。


 そう言い聞かせて、素通りして行った。



「ただいま……」


「奈々子、おかえり。今日も遅かったじゃない」


「ちょっとね」


「中間テスト近いんでしょ。あんまり、遅くなったら……あら、奈々子? 


 何か手に痣が付いてない?」


「ちょっと喧嘩しただけ。別に大した事ないし、もう平気だから」


「もう、また男子と? 女の子なんだから、気を付けないと」


「すぐ治るし、これからは気を付けるよ。そうそう、学校でそいつと喧嘩している最中にさー、陸翔が通り過ぎたのよ。でも気づいてなかったのか、無視したのか、素通りして。後者なら薄情だよね。元カノが絡まれているってのに」


「え……?」


 その事を聞いて、お姉ちゃんも信じられないって顔をして、しばらく固まる。


 嘘は言ってないもんね。私は何も悪くない。


「それだけ、じゃね」


「あ、ちょっと……」



「ふん、バーカ」


 これでお姉ちゃんの陸翔への株はだだ下がり。


 さっさと愛想尽かされて、捨てられちゃえばいい、あんなクズみたいな男。

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