第11話 元カノともしなかったことを

「何か変な光景見ちゃったね……」


「そうですね」


 奈々子と彼氏が一緒に居る場面を目撃した後、由乃さんと一緒に足早にその場から去り、二人で気まずい雰囲気のまま、街中を歩いていく。


 あいつ、あの彼氏と別れたのか、それとも二股なのか……あの様子だと、俺と付き合っていた時も他の男と二股していた可能性が……。


 もしかして、俺は遊ばれていたのか?


 くそ、奈々子にあれだけ熱を上げていた俺がバカみたいじゃないか。


「あの一緒に居た男の人……前に、奈々子と一緒に写っていた写真を見て、凄く可愛いから、紹介してって言っていたっけ……」


「そうなんですか?」


「うん。もちろん、断ったけど、どうやって知り合ったんだろう? SNSとかマッチングアプリとかかな?」


 マッチングアプリね……そういうの使っていて男を漁っていても、もう驚きはない。


 正直、神経を疑うよ。何を考えているんだ?


「陸翔君。あの子の事、本当に好きだったんでしょう?」


「え? まあ、そうですね。最初見た時から、可愛いって思っていましたし。去年、席が隣同士になった事もあるんですよ。その時も、俺に親しく接してくれて……」


 一年の時も同じクラスで、明るくて可愛くて誰にでも気さくに話しかける人気者――


 陰キャっぽい俺にもフレンドリーに接してくれて、女子に耐性がなかった俺を勘違いさせるには十分であった。



「あ、おはよう陸翔君」


「あ……お、おはよう」


 朝、教室に行くと、いつも眩いばかりの可愛い笑顔で俺に挨拶してくれた奈々子。


 思い出しただけで、あいつのあの時の笑顔はマジで可愛かった。


 そりゃ、その時は奈々子の本性など知る由もなかったし、一応、彼氏がいるらしいって噂は耳にしていたので、俺にはとても無理だなって思っていたのだ。



 だけど、どうしても想いだけ伝えたくて……去年の十一月くらいだったかな?


 ダメもとで告白してみたら……。




「あの、大倉さん! その……ずっと、君のこと、好きだったんだ。えっと……良かったら、俺と……」


 奈々子を誰も居ない教室に呼び出して、思いきって想いを告げる。


 どうせ駄目だろうなと思ってはいたのだが、結果は予想外のものだった。


「うん、いいよ。陸翔君、凄く真面目で優しそうだし」


「え? ほ、本当?」


「うん。よろしくね、陸翔」


 あっさりとOKを貰い、拍子抜けしてしまったが、それから奈々子と



 初めての彼女だったので、何をして良いのかもわからず、ネットで色々とデートスポットを検索したりして、悩んでいたが、奈々子は何処に行っても基本喜んでいた。


 だから、他の男に靡くなんて想像もしてなかったんだよな……すべてが上手く行っていると思っていて、奈々子に夢中だったからな。


(だから、あんなフラれかたをしたので、余計にショックだったんだよなあ……)


 あんな女だと知っていれば、告白なんて絶対してなかったんだけど、何という悪女。



「ねえ、陸翔君」


「は、はい? 何です?」


 と、奈々子の事を思い出している最中に、由乃さんが俺の袖を引っ張り、


「他に行きたい場所がないなら、あそこに行かない?」


「え? あそこって……?」


 由乃さんが指さしたのはカラオケボックス。


「うん。どうかな?」


「いいですね。行きましょう」


 奈々子の事も見失ってしまったし、ここでボーっとしてもしょうがないので、由乃さんと一緒にカラオケに行く事にした。



「ドリンクはウーロン茶でいい?」


 カラオケボックスに入り、ドリンクを注文し、由乃さんと並んで座る。


「えへへ、二人きりだね」


「あ……そ、そうですね。はは、緊張しちゃうなあ」


 由乃さんが隣に座りながら、手を握って、そう言うと、ここが密室であることを思い出す。


 正真正銘の二人きりで、ここならだれにも邪魔されることはない。


 まあ、監視カメラあるんだろうけど、やっぱりドキドキしちゃうな。


「奈々子、学校で上手くやっているのか、ちょっと心配になっちゃって……悪口、言われていたりしない?」


「あ、どうですかね……あんま、聞かないですけど」


 実は付き合う少し前に、とんでもないビッチだとか噂されているのは耳にした事はある。


 でも、小耳にはさんだだけなので、まさかと思っていたが……あながち、嘘ではないんだろうな。


「ふふ、ねえ。また膝枕してあげようか?」


「します」


「そ、即答だね……」


「断る理由ないですし」


 由乃さんが膝をポンと叩きながら、そう言ってきたので、遠慮なくソファーに横たわり、差し出された由乃さんの膝枕に頭を預ける。



 ああ、気持ちいいなあ……これだけでも、由乃さんと付き合ってよかったと思える。


(そういえば、下着を変えたとかなんとか奈々子が言っていたな……)


 まさか、今は勝負下着を着ているのか?


 長いスカートを履いているので、流石に下着の色まではわからないが……いくら彼女とはいえ、そんな事を聞く勇気はないから、確認しようがない。


「ふふ、甘えん坊さんだね」


「由乃さん相手なら、赤ちゃんにもなっちゃいますよ」


「もう、彼氏じゃないの?」


「そうですけど……ああ、いいですね」


 由乃さんの膝枕柔らかくて、寝心地最高なんだもんな。


 むしろ赤ちゃんに戻らせているの由乃さんの方じゃないのかね。




「あの……こんな事、聞いて良いかわからないけど、いいかな?」


「何です?」


「な、奈々子とはどこまでやったのかな?」


「はい?」


 頭を撫でながら、由乃さんが顔を赤くして、そう聞いてきたので、何のことかと思っていると、


「だから、その……に、肉体関係とかっ!」


「っ! し、してないですってっ! 本当です!」


 ストレートに聞いてきたので、ビックリして声を張り上げて、否定する。




「本当?」


「本当ですって! 健全な交際をしていましたから!」


「そ、そう……よかった……」


 肉体関係とか、そんな事は全く考えていなかったな。


 ただ一緒に居るだけで楽しかったとか……。




「じゃ、じゃあ……キスとかは?」


「してない……です」


「そ、そういうものなの?」


「いえ、他のカップルはよくわからないですけど、俺達はしてなかったですよ」


「そう……したくなかったの?」


「あー……どうですかね?」


 キスとかエッチとか、そんな事は考えていなかったというか、そういう雰囲気ではなかったというか。




「あの子の事、大事にしていたんだね」


「大事とか……まあ、そのつもりでしたけど」


「くす、ありがとう。じゃ、じゃあ私とは……どうかな?」


「え?」


「したいと思っている?」


 由乃さんが視線を逸らしながら、膝で寝ている俺にそう訊く。




 これは……したいのか?


「思っていますっ!」


「きゃっ! あ、そ、そう……」


「してもいいですか?」


「ええっ? あ、ちょっと待って……ん……」


 飛び起きて、由乃さんの肩に手をかけて迫ると、由乃さんも慌てて烏龍茶を飲む。


「じゃ、じゃあ……いいよ……」


「あ……はい」


「ん……」


 烏龍茶を飲んだ後、由乃さんが目を瞑って顔を差し出したので、俺も顔を近づけると、由乃さんの方が更に顔を突き出して、唇が触れる。


 元カノである奈々子ともやらなかった口付けを体験し、そのまましばらく唇を重ねあわせていったのであった。


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