第21話 三人が一堂に会する
「全く、酷い目に遭ったな」
奈々子の後を付けた結果、危うく変なヤンキーにボコられるところだったが、これからは気を付けないと。
というか、あんな女の心配なんかするんじゃなかった。
別に奈々子がどうなろうが、関係ないじゃないか。
そう何度も思っていたが、あいつは明らかに俺と由乃さんの関係を良く思ってない上に、別れさせようとしているみたいなので、やっぱり完全無視は出来ない。
せめて、俺と由乃さんの仲に口は出さないでほしいんだが、由乃さんにちょっと相談してみるか……。
「うーん、出ないな……」
夜中になり何度か由乃さんに電話をかけてみるが、一向に繋がらない。
バイトや大学が忙しいのか……くそ、どうするかな!
何で、あんなのと付き合ったんだろうなあ……今、思い出して見ても付き合っていた頃の奈々子と今の性格悪い奈々子は同一人物には思えない。
あそこまで、内面が最悪な女なのに、良くもああも良い子に振る舞えたもんだ。
まさか、由乃さんも本当なああなんじゃないかと勘繰りたくなるが、いやそんなのはあって堪るか。
由乃さんは奈々子と違うぞ……少なくともあいつみたいに男漁りをしている訳じゃないからな。
姉妹だから似た部分もあるにはあるけど、奈々子とは根本的な性格は異なるってのは二人と付き合ってみて、なんとなくわかる。
自分の彼女を信じないで、どうするんだ……奈々子の事なんか、うるさい雑音とでも思っておけば良いじゃん。
「あ、由乃さんから……はい」
『こんばんは。ゴメンね、サークルの集りが遅くなって、ちょっと電話出れなくて』
「いえ。すみません、何度も」
ようやく由乃さんから電話が来たので、すぐに出る。
ああ、由乃さんの声を聞いただけで癒されるなあ。
奈々子の事でストレスがマッハになっていたが、やっぱり由乃さんと一緒なだけで癒されるよ。
『それで、どうしたの?』
「あの、会いたいです」
『はい? くす、ありがとう。でも、今は流石に夜遅いし』
「ですよね、はは。じゃあ、今度はいつ会いましょうか?」
『えー、そうねえ。日曜なら空いているけど、何処に行く?」
よし、日曜に会えるならよかった。
由乃さんに普段は会えないのが、やっぱりネックだよなあ。
年齢差というか、違う学校ってのが地味に大きい。
一番、顔を合わせたくない奈々子とは平日は嫌でも顔を合わせないといけないのに、出来れば姉妹を交換して欲しいよ。
『この前は、心配かけてゴメンね。奈々子にはちゃんと言っておいたから』
「あ、いえ……すみません、力になれなくて」
『え? どうして、陸翔君が謝るの? 別に悪くないじゃない』
奈々子の帰りが遅くなって電話してきた件なら、男と一緒に居るのを黙っていた俺にもちょっと責任がある。
由乃さんに余計な心配をかけたくなかったから、黙っていたんだけど……やっぱり、良くないか。
「えっと……実は、奈々子の事でちょっと話があるんですけど……」
『ん? またあの子、何かしたの?』
「は、はい……その、奈々子、また違う男を連れているところを見ちゃったというか……」
『ええ? また? もう、だから最近、帰りが遅いのかしら……』
「すみません、黙っていて! 由乃さんに余計な心配をかけたくなかったので、余計な事は言わないようにしていたんですけど……」
『あ、ああ……そうなんだ。別に謝らなくていいよ。悪いのは奈々子なんだし。それにしても、どうしたのかしらね、奈々子……最近、ちょっと荒れているみたいで心配だわ。私にはいつも通りなんだけど、両親にはきつく当たっていて』
「そうなんですか?」
由乃さんには相変わらず、優しいようだが、家でも荒れ始めているのか。
まあ、あいつの家庭はどうでも良いし、正直、そんな事まで首を突っ込みようがないんだが、由乃さんに心配をかけるのは止めて欲しい。
『もしかして、あの子と喧嘩したりしている?』
「う……喧嘩というか……あいつ、俺と由乃さんが付き合っているのが面白くないみたいで」
『そ、そうなんだ。私には別に特に陸翔君の悪口は言ってないんだけど……ああ、困ったわね。陸翔君の事だって奈々子が悪いのに』
由乃さんには甘々みたいだが、あいつはもしかしてかなりのシスコンなんか?
付き合っている時も、由乃さんの話はよくしていた気がするが……その時は特に気にもしてなかったんだけど、大好きなお姉ちゃんを取られたのが嫌だとか。
だったら、まだ可愛げはあるんだけどなあ。
「この前、由乃さんの家に来た事も嫌だったみたいで……だから、もう由乃さんの家、来ない方が良いですかね」
『もう、自分も男の子、何度か連れてきているのに、勝手な子ね。そうね……じゃあ、今度、また家に来る?』
「はい? あの、今の俺の話、聞いてました?」
『うん。また来て欲しいの』
由乃さんの方から誘われたんなら、断る理由もないんだが、また奈々子に嫌味を言われるのが嫌なんだよなあ。
でも、まああいつの小言なんぞ、聞き流しておけばいいか。
「わかりました。日曜日ですね」
『うん。じゃ、約束ね。午後からなら空いているから』
何か大事な話があるんだろうと思い、また由乃さんの家に行く事になる。
まあ、彼女の家だしな。
俺も嫌な訳じゃないんだけど、ムカつく元カノと同じ家ってのがちょっと引っかかる上にもう来るなとか言われたが、そもそも男を何人も連れ込んでいるあいつに文句を言う資格なんぞない。
そのことをキレイに棚に上げてきやがるから、余計にムカつくんだよ。何様のつもりなんだあいつは。
そして日曜日――
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「こっち来て」
約束通り、由乃さんの家にまた行き、彼女に出迎えられて家に上がる。
今度はリビングに案内されたが、お茶でも出してくれるのかと思って、入ると、
「げっ!」
リビングに入ると、思いもかけない人物がソファーに憮然とした顔をして座っていた。
「な、奈々子……なぜ、お前が」
「ここ、私の家なんだけど」
「あ、ああ……そりゃ、そうだけど……由乃さん、奈々子が居るなら、言ってくださいよ」
「ゴメンね。言うと来ないと思ったし。三人で一度ちゃんと話した方が良いって言うか、奈々子に改めて、陸翔君の事、紹介しておこうかなって思って」
おいおい、奈々子に付き合っていることを紹介するって、姉妹でそんな気まずい状況を作って、どうする気なんだよ。
「それじゃ、ちょっとお茶を淹れてくるから待っててね」
由乃さんはニコニコ顔であったが、奈々子は明らかに嫌がっている顔をしているので、これは由乃さんが取り持ったんだろうが、まさか二人を仲直りさせようとか、そんな事、考えているんじゃないだろうな?
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