第24話 元カノも煽りに耐え切れず
「奈々子、歌上手くなったじゃない。やっぱり、奈々子は良く出来た妹だわ〜〜」
「別に普通に歌っただけど」
由乃さんと奈々子の姉妹デュエットが終わり、由乃さんはご満悦な表情だったが、奈々子は相変わらず表情が曇っており、明らかに楽しそうではなかった。
なんか、由乃さん一人で盛り上がっている気がするんだが、俺は由乃さんが楽しければ奈々子がどう思おうが知った事ではないので、それで良いか。
「次は陸翔君よ」
「その前にまた膝枕してください」
「もう、そんなのいつでも出来るでしょう」
「いや、こういう場じゃないと出来ないですよ。由乃さんの膝枕柔らかくて、最高なんです」
「しょ、しょうがないわね〜〜」
まるで、小さな子供の様に駄々を捏ねてみると、由乃さんも困った顔をしながらも膝をポンと差し出してくれた。
ああ、こうやって甘やかしてくれるところが最高過ぎる。
奈々子が相手だと、こうは行かなかったからなあ。
同級生だったし、彼女に甘えるって発想自体なかったしな。
「もう、困った彼氏さんね。これじゃ、歌えないじゃない」
「歌とかどうでもいいですよ。あ〜、柔らかくて最高です」
由乃さんは膝で寝ていた俺を優しく撫で撫でしながら、母親みたいな眼差しで俺を見下ろす。
赤ちゃんプレイってあるけど、あれにハマる男の気持ち、少しわかったかも。
「いい加減にしなさいよ……人の前で、はしたないもの、見せつけて!」
「あ? 何だって?」
まさか、奈々子の口から、『はしたない』なんて言葉が出てくるとは思いもしなかったが、由乃さんとイチャついてるのをみてムカついているなら、何よりだ。
少しはお前にフラれた時の俺の気持ちもわかったか、バカめ。
「こら、はしたないなんて言わないの。もう、私はむしろ甘えられて嬉しいんだからね」
「そうだ、そうだ。へへ、由乃さんが喜んでいるなら、遠慮はいらないですね」
「きゃっ! こ、こら……変な所、触らないの」
由乃さんの太腿をちょっと撫でてやり、奈々子の感情を逆なでしてやる。
悲鳴を上げていたが、本当に嫌がっていた訳ではないので、もっとやってやろうっと。
「そういう嫌がらせして、楽しいんだ……」
「誰が嫌がらせしているって? 俺、由乃さんの事、好きだからこういう事、やってるんだけど」
「好きですって。笑わせるんじゃないわよ。お姉ちゃんの事も、下心でしか見てないじゃない!」
「こ、こらっ! そういう事、言わないの。そんな訳ないじゃない」
おいおい、何を逆切れしているのか知らないが、下心なんてあって当たり前だろう。
「お姉ちゃんもそんなのに気を許さない事ね。その男、お姉ちゃんの事、変な目でしか見てないっ!」
「そ、そんな事は……ないわよね」
「えーー、下心持っちゃ駄目ですかー?」
「あん♪ もう、そういう事じゃないの~~……陸翔君は高校生だから、まだそういうの早いでしょう」
起き上がって、由乃さんの肩に手を組み、あちこち体を触っていく。
これぞ正にカップル同士のイチャイチャだよなあ。
そこにいる奈々子には、ここまでやった事はなかったんだよな。
今思うと、友達の延長みたいな付き合いでしかなかったと思う。まあ、付き合っている時は、夢中だったんだけど。
「へええ……二人とも、私を怒らせてそんなに楽しいんだ……」
「怒らせるつもりはないのよ。私達、ちゃんと上手くやっているってのを奈々子にも見せてあげようと思って。奈々子も、今の彼氏とこういう事してるんじゃないの?」
「今の彼氏って、誰なんですかねー」
「私の事なんか関係ないでしょう!」
「あるわよ。ねえ、陸翔君。奈々子と付き合っている時、こういう事、やってなかった?」
「ないですね」
そりゃ、腕を組んだり、手を繋いだりはあったけど、それ以上の事はなかった。
膝枕なんてしてくれと頼んだこともなかったし、キスとかも一回しようとしたんだけど、逃げられたんだっけ……。
まあ、まだ早いと思ったんだけど、今思うと、俺の事、こいつは本気で好きじゃなかったのか?
「しないわよ……男と、そんな事するもんじゃないと思っているし」
「は?」
思いも寄らぬ言葉が奈々子から飛び出し、驚いてしまう。
「奈々子、今まで色々な人と付き合っていたみたいだけど、本当に好きで付き合った人は居るの? お姉ちゃんに正直に教えてくれない?」
「さあ。それを聞いてどうするの?」
「うーん、奈々子にもちゃんと好きな人とちゃんと付き合って、イチャイチャして欲しいなって思って……見た所、陸翔くんとは割と上手くやっていたみたいだけど、どうして……」
由乃さんの問いに奈々子は、そっぽを向いて、答えようとしない。
こいつが何人の男と付き合っていたか知らないけど、俺はまだ上手くやっていた方だったのか?
「どうして別れたって? 飽きたからよっ! そんなつまんない男っ! 悪いっ!? 別に良いじゃないっ! 私がすぐ飽きた男なんか、お姉ちゃんと上手く行くわけないから、さっさと別れろって言ってるのよっ!」
「ちょっ、奈々子っ!」
奈々子は急にブチ切れて、マイクを椅子に叩きつけ、部屋から飛び出してしまう。
それを見て、由乃さんは慌てて奈々子を追いかけていき、俺が一人取り残されてしまった。
「やり過ぎちゃったかな……」
あいつを怒らせようと、ちょっと由乃さんとイチャ付きすぎたけど、流石に調子に乗り過ぎてしまったか。
奈々子の事はどうでも良いんだが……由乃さん一人にあいつのフォローを任せるのも何かあれなので、俺も追いかける事にした。
「えっと……あ、居た」
部屋を出ると、女子トイレの入り口の所に、由乃さんが奈々子の腕を掴んで、何か話していた。
「あのー……」
「あら、陸翔君。ごめんね、急にこの子が……」
「こいつに謝らないで」
「で、でもあなたが陸翔君に……」
「何で、こんな男に謝らないといけないのよ」
奈々子は鋭い目で俺を睨みながら、そう言ってきたが、俺も奈々子に悪い事をしたと思ってないので、謝りたくはない。
「ご、ごめんなさい。調子に乗り過ぎちゃったわ。陸翔君が甘えてきたら、つい……」
「俺も調子に乗り過ぎちゃったかも。まあ、不快な思いをしたってなら、悪かった」
本当は謝りたくはなかったんだけど、由乃さんに視線で促されたので、取り敢えず曖昧な言葉で謝っておく。
くそ、由乃さんも面倒くさい妹をもったものだな……。
素直に祝福してくれると思ったら、別れさせようとしてくるんだもん……どういう性格しているのか、元カレでありながらわからなくなってきた。
「ほ、ほら、今日はもう帰ろう。ゴメンね、後は家でゆっくりと奈々子と話し合うから」
「は、はあ……じゃあ、今日はこれで……」
由乃さんに任せて良い物かわからなかったが、とにかく由乃さんの言う事はまだ聞いている様だったので、今日の所は彼女に奈々子の事は任せることにした。
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