第12話 元カノの逆襲?

「ん……」


 それから、何秒くらいやっていたか、由乃さんの方から口を離して、うっとりとした目でしばらくお互い見つめ合う。


 ほ、本当にキスしてしまった……奈々子ともしてなかったのに、まだ付き合って日が浅い由乃さんと……。


 彼女の唇柔らかかった……てか、夢でも見ているみたいで、ドキドキが止まらない。



「あ、その……何か、歌おうよ。折角、来たんだし」


「そ、そうですね。えっと……あ、これ、動画サイトでバズっていた歌ですよね。カラオケにも入っていたんだなー、はは」


 何だか恥ずかしかったので、気を紛らわせるように、タブレットで最近流行の歌を入力していき、由乃さんとのカラオケを楽しむ。


 マジでやっちまったんだよな……これで、正式に恋人同士になれた気分だ。


 奈々子とは、腕を組んだり、手を繋いだりはしていたけど、キスとかはしてなかったからな……。


 今、思うと何でしようとも思わなかったのか不思議だが、奈々子とただ遊ぶだけで満足してしまっていたからだろうか。


 一緒に遊んでいると楽しかったのは事実なので、友達として付き合う分には悪い奴ではないかもしれないが……。



「あ、そろそろ時間だね」


「そうですね」


 それから二人でデュエットを歌ったり、ドリンクを飲みながら雑談をしている内に、時間も終わりそうになってしまっていた。


「延長はなしでいい?」


「もう遅いですしね」


「うん。あの、陸翔君。考えたんだけど、もう奈々子にも見られちゃったし、私達が付き合っている事、奈々子に……」


 話しても良いかって事か。


 まあ、今更隠す意味もないし、俺達が付き合っているからって、あいつに反対される謂れもないからな。


「もう、話しちゃっても良いんじゃないですか。俺から言いましょうか?」


「ううん。どうせ、今日の事、聞かれるだろうし、その時に私が話すね」


「わかりました。どんな反応しますかね、奈々子」


「さあ。でも、うすうす気づいているみたいだし、そんなに驚きはないんじゃない」


 だよなあ。


 まあ、内心複雑かもしれないが、奈々子も反対はしないだろうよ。



「それじゃ、またね」


「はい。家まで送らなくて、大丈夫ですか?」


「今日は両親もいるし……陸翔君と一緒なの見られると、流石に恥ずかしいしね。ましてや、高校生と付き合っているとか知られたら……」


 あー、それは普通に嫌がられそうかも。


 まあ、焦る事はないか。


「ですね。じゃあ、また」


「うん。えへへ、こっち来て」


「何ですか?」


「ん……」


 帰ろうとすると、由乃さんが手招きしたので近づくと、不意に俺の頬に顔を近づけて、由乃さんの唇が頬に触れる。


「じゃ、じゃあね」


「あ……は、はい」


 顔を離すと、由乃さんは悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言い、小走りで自宅まで駆け込んでいった。


 はあ……ヤバイな、これは……由乃さん




 そして、月曜日になり――


「はあ……駄目だ、何も手が付かない」


 授業中も由乃さんの事が頭から離れずに上の空で、思わずため息をついてしまう。


 これはやべえ……土曜日に彼女とキスをした事で、ますます由乃さんの事を好きになってしまい、もう禁断症状すら起きつつある。


 俺より少し大人だけど、ちょっと子供っぽい所もあって、そんなところも可愛すぎる。


 もう奈々子なんぞとは比較にならない夢中になっているが、俺はこの先、生きていけるんだろうか。




「陸翔」


「ん? おお、奈々子じゃん。どうしたん?」


「さっきから呼んでいるのに、全然返事しないんだもん。どうしたの? 今日はずっと上の空だったけど」


「別に」


 何てことを考えながら悶々としていると、奈々子に背後から声をかけられたが、何度も俺の事を呼んでいたのか。


 全く気が付かなかったな。まあ、今更、奈々子の事なんか眼中にもないんだけど、一応、今の彼女の妹だって事は忘れないようにしないとな。




「ちょっと話があるんだけど、良い?」


「何? 金でも貸して欲しいの?」


「そんなんじゃないよ。大体、何の話か想像付くんじゃないの?」


 はて、何のことかと最初、思ってしまったが、よく考えてみたら由乃さんの事だろう。


 昨夜、由乃さんから俺と付き合っていることを聞いたのかもしれないが、奈々子の事だから祝福してくれるんだろうなと変な期待を持ちながら、元カノに着いていった。



「どうしたの? まさか、ヨリを戻したいのか?」


「そう言えばヨリを戻してくれるの?」


「まさか。今、付き合っている彼女が居るって言っただろ」


 奈々子と一緒に人気のない空き教室まで行くと、早速、奈々子に嫌味を込めた冗談を言ってやる。


 俺も性格が悪くなったもんだ……まあ、今更、奈々子に優しくしてやる義理もないが、俺の彼女の妹ではあるから、少し自重しておくか。



「お姉ちゃんと付き合っているんだって?」


「まあな。由乃さんに聞いたんだろ」


「うん。昨日、一緒に居る所、見たし」


 やっぱり、由乃さんから聞いたんだな。まあ、どうせすぐ知るんだから良いだろう。


「俺もちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。あの一緒に居た男、何なの?」


「新しい彼氏」


「は? この前のは……」


「もう別れたよ」


「はいっ!? だって、お前……」


 別れたって、まだ付き合って何日も経ってないじゃん……。


「もともと、お試しでもいいから付き合ってくれって言って付き合っただけだし。他に好きな人が出来たからって言って、もう別れたよ。向こうは納得してなかったけど、お試し期間なら文句言われる筋合いないじゃん」


 いやいや、ブチ切れ案件だろ、そりゃよ……俺だったら、ただじゃ済まないぞ、そんなの。


「それより、どうしてお姉ちゃんと付き合っているの?」


「んー? 由乃さんが好きだから」


「まあ、お姉ちゃんは美人でおっとりした人だしね。陸翔が好きになるのはわかるけど、逆が理解出来ない。何で、今まで男と付き合った経験もないお姉ちゃんが面識も殆どない年下の陸翔と付き合っているのよ。おかしいじゃない」


 おかしいって……何だよ、今になって嫉妬しているのかこいつ?




「べ、別に良いだろ。俺と付き合っても。もしかして、嫌なのか?」


「嫌って言うかさ。不思議な気がして。私がいうのも何だけど、お姉ちゃんと陸翔じゃ釣り合わないと思うのよね。女子大生と男子高生ってだけじゃなくて、色々な面でさ。陸翔もそう思っているでしょ」


「お前、喧嘩売っているのかよ?」


「事実じゃない。冷静に考えなよ。お姉ちゃんが陸翔を好きになる理由ってなに? 妹の元カレなんて、普通好きにならないよね。何処が好きなのか、ちゃんと聞いた?」


「そ、それは……」


 奈々子の言葉にカッとなってしまい、殴りかかりそうになってしまったが、少し考えてみると、確かにおかしい気はする。




 由乃さんと会ったのは、奈々子と付き合った時に一度、奈々子の家に行き、その時に偶然、顔を合わせたのだ。


 ちょっと挨拶したくらいだけど、まさかあの時から……何てことはないだろうな、流石に。




「ああ、ごめん。別に二人の交際に反対な訳じゃないけどさあ。あまり、浮かれない方が良いんじゃない。お姉ちゃんが陸翔と付き合っているの本当に陸翔の事好きで付き合っているか、わからないよ。何か裏があるかもね」


「裏ってなんだよっ!?」


「それはわからないわよ。でも、そうかもしれないってだけ。もし、そうなら、今の関係長く続かないかもね。陸翔も少し考えた方がいいよ。常識的に考えて有り得ないからさー。女子大生が三つも年下の妹の元カレの男子高生と付き合うとか。じゃね」


「く……お、おいっ!」


 と嫌味を思いっきり込めた口調で俺に告げた後、教室から奈々子はさっさと出て行く。


 しかし、奈々子の言葉は由乃さんに浮かれていた俺に冷や水をぶっかけられた気分にさせたのであった。

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