第15話 元カノの復讐

「くそ、ああムカついてしょうがねえ」


 奈々子とのやり取りを思い出すたびに、腹が立つのを抑えきれず、その場で不貞腐れてベッドに横になる。


 あれは本当に俺が付き合っていた奈々子と同一人物なのか?


 何か、別人みたいに性格悪い女になっている気がするんだが、あれが本性だというのか……。


「何が絶対別れさすだよ……」


 そんな事、させるかってんだよ。


 俺はもうお前なんかに振り回されたくねえし、未練もないんでね。


「ああ、もうブロックしてやろう。てか、その前にあいつとのやり取り、全部消去してやろうっと」


 と思って、奈々子とのメッセージを全部消去してやろうとしたが、多すぎて、無理そうだった。


「くそ……」


 ちょっとスクロールすると、あいつに送ったメールが目に入ってしまい、当時の事を思い出すと、目頭が熱くなる。


『奈々子~~、今日は楽しかったな。また今度、デートしような』


『どうしても声聞きたくてさ。今、マジで奈々子に夢中なんだよ、俺』


 と軽くスクロールしただけで、あいつにぞっこんだったころのメッセージが目に飛び込んできてしまい、その度に必死になかったことにしようと、消去していった。



『私だけが生き甲斐とかってのも嘘だったんじゃない』


 嘘なんかじゃない。当時は本気でそう思っていたんだ。


 本当に奈々子にぞっこんで、あいつ以外の事は頭にもないくらいだった。


 それをぶち壊したのは、お前だろうが。何、自分の事を棚に上げて偉そうな事を言っていやがる。


 あんなのと関わりたくはない……けど、由乃さんの妹という現実が、どうしても引っかかってしまい、頭から離れる事が出来なかった。



「あ……由乃さんからか……はい」


『こんにちは。今、ちょっと良い?』


「え? あ、はい。どうしたんですか?」


 あいつとの事を思い出して、モヤモヤしていた所で、由乃さんから電話がかかってきた。


 ああ、由乃さんのホワホワした声、聴くだけで癒されるなあ……。



「どうしたんですか?」


『あ、うん。ちょっと聞きたいんだけど、今度の日曜日空いているかな?』


「ええ。あ、デートのお誘いですか?」


「う、うん……迷惑だった?」 


 迷惑な訳が無い。由乃さんからのお誘いなら、嫌だなんて嘘でも言わない。


『日曜日、よかったら、家に来ない? ちょうど、午後なら誰も居なくて……二人きりになれるから、良いかなって思って』


「由乃さんの家ですか?」


『うん。あ、場所はわかるよね? 前にも来た事あるし』


 まさかの由乃さんの御自宅に招待とは……めっちゃ、嬉しい!


 と思ったんだけど、奈々子と付き合っていた時にもお邪魔した事あるんだよな。


 確か、二回くらいお呼ばれして、行った事あるけど、二回目に奈々子の家に来た時に、由乃さんと偶然出会ったんだよなあ。


 あの時は綺麗な人だなくらいにしか、感じていなかったけど、まさか奈々子にフラレて、そなお姉さんと付き合うことになるとはな。


『嫌かな? 家でなら、二人でゆっくりすごせるかなとか思ったんだけど……』


「行きます」


『そう。じゃあ、お昼から夕方くらいまでの時間になるけど、』


 その間の時間だけ、家に誰もおらず、二人きりになれるって訳か。



 ふふ、そうなるとどんなことになるかな……って、前に奈々子と二人きりで家に居た時は、何もなかったんだよな。


 俺の家にも来るかって話はしていたんだけど、その前にフラれて関係が終わってしまったからな。


「奈々子もいないんですよね?」


『うん。あの子、友達と遊びに行くって言っていたから』


 友達ねえ……まさか、セフレとかもいるのか? あいつなら、居ても驚きはないけど、今の俺には全く関係ない話だ。


「あの、ちょっといいですか? 奈々子は、その……俺の事、家では何か言ってますか?」


『陸翔君の事? うーん、別に何も言ってないけど』


「そうですか。俺と由乃さんが付き合っている事、どう思っているのか、気になっちゃって」


 家では特に何も言ってないって事は、由乃さんの前ではいい子ぶっているのか?



『あー、そうだよね。陸翔君の事、色々と聞いているけど、普通に教えてくれるよ。もう、吹っ切れているから、知りたいことがあったら、何でも聞いてねって言っているし」


「あ、そうなんですね。別に交際に反対はしてないですよね?」


『うん。そんな事は一言も言ってないよ』


 今の由乃さんの話を聞く限りでは、むしろ由乃さんには協力的というか、応援している感じすらあるのだが、じゃあ、さっきの俺への態度は何だよ?


 自分の姉には頭が上がらないから、その分、俺にきつく当たっているのか?


『あの、奈々子と喧嘩とかしてない?』


「え? えっと……」


 ついさっき、奈々子と口論になったばかりなんだけど、そのことを話して良い物か悩んでしまう。


 でも、喧嘩した事を話してしまうと、由乃さんに余計な心配をかけてしまいそうだし、


「大丈夫ですよ。喧嘩とかはしてないです。あまり、話はしてないですけど」


『そ、そう。なら、よかったわ。学校で、二人がぎこちない関係になっているんじゃないかって、心配になっちゃって』


「はは、平気ですよ。まあ、ちょっとぎこちない雰囲気があるのは確かですけど……」


 駄目だ。やっぱり、由乃さんには言えない。


 いえば、奈々子との姉妹の仲も拗れそうだし、変な心配をかけて、俺との関係までおかしくなりそうだ。



 奈々子が由乃さんにはきつく当たっている訳ではないなら、俺と奈々子の問題になる訳で、二人でどうにか話し合って、あいつとの仲を修復させるしかないか。


 修復ってのも変だな……ヨリを戻す訳じゃないぞ。


『それじゃ、日曜日に。午後一時くらいに来てくれる?』


「あ、はい。日曜日ですね。めっちゃ楽しみです」


『くす。私もじゃあね』


 また日曜日に由乃さんと会う約束をし、電話を切る。


 奈々子との事はまだ気になるけど、由乃さんと会うの楽しみだなー。


 あいつがどんな妨害してこようが、由乃さんとの関係は変わらない所を見せてやるわ。




 本当、気に入らない。


 よりにもよって、ウチのお姉ちゃんと付き合うとか、どんな当てつけだよ。


 マジで許せない。


 陸翔が泣いて、私とヨリを戻してくれと言ってくれれば、復縁してやっても良いって思っていたのに……!




「マジで許せない。何が私の事しか考えられないよ」


 全部嘘っぱちじゃない! きっと、お姉ちゃんに対しても同じだ。


 あんなクズ男に、お姉ちゃんも私も幸せに出来る訳ないんだ。


 お姉ちゃんとの関係滅茶苦茶にして、死ぬまで私やお姉ちゃんと付き合った事、後悔させてやる。


 ぜってー、別れさせてやる


 それで、絶望させて、お姉ちゃんや私に手を出したこと、永遠に後悔させてやる。

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