第6話 デートで思いっきり今の彼女に甘える

「私の事、知りたいって……そうだね。なんでも聞いて」


「そうですね……えっと、それじゃあご趣味は?」


「くす、何だかお見合いみたい。趣味かあ……何だろう? すぐには思い付かないけど、お菓子作りとか……後は本読むのは好きかな。陸翔君は?」


「あー、言われてみたら、俺もすぐには出ないですね……よくやっているのは、スマホのゲームとか、漫画読んだりとか……」


 何かガキっぽくて、恥ずかしいけど、実際趣味と言える物もないんだよな。


 由乃さんの方がお姉さんとはいえ、俺も少しは大人にならないと。


「くす、そんなもんだよね。休みの日は何している?」


「大したことは……」


 家でゴロゴロとか。あ、やっぱりこれも言いにくいな。


 奈々子の時も付き合い始めた頃、同じような会話していたけど、その時はもっと気楽に言えた気がするな。


 やっぱり、年齢差が三つってのは結構大きいかも。


 どうしても遠慮してしまう所が出てしまうが、それも良いかもしれない。



「ちょっと、歩こうか」


「はい」


 涼しい風が吹いてきたので、由乃さんと公園内を散歩する事にする。


「桜、完全に散っちゃってるね」


「ですね」


 もう桜は完全に散っているが、この桜並木を見ると、一ヶ月くらい前までは満開で綺麗だったんだろうなと想像してしまう。


 由乃さんと桜ってよく似合いそうだな。


「来年は、桜、一緒に見ようね」


「そうですね」


「うん。絶対だよ」


 と、由乃さんは満面の笑みで答える。


 その笑顔を見た際、ある記憶が俺の頭にふと過ってきた。



「うわあ、綺麗なイルミネーション」


「だな」


 去年のクリスマスイブ――


 奈々子と付き合ったばかりであったが、俺はちょっと遠出して、駅前から公園に広がるクリスマスイブの夜にイルミネーションを奈々子と共に見に行き、奈々子も目を輝かせながら、眩いばかりのイルミネーションを眺めていた。



「今日はありがとう、誘ってくれて」


「はは、喜んでくれて、俺も誘った甲斐があったよ」


「うん。来年も再来年もその後も絶対、二人で見に行こうね」


「ああ、絶対だ」


「えへへ、うん。来年も再来年もずーっと、陸翔とクリスマスを過ごせると良いなあ」


 と言いながら、奈々子は俺の腕にそっと寄り添い、二人で白い息を吐きながら、イルミネーションが輝く道を歩いていった。



「――はっ!」


 な、何を思い出しているんだ、俺は……また、奈々子の事が頭に過るなんて。


 今は由乃さんが俺の彼女なのに。


(それにしても、何が来年も再来年も二人で一緒に見ようねだよ……)


 半年もしない内にあっさりと他の男に乗り換えやがって、ああ、思い出したら、腹が立つ。


 でも、良いんだ。あいつにフラれたおかげで、今は由乃さんと付き合えたんだ。


 もう奈々子と付き合っていた事なんて、キレイさっぱり忘れてやるぜ。


 でないと由乃さんにも失礼だしな。これからの俺は由乃さん一筋で生きるのだ。



「あ、ほら、あれ白鳥じゃない?」


「え……ああ、そうなんですかね」


 何て考えていると、由乃さんは公園内の池を泳いでいる白い鳥を見て、俺の手を引きながら指をさす。


 ここからだとよく見えないが、白鳥なんかなあれって?


 鳥には詳しくはないが、白鳥だったら今、見れるのはレアなんでは。


「ねえ、ボートとか漕げる?」


「う……経験ないですけど、乗りたいんですか?」


「あはは、近くまで行ってみたいんだけどね。でも、その前に逃げられちゃうか。あ、もう飛んでちゃった」


 由乃さんの為なら、頑張って漕いでやろうと言いたかったが、その前に白鳥らしき鳥は、上空へ飛び去ってしまった。




「ふふ、良い雰囲気だね。ねえ、お昼はどうする?」


「あ、えっと……近くにあるレストランで食べようと思ったんですけど、何かリクエストありますか?」


「あー、そうだね。私は……」


 ちょうどこの公園の近くに、ちょっと洒落たレストランがあったので、そこでお昼にしようかなと思ったんだが、由乃さんは少し考え込み。



「へへ、ここで食べようか」


「良いんですか、ここで?」


 公園内にある芝生で由乃さんがレジャーシートを敷いて、コンビニで買ってきた総菜やおにぎりを食べる事になった。




「うん。どうせなら、ハイキング気分を味わいたくて。本当は私がお弁当作ってきてあげたかったんだけど、陸翔君の好みがわからなくて……奈々子に聞こうかと思ったけど、まだ陸翔君と付き合っている事、内緒にしないとだから、ちょっと聞きづらくて……」


「あ、すみません……」


「もう、どうして謝るの。ちなみに、好きな食べ物は何?」


「あー、そうですね。ラーメンとか……ああ、カレーとか友達とよく食べに行きますね」


 趣味と言えるほどではないが、前に友達と一緒にインドカレーの店行って、ちょっとハマってしまったのだ。




「カレーとラーメンか……流石にお弁当にはちょっと厳しいかな」


「いや、由乃さんの作った料理なら、何だって食べたいですよ」


「くす、私、そんなに料理得意じゃないよ」


「それでもですよ。家で料理とかよくするんですか?」


「そうだね。ウチ、両親が共働きだし、奈々子と交代で料理や掃除したりしているよ」


 ああ、そういや奈々子もそんな事言っていたな。


 両親が仕事で不在がちで、お姉ちゃんと家事を分担しているって。


 偉いなって思っていたけど、二人とも結構苦労はしているのかな。


(って、また奈々子かよ)


 駄目だ……由乃さんと話していると、どうしても彼女の妹の奈々子の事も話題になってしまう。


 あいつと付き合っていたことを忘れるとか無理。



 だって元カノの姉だしな……顔も似ているし、嫌でも奈々子とダブってしまう所がある。


 もう少しその辺の事を考えるべきだったかもしれないが、いつになったら、このモヤモヤを払拭できるのやら。


「ふふ、いただきます」


 シートを敷いて、買ってきたおにぎりや唐揚げなんかを二人で食べる。


 デートとしてはちょっと味気ないお昼になってしまったが、まあ雰囲気は悪くないだろう。




「ごちそうさま。美味しかったね」


「はい」


 二人で話しながら、お昼を食べ終わり、しばらく芝生でのんびり過ごす。


 あー、眠くなってきたな……どうせなら、由乃さんの膝枕にでも……いや、初デートでそれは図々しいかな。


「ねえ、もしかして眠くなっている?」


「え? あ、はい……こんな陽気ですし」


「そっか。じゃあ、はい。私の膝枕でよければ、どうぞ」


「え? い、いいんですか?」




 由乃さんの膝枕で昼寝したいと思っていたら、俺の心を読んだのか、由乃さんが正座して俺に自身の膝を差し出す。


 スカートに覆われているとは言え、由乃さんの膝枕なんて……。


「いや?」


「喜んでっ!」


「あ、もう……くす、甘えん坊さんだなあ♡」


 こんな好機を逃すはずはなく、由乃さんの膝に頭を寝かせると、彼女も母親のような優しい眼差しで俺の頭を撫でていく。


 膝枕なんて、奈々子にしてもらったこともなかったな……ああ、めっちゃ幸せ。


「ふふ、このまま寝てもいいよ」


「いえ、流石に……」


 そう言ってくれたが、もう少し由乃さんの柔らかい膝枕を堪能したい。


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