第13話 今カノへの疑念
「くそ! 何なんだよ、あいつは!」
家に帰り、学校での奈々子との会話を思い出すと苛立ちが抑え切れずに鞄を放り投げる。
まさか、あんなに性格が悪い女だとは思わなかった……俺が由乃さんと付き合っているのに嫉妬しているのか?
もし、そうなら好きなだけ嫉妬していろと言いたい。
自分は男漁りしまくっているビッチなくせによ……!
「あー、クソ! イライラするなあ……」
俺は本当にあんな女と付き合っていたのか?
だとしたら、今や完全に記憶から消去したいレベルの黒歴史だ。
しかし、奈々子は今の彼女の妹なのだから、忘れたくても忘れられないのが辛い。
由乃さんはあんな奴とは……違うと思いたいが、気になる事もある。
何で由乃さんは俺と付き合おうなんて言い出したのか……本当に俺の事、好きなのか?
確かにあんな美人のお姉さんが殆ど面識もない妹の元カレ……しかも、男子高校生なんかと付き合いたいとか、常識的に考えれば有り得ないよな。
(俺は由乃さんに遊ばれている?)
そんな悪どい女には見えないが……ちょっと聞いてみようかな。
「あ……由乃さんからだ……はい」
『陸翔君、やっほー』
「どうしたんですか?」
何て思っていると、ちょうど由乃さんから電話が来たので、すぐに出る。
『今、大学の講義が終わったところなの』
ああ、もうそんな時間なんだ。
こうやって、マメに俺に連絡を取って来てくれるのは、とても嬉しい。
『あの、実はさ……昨日、奈々子に陸翔君と付き合っているって話したんだけど……』
「ええ、奈々子から聞きました」
『本当? あの子、何て言っていた?』
う……やっぱり、由乃さんも気にはなっていたのか。
どうするかな……今日の事を正直に話してしまうと、由乃さんも心配そうだし、かといって嘘をついても奈々子にすぐバラされそうだしで……。
「あー、その……何で、由乃さんが俺の事、好きになったのって聞かれて……」
『あ、ああ……そういう事、聞かれたんだ』
喧嘩になりそうになったことはちょっと言えなかったが、取り敢えず、このことは話しておく。
『私も昨夜、同じことを訊かれてね……凄く真面目で優しそうな人だからって答えたんだけど、なんか納得してない感じで』
「そ、そうですか」
凄く真面目で優しそうな人……。
奈々子とまんま同じ理由だったので、ちょっと頭が痛くなってきた。
その理由が本当だろうが、嘘だろうが、やっぱり姉妹なんだなと思ってしまったが、考えていることは同じって事は、由乃さんもいつか奈々子みたいに……。
(そんな事はしないよな?)
由乃さんを信じたいが、奈々子の姉という事実がどうしても引っかかってしまう。
血のつながった姉妹だから同じな訳はないと思うが、やっぱり顔も性格とかも似た所はあると感じているので、奈々子とダブってしまうのだ。
『あはは……でも、今の嘘はないよ。何て言うか、一緒に話していく内に、段々興味を持ってきて……それで、デートしてみたら、凄く楽しかったから……ああ、恥ずかしいね、これ』
と、本当に恥ずかしそうな口調で言ってきたが、そんな事で惚れてしまう物なんだろうか?
な、何だか、偉く簡単に惚れられてしまった気もするが……。
『そ、そういう君は私の何処が好きなの?』
「え? そ、それは……美人で優しくしてくれて……とにかく、一緒に居ると安心するっていうか、楽しいので……包容力がある所とか最高です」
由乃さんに逆に何処が好きか聞かれると、俺も上手く言えず、まごついてしまう。
ああ、いかんな……俺もまともな理由を答えられなかったじゃないか。
美人で優しいお姉さんだから惚れましたなんて、俺は俺でチョロ過ぎるだろうよ。
『あ、ありがとう……そんなに美人で優しいかな、私。包容力に関してはそんなこと言われた事もないけど……』
「謙遜しないでくださいよ。よく言われるんじゃないですか?」
『美人って言われることもない訳じゃないけど、みんなお世辞を言っているだけじゃないかって思って……自分にそんな自信がある訳じゃないし、私、人と喋るのもあまり得意じゃないから……だから、誰とでも仲良くできる奈々子が羨ましいって思っているんだ』
うーむ、自分に自信がないって、あんな美人でイイ大学にも言っているお姉さんでも、そんな贅沢な悩みを抱えているのか。
だったら、俺は何なんだろうな……由乃さんに勝っているところなんて、身長くらいしかないんだけど、そんなの男だから当たり前だし。
『あの、今日はこれから会えたりする?』
「え? 今からですか?」
『きょ、今日はバイトが無くて、暇だから……よかったらだけど、ちょっとだけ顔を合わせられない?』
いきなりのお誘いだったので、どうしようか悩んだが、断る理由もないので、
「いいですよ。何処で会います?」
『じゃ、じゃあ駅で待ち合わせね。大丈夫、遅くまで連れまわしたりしないよ。だって、陸翔君、未成年だもんね』
俺としては、夜遅くまで連れまわしてくれても一向に構わないんだが、まあ両親もうるさいし、何より、下手すると、由乃さんが警察のご厄介になりかねないからな。
その辺の事を考慮しながら、俺も彼女と付き合っていかないと……由乃さんに迷惑をかけられないしね。
「じゃあ、今すぐ行きますよ」
『うん。私もすぐに着くから』
と言って、電話を切り、大急ぎで出かける準備を始める。
うおお、今日も由乃さんに会えるとは。
彼女に会えるなら、例え槍が降ろうが言ってやるぜ。
「はあ、はあ……まだ、来てないか……」
自転車でひとっ走りして駅まで着いたが、やっぱり早く来すぎたか。
ま、駐輪場に自転車を置いている間に由乃さんも来るだろう……。
「あれ、もう来たんだ」
「え? 由乃さん! いたんですか?」
自転車を駐輪場に置きに行こうとすると、由乃さんが背後からポンと肩を叩いて声をかけて来た。
「うん。今、そこのコンビニでちょっと買い物をしてて」
「あ、そうだったんですか。もしかして、電話をしている時にはもう?」
「えへへ、実は……」
何だ着いていたんだな。
まあ、早く由乃さんに会えただけでも嬉しい。
「自転車で来たんだね」
「由乃さんに一秒でも早く会いたくて。来た甲斐がありましたよ」
「そ、そう……もう、恥ずかしくないの、そういう事言って?」
「恥ずかしくないですって。事実ですし」
愛しの彼女に会うためなんだから、恥ずかしい事なんかないって。
「それより、どうしたんですか? 何か用でも?」
「あ、ああ……用がある訳じゃないけど、なんか急に顔が見たくなって……呼んだら、どのくらいで来るかなって考えていたら、すぐに来たからビックリしちゃった。ゴメンね」
急に顔が見たくなったから呼び出したのか……もしかして、俺は試されていたのか?
「迷惑だった?」
「いえ……それどころか、めっちゃ嬉しいです……俺に会いたかったから、呼び出してくれたなんて」
それだけ愛されていたって事だろう?
全く奈々子に変な事を言われたから、ちょっと由乃さんを疑ってしまった自分がアホみたいだ。
「ええ? 嬉しかったの?」
「当然ですよ。由乃さんが会いたいって言うなら、授業サボってでも行きますから」
「サボリは駄目だよ……でも、ありがとう。くす、じゃあお礼にソフトクリーム奢ってあげるから」
「いやー、あはは。ありがとうございます」
ソフトクリームを奢ってくれると言うので、遠慮なく頂くことにし、短い間ではあったが、由乃さんとのデートを楽しむ。
終わる頃には、由乃さんへの疑念なんぞ頭の中から消え去ってしまった。
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