第22話 今カノと元カノとのデート

「…………」


 ソファーに座ると、向かい側に座っていた奈々子が不快そうな眼差しで俺を見つめており、嫌悪な空気がリビングに漂う。


 奈々子ではなくても、これは複雑な気分にはなるだろうが、俺は彼女である由乃さんにお呼ばれしたので、俺には一切責任はないと言いたい。



「えーと、改めて紹介します。彼は陸翔君。その、私とお付き合いさせてもらっています! って、何か恥ずかしくて、上手く言えないなあ……」


「ど、どうも……由乃さんとお付き合いさせてもらっています」


「…………」


 由乃さんは俺の隣に座り、腕を組みながら、噛み噛みの口調で俺を奈々子に紹介していく。


 今カノの妹であり、俺の元カノでもある奈々子が姉から妹の元カレと付き合っていると紹介されるって、なんというカオスな状況なんだ……。


 案の定、奈々子は俺を睨みつけており、俺も凄くぎこちない気分のまま、奈々子に挨拶する。


 普通なら修羅場必至の状況だけど、由乃さんはいつもと変わらない穏やかな笑顔で、


「あ、あの……何か、ごめんね。私が陸翔君と付き合いだして、びっくりしたよね?」


「そりゃ、まあ……お姉ちゃん、陸翔の何処が好きになったの?」


「んーー? 急に言われても難しいけど、優しくて可愛い所かなあ」


「か、可愛いって……」


 と、由乃さんが嬉しそうに俺と付き合った理由を答えるが、俺、そんなにかわいいかな?


 由乃さんの趣味も変わっているけど、それを言ったら、俺と一時期付き合っていた奈々子も同じ話だわな。


「ふ、ふーん……」


「えっと……ごめん、やっぱり複雑よね?」


「別に。お姉ちゃんが誰と付き合おうが、私には関係ないし」


 おっ、わかっているじゃないか。


 だったら、由乃さんと俺の好きにさせてくれよと、言いたいが、ここはちょっと黙って由乃さんに任せておこう。


「そう、ありがとう。えへへ、奈々子も認めてくれたよ。よかったね♪」


「み、認めてくれたんですかね……?」


 まあ、奈々子に俺達の交際を反対する権利も資格もないとは思っているが、奈々子の顔を見れば、明らかに嫌がっているんだけど……。


「話は終わり? なら私、ちょっと外に出てるね。二人の邪魔しちゃ悪いし」


「あ、待ってよ。出るなら、私達も一緒するわ」


「何で? 二人で楽しめば良いじゃない。てか、そんなに陸翔とイチャついているところ、見せたい訳?」


「そういう訳じゃ……ううん、そうね。私と陸翔君がちゃんと上手くやっている所を見せてあげるわ。奈々子も私が彼とちゃんと上手く付き合えているか不安なのよね?」


 は、はい? 


 俺とイチャついている所を奈々子に見せるって……それ、奈々子への嫌がらせにならない?


「陸翔君は嫌?」


「俺は構いませんけど……出来れば、由乃さんと二人きりが良いなーって、思ったり」


「それはいつでも出来るじゃない。ほら、ちょっと気が早いかもしれないけど、奈々子も将来、陸翔君の義理の妹になるかもしれないんだし、わだかまりがあるんなら、ちゃんと今の内に解消しないといけないと思って」


 嬉しいけど、めっちゃ気が早いな、おい。


 そうなれるように努力はしたいけど、奈々子が義理の妹って、現状ではやっぱり嫌だな……。



 こういう発言を妹の前でサラリと言っちゃう由乃さんもなんか感覚がズレている気がするが、奈々子を逆に怒らせるだけになる可能性大なので、気が乗らない。


 が、奈々子に大好きなお姉ちゃんが元カレと仲良くしている所を見せつけて、ムカつかせるのも悪くないか。


 散々、こっちも不愉快な思いをさせられたんだし、後で奈々子が何しようが俺は由乃さんと別れる気はないので、


「そうですね。三人で親睦を深めましょう。奈々子も良いな?」


「く……わかったわよ」


「決まりね。じゃあ、何処に行く? 奈々子の好きな所が良いわ。カラオケとかどう?」


「私、歌が上手くないし……何処でもいいよ」


「そう。じゃあ、取り敢えず、駅前のショッピングモールに行こうか。陸翔君、良いよね?」


「由乃さんと一緒なら何処でも構わないです」


 まさか、三人で出かける事になるとは思いもしなかったが、由乃さんがそうしたいのなら、気が済むまで付き合ってやろう。


 奈々子? こいつはどう思おうが知らんが、邪魔だけはするなよ。




「うーん、良い天気ねー。あ、この服可愛いわね。奈々子、見てみて。そろそろ、暑くなってきたし、こういうのも良いわよね」


「う、うん……」


 三人でショッピングモールに行き、由乃さんは俺の腕を組みながら、通りがかった服売り場で夏物の服を見ていく。


「もう、そんな後ろの方にいないで、こっちに来れば良いのに」


「二人の邪魔になるし……てか、そんな腕をガッチリ組まなくても」


「あ、うーん……でも、カップルだし。ねえ、陸翔君?」


「は、はい」


 奈々子は引きつった笑顔でそう由乃さんにそう言ってきたが、由乃さんは気にする様子もなく、平然と俺の腕にしがみついてきた。




 うーん、嬉しい事は嬉しんだけど、奈々子の視線が微妙に痛くて辛い。


 妹に不愉快な思いをさせて、何がしたいのか……由乃さんが楽しければそれで良いんだけど、やっぱり奈々子の存在がね……。


「あー、プリクラあるね。三人で一緒に撮らない?」


「三人でですか? 俺は良いですけど……」


「何で私まで……」


「いいじゃない。今日は三人の親睦も兼ねているんだから。ほら、ね」


「私はいいから、二人でやれば」


「どうしても嫌なら、いいけど、お姉ちゃんは奈々子も一緒が良いなあ。陸翔君とも、少しは仲良く出来るようならないと、ずっとぎこちないままでしょう」


「う……」


 由乃さんに頼み込まれて、奈々子も渋々ながらも、一緒に撮る事になった。




「フレームはこれがいいかなー? ほら、陸翔君真ん中で」


「は、はい」


「奈々子ももっと近づいて」


「うん……」


 由乃さんに急かされて、奈々子も俺の隣に立ち、三人でプリクラを撮影する。


 うーん、本来なら美人姉妹に囲まれて、両手に花という誰もが羨む状況ではあるんだが……満面の笑みの由乃さんに対して奈々子の引きつった笑顔、俺もちょっと微妙な笑顔になっており、微妙に気まずい気分はまだ続いていた。



「きゃー、よく撮れてるじゃない。ほら、見て。陸翔君、これ両手に花って奴よね」


「はは、そうですね。由乃さんが一番可愛いですよ」


「もうお上手ね♪ 奈々子も加工無しでも負けないくらい可愛いからね。一枚いる?」


「私はいらない」


「そう。じゃあ、陸翔君と半分こにするね。はい。えへへ、元カノと今カノとのプリクラだよ」


「あ、ありがとうございます」


 撮影が終わりプリントアウトされたプリクラを、由乃さんは半分俺に渡すが、よくもまあそんな地雷ワードを平気で言えるものだと感心してしまった。


 今の所、由乃さんが一人で盛り上がっちゃっている感じだけど、奈々子の怒りが爆発しないか、ちょっと心配になっていた。

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