第26話 元カノとの亀裂が深まるばかり

 翌日――


「ちょっと、陸翔」


「何だよ?」


「話があるわ。ちょっと付いてきて」


 朝、学校で奈々子に声をかけられ、近くの空き教室に連れて行かれる。



「んで、話って?」


「これっ! 何てことしてくれたのっ!?」


「は? 何てことって……いいっ!」


 奈々子が声を荒げながら、スマホの画面を見せると、それは昨日ラブホの前で由乃さんと一緒にいる写真であった。


 しかも、由乃さんのお尻触っているところを……こいつ、尾行してやがったのか。


「どういう事よ! 人のお姉ちゃんに痴漢なんかして、ホテルに無理矢理連れ込もうとしてっ!」


「お前、尾行していたのかよ、趣味悪いな。ホテルには行ってねえよ。制服だったんだから、入れるわけないじゃん」


「私の事なんかどうでも良いのよ! あんた、やっぱりお姉ちゃんのこと、そういう目でしか見てないんじゃない!」


「うん、そういう目でも見ているよ。悪いかよ」


 多分、スケベな目で見ているんだろうって意味なんだろうが、そりゃ見ているに決まっているじゃんか。


 由乃さん美人だしスタイルも良いんだから、ホテルに入って性行為したいって気持ちはあるし、逆にそういう目で見てないと失礼じゃない?




「絶対許さない……あんたみたいな痴漢、お姉ちゃんの彼氏だなんて認めないんだから」


「お前に言われてもな……わかったよ、由乃さんが怒っているってなら、謝っておくから」


「お姉ちゃんに謝ったからって、それで済むと思っているわけ? どうせ、お姉ちゃんの事だから、今度は気を付けてねって言うだけだし、それでますます陸翔が調子に乗るに決まっているじゃない」


 うるさい、女だな……てか、もしかして奈々子ってシスコンなのか?


 男癖悪い上に、シスコンって実に面倒な女だな。



「どうしてくれようかしらね……あんたの事、痴漢で訴えてやろうかしら」


「俺を脅す気かよ。あのさー、由乃さんが本当に怒っているなら、俺も土下座でもなんでもしてやるけど、勝手に後を付けておいて、写真撮っておいてその言い方はないだろ」


「お姉ちゃんの事が私に無関係だとでも思っているの? あんたみたいな屑にこれ以上、お姉ちゃんに触れさせたくないの。当てつけみたいに付き合っておいて、マジで最悪!」


 パアンっ!


「ちょっ、いてえなっ!」


 そう奈々子が睨みつけた後、俺の頬をビンタしてきた。




「この位で済むと思わない事ね。あんたなんか、お姉ちゃんや私の前に二度と顔出せない様にしてやるんだからね」


「くっ、出来るもんならやってみろよ」


 と吐き捨てて、奈々子は教室を出て、俺の前を去っていく。


 もう、何なんだよ、あの元カノは……俺を振った挙句、今の彼女と別れさせようとするとか、どんだけ性格悪いの?




「あいつ、ただじゃおかねえ……」


 この事、由乃さんに言ってやろうかな。そうすれば、家で由乃さんに嫌われるのはお前だろ。


 と思ったが、由乃さんが昨日の事を怒っているのかもしれないので、後で一応謝っておくか。


 流石に昨日はがっつきすぎたので、今後は自重しておこう。



『あら、陸翔君』


「あの、由乃さん。今、良いですか? 昨日の事なんですけど……」


『どうしたの?』


 夜中になり、由乃さんに電話をかけて、昨日の事、怒っていないか確認してみる。


「その、昨日はすみませんでした。あの、ホテルの前でいきなり……」


『あ、ああ……そのことね。もう、いきなりなんでビックリしたけど……別に怒ってはいないから、気にしないで』


「そ、そうですか。でも、何かデリカシー無かったですよね」


 どうやら、怒ってはいなかったようなのでホッとする。


 奈々子がいくら怒ろうが、これは俺と由乃さん問題だからな。


 お前がどんだけキレようが、関係ないんだよ、わかっておけ。


『そう。でも、屋外でああいう事をやるのはちょっとどうかと思うから、今度は気を付けてね』


「あ、はい」


 由乃さんの反応が奈々子が学校で言った通りなので、ちょっと複雑な気分になる。


 やっぱり姉妹なんだな……まあ、それは良いんだけど、由乃さんがこう言ってくるのわかってるから、余計に奈々子はイラついていたのか。



「あの、それで……週末は会えますか?」


『ああ、週に一回は会おうって言っていたからね。そうね……日曜なら、午後は空いているかな』


「じゃあ、デートしましょう」


『うん。えへへ、楽しみだね』


 奈々子にキツイ事を言われたが、由乃さんのほんわかな声を聞いただけで、そんな事も忘れてしまうくらい癒される。



『そういえば、陸翔君、そろそろ中間テストなんだって?』


「あ……言われてみれば、そんな時期かもしれないです」


『奈々子がそんな事言っていたから、陸翔君も大丈夫かなって思って』


 忘れていたけど、もうそんな時期になっているのか。


 奈々子と学校同じで同じクラスだからな……そういう情報も自然に由乃さんの元に入ってくるわけで、


「あー、平気じゃないかもです。赤点取ったらヤバイですね」


『だったら、私と遊んでいる場合じゃないんじゃない?』


「由乃さんに勉強見てもらいたいなーって。塾でバイトしているんですよね?」


『え? 私に? で、でも私は小学生の担当だし、高校の勉強内容はよく覚えてなくて……』


 それでも俺よりは絶対頭は良いはずなので、是が非でも由乃さんに個人レッスンしてもらいたい。


「お願いしますよー。由乃先生の個人授業受けたいです」


『しょ、しょうがないなあ~~……じゃあ、何処でやろう? ウチだと、週末は親がいるから……』


「俺の家、来ません?」


『陸翔君の? うん、いいけど……』


 よし、ちょうど日曜は親が出かけていないから、由乃さんと二人きりになれるぞ。




『あの、二人きりなんだよね?』


「両親が出かける予定なので、そうなりますね」


『そう……何か緊張するな……男子の部屋って入った事ないし……それに……』


 俺が何かしないか不安なのかな?


「勉強見てもらいたいだけなので、多分変な事はしないですよ」


『た、多分なんだ』


「えっと、はは……まあ、その時の状況と気分次第で何かあるかもしれないですけど。やっぱり、二人きりだと俺の方が我慢できなくなるかもしれないので」


 由乃さんは不安に思っているみたいだが、敢えて、絶対に何もしないと断言はしないでおく。



 だって、若いカップルが一つ屋根の下で二人きりだよ?


 何も起きない方が不自然じゃん。


『むうう……陸翔君、ちょっと煩悩丸出しだよ。しょ、しょうがないなあ……じゃあ、日曜日にお邪魔するね』


「やったーー。部屋は綺麗にして待っていますから」


『うん。そのかわり、真面目に勉強もするんだよ』


『勉強も』か……ふふ、由乃さんもある程度は覚悟してくるって事だな。


 まあ、実際にエッチな事をするかどうかはその時の状況によるけど、個人的にはそろそろ由乃さんと大人な事したいなーって思う年頃な訳だよ。

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