第10話 今カノとのデート中に元カノと……

「あ、こっちこっち」


「すみません、待たせましたか?」


 そして、待ちに待った由乃さんとのデートの日になり、彼女との待ち合わせ場所に行くと、既に由乃さんが俺を待っていた。


「ううん、今、来た所」


「なら、よかったです」


 おお、こんなデートでの定番のセリフも凄く良いなあ。



 それにしても、今日も由乃さんはお美しい。


 今日は少し暑いからか、薄手の白のブラウスにブラウンの長めのスカートか。


「それじゃ、行こうか」


「はい」


「えへへ……手、繋ぐ?」


「いいですね」


 むしろ、俺の方から言いたかったことなんだが、由乃さんの方から言い出してきたので、早速手を繋いでみる。


 ああ、何か手がスベスベしているなあ……手入れが行き届いているんだろうか。


 奈々子の時とはまた違ったドキドキ感があって良い。


「このお店に入ろうか」


「あ、はい」


 由乃さんと一緒に、近くのカフェに入り、そこでコーヒーとチーズケーキを頼む。


 いいなあ、こういう何気ないデートも。


 普段、会う機会少ないから、こうやって二人きりになれるだけでも、とても嬉しいのだ。


「それでね、この間、友達と一緒に渋谷に行ってね……」


「渋谷かー……俺、行ったことないんですよね」


「そうなんだ。人がいっぱいいてね。本当、凄いよ」


 ふーん……あんまり、人が多い所は好きではないんだよな。


 でも、由乃さんが行きたいなら、何処にだって付き合ってやるさ。


 それこそ、南極だろうが宇宙の果てだろうが何だろうがな。


(そういや、奈々子といつか一緒に渋谷に行こうって言っていた気が……)


 ああ、くそ。


 またあいつの事、思い出しちゃったよ。


 何でだろうな……もしかして、未練があるのか? やっぱり、同じクラスだし、どうしても話す機会も出て来ちゃうから、嫌でも忘れられんのだ。




「どうぞ」


「あ、どうも。うーん、良い匂い。ここのキャラメルマキアート美味しいんだよ」


「すきなんですか?」


「うん」


 由乃さんはアーモンドとミルクがたっぷり入ったキャラメルマキアートを注文し、香りを楽しみながら、それを飲んでいく。




 お姉さんだけあって、上品な振舞だなあ……奈々子とは、やっぱりまた違うな。


「奈々子も、キャラメルマキアート好きなの。前に一緒に行って……」


「ああ、そういや、よく飲んでいた気がしますね」


 キャラメルマキアート好きでよく飲んでいるってのは言っていたし、前に一緒に飲んだこともあるっけな。


 由乃さんと好みも似ているんだな……まあ、姉妹だし、当然といえば当然か。




「あの、陸翔君。学校では、その……元気でやっている?」


「え? ああ、やっていますよ」


「うん。なら、よかった。特に変わった事もないよね?」


「変わったこと……ないですよ、大丈夫です」


 ちょっと心配そうな目をして、由乃さんが聞いてきたので、俺もそう素直に答える。




 もしかして、奈々子の事を聞いているんだろうか?


 あまり名指しで訊きたくないってのはわかるけど、よっぽど心配しているんだな。


「すみません。ちょっと聞きたい事があるんですけど、いいですか?」


「何?」


「奈々子って、その……今まで、何人の男と付き合っていたかわかります?」


「え? どうして、そんな事を?」


「いえ、何となく気になって……」


「う、うーん……私も全部は把握していないけど、七、八人はいたんじゃないかな……もしかしたら、もっと多いかも」


 七、八人かそれ以上だあ?




 どんだけ男を取っかえひっかえしているんだよ……普段は明るくて、人懐っこい印象のする女で、そういう所に俺も惚れてしまったんだが……もしかして、告白してきた男と全部付き合っているとかじゃないだろうな?


「私も注意はしているんだよ。でも、あの子、告白してきたなら、一度は付き合わないと失礼じゃないとか、何とか言っていて」


「いやいや、何ですかそれ?」


 マジでそんな考えだったのかあいつ?


 そんな事をしていたら、いずれ刺されるんじゃないの……俺みたいな奴にさ。




「だから、男の子と喧嘩になる事もよくあって……いずれ、変なトラブルにならないか心配なの。こんな事を頼める義理じゃないのはわかるけど、奈々子の事、見ていてくれる?」


「は、はあ……」


 彼女にそんな風に頼まれたら、俺も断りづらいので、ひとまず頷く。


 お姉さんとして心配しているんだな妹の事を。


 許せん女だ、色々な意味で。俺をフったことより、由乃さんに心配をかける事が許せん。




「その代わり、私は何でもするから……ね?」


「いえ、由乃さんがそんな事をする必要は……」


「私も無理を言っているのはわかっているの。奈々子の事、見てくれる見返りに陸翔君の為なら、何でもするから」


「あの、だから……」


 何だか、奈々子のこと心配しすぎて、由乃さんもちょっと迷走しているというか……。



「あ、ごめんなさい。私、よく心配性って良く言われて……」


「いいんですよ。奈々子の事はわかりましたから、今日は楽しみましょうよ」


「そうだね。くす、陸翔君の方が大人っぽいね」


「全然、そんな事はないですって」


 まあ、妹があんなじゃ、心配になるのはわかるので、俺に頼るのもわかる。


 ビッチの元カノとはいえ、いずれ俺の義理の妹になるかもしれないんだからな……他人事ではないか。



「ありがとうございました」


「うーん、美味しかったね。ね、次は何処に行く?」


「えっと……それより、腕を組んでくれません?」


「え? くす、いいよ」


 そうおねだりすると、由乃さんは即了承し、俺とぎゅっと腕を組む。


「えへへ、こうすると、恋人同士って感じだね」


「あはは、そうですよね」


 いやー、こうやって甘えられるのも嬉しいなあ。


 基本的に俺の方が甘えているんだが、少しは頼りにされるようにはなりたいな。



「あの、今度は……あ」


 今度は何処に行こうかと話し合おうとした所で、ふと前を見ると、


「あれは……奈々子だよね?」


「は、はい」


 コンビニから、男と一緒に出て来た奈々子が目に入る。


 あれ? あいつ、誰だろう?


 前に見た彼氏とは違うような……?


「え、ええ? あの人……」


「え? どうしたんですか?」


「ちょっと来て」


 奈々子を見て、目を丸くしてビックリした声を上げた由乃さんは、俺を路地裏に引っ張っていく。



「何ですか?」


「あの……奈々子と一緒にいた男の人……私のバイト先の同僚なの。学部は違うけど、同じ大学の人で……いつの間に知り合ったんだろう? あの人が今の彼氏なんだ……」


「は、はあ? え、だって……」


 あいつの今の彼氏って、俺と同じ学校のサッカー部の奴だったんじゃ……まさか、二股?


 取り敢えず、物陰から二人で奈々子を覗いてみると、ふと後ろを振り向いた奈々子と目が合ってしまった。



 あ、やべ……由乃さんと一緒に居る所、見られたかも。


 訝し気な目で俺を見た後、奈々子は由乃さんの知り合いらしい男子学生と腕を組んで、何処かへ行ってしまった。


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