第5話 元カノのお姉さんの事をもっと知りたくて

「ありがとう。ここで良いよ」


「あ、はい。今日はその……わざわざ来てくださって、スミマセン」


「んもう、私の方がいきなり押しかけたのに。でも、来て良かった。いい返事貰えて」


 由乃さんの自宅近くまで来たので、繋いでいた手を離し、二人で改めて、恋人同士になった余韻を噛み締める。




 ああ、何だろうなあ……奈々子にフラれて天国から地獄に落とされた気分だったけど、また天国に戻った感じだ。


「えっと、私達が付き合い始めたこと、奈々子に言っても良いのかな?」


「え? ああ、うーん……しばらく内緒にしときましょうか」


「だよね。うん、私もちょっと恥ずかしいし、妹の元カレってのもちょっと罪悪感あるっていうか……」


 もう別れてしまったのだから、俺が誰と付き合おうが、奈々子に文句を言われる筋合いはないのだが、由乃さんと奈々子は姉妹なんだから、二人の仲が拗れたりしないか心配になる。


「まあ、何とかなるよね。奈々子にはしばらく内緒にしておくね。それじゃ」


「あ、はい。さようなら」


 あまり長話していると家族にバレそうなので、この辺で由乃さんとはお別れにする。


 大学生の由乃さんと上手く付き合っていけるか、不安ではあるが……今は、新しい彼女が出来た喜びに浸っておこう。



 翌日――


「ちっ、かつサンドは売り切れか」


 昼休みに購買に行き、お目当てのパンが手に入らなかったので、不貞腐れながら廊下を歩いていく。


 昨日は本当に幸せいっぱいだったのだが、そう人生上手く行きはしないか。


「あ……」


 階段を登ろうとした所で、ちょうど向かい側から来た奈々子とバッタリ遭遇してしまった。




「よう」


「うん、こんにちは。今、お昼?」


「ああ。奈々子も?」


「今日は友達と一緒に学食で食べる約束してたんだ」


 ふーん。


 まあ、奈々子が誰と昼を食おうがどうでも良い話だが、奈々子は俺と由乃さんが付き合っていることは知っているんだろうか?




 一応、由乃さんには当分、奈々子には言わないでくれとはいっておいたが、言われてなくても気付いているかもしれない。


「今日は彼氏と食わないんだ」


「今の彼、サッカー部なんだけど、今日は試合があって休みなんだって。てか、よく知ってるね」


 そりゃ、この前、手を繋いでいる所を見たからな。


 くそ、本当に新しい彼氏を作っていやがるのか……改めて、この現実を突きつけられると、ちょっとムカついてきた。


(落ち着けって。今の俺は由乃さんの彼氏だろ)


 ハッキリ言って、奈々子より由乃さんの方が美人だし、性格も優しくてずっといい。


 お姉さんだからってのもあるんだろうが、あらゆる面で奈々子の上位互換と言っても過言ではないだろう。


「それじゃ、これで」


「あ、あのさ。実は俺も新しい彼女出来たんだ」


「えっ?」


 俺の前から立ち去ろうとしていた奈々子にさり気なく、そう伝えると、流石に奈々子もビックリしたようで、声を張り上げる。


「へ、へえ……よかったね。おめでとう」


「まあね。これで、お互い後腐れなしだよな」


「うん……一応、聞いても良いかな? 誰と付き合っているの?」


「お前より美人で優しい子だよ」


「む……そうなんだ」


 嫌味を込めた口調でそう言ってやると、カチンと来たのか、表情をひきつらせてそう言う。


 ショックというか驚いただろうな。


 この様子だと、由乃さんと付き合っていることは知らないみたいだが、どのみち、いつかは知る事になるのだ。


 将来的には、奈々子が俺の義理の妹に……いや、気が早すぎるか。



「お前には伝えておこうと思ってさ。それじゃな」


「バイバイ」


 と告げて、元カノの前から去り、教室へとゆっくり戻っていく。


 ふふん、少しはショックを受けたのなら、俺の復讐はもう果たされたと言っていい。


 元カレが大好きな姉と付き合っているなんて知ったら、どんな顔をするやら……俺も性格が悪くなってきたな。


 でも、そうさせたのは奈々子なので、俺をフった報いだと思って欲しいね。



 そして、日曜日になり――


「むう、早く来すぎちゃったかな?」


 いよいよ、新しい彼女である由乃さんとの初デートだ。


 もう楽しみ過ぎて、昨夜は全く眠れなかったし、由乃さんに会うのを待ちきれなくて、三十分も早く来てしまった。


 奈々子と付き合っていた時も、こんな事はなかったよな……なんせ、相手は女子大生のお姉さんだから、余計に浮かれてしまう。



「あ、もう来てたんだ」


「由乃さん。早いですね」


「それはこっちのセリフだよ~~……」


 何て考えていると、由乃さんも俺の元にやってきて、緊張した面持ちで声をかけてきた。


 春物の白のワンピースに長めのスカートがよく似合っており、こういう大人っぽくて落ち着いた雰囲気も由乃さんの魅力だよなあ。


「ど、どうかな? おかしくない?」


「いえ、バッチリ似合っていますよ」


「もう……どんな服を着て行けば良いかわからなくてね。友達にさり気なく相談したんだけど……」


 由乃さんだったら、どんな服でも文句など言わないけど、やっぱり清楚な雰囲気の服が似合うな。


 奈々子は割と活発な印象の子だったから、結構、ミニのスカートなんかも履いていたけど、由乃さんはあんまり露出の多い服装は……似合うだろうけど、イメージとはちょっと違うかも。




「くす、よかった。それじゃ、行こうか」


「はい」


 由乃さんは俺の腕をがっしりと組み、正式に付き合い始めてからの初めてのデートが始まる。


 こういう所も結構大胆だなあ……思い出せば、奈々子も割と腕を組んだり、手を繋いだりは積極的にやっていたので、こういう所は姉妹なのかもしれない。


 奈々子のお姉さん……やっぱり、姉妹なら似る所もあるんだよな。


 あいつの事はとっくに吹っ切れているし、奈々子と重ね合わせても、今更未練も何もありはしない。




「こういう所も落ち着くね」


「ですね。由乃さんとゆっくり過ごしたいと思いまして」


 電車に乗り、二人でちょっと広めの自然公園を歩いていく。


「ふふ、こういう所、好きだよ」


「喜んでくれて嬉しいです。今日は由乃さんの事、もっと知りたいなって思ったんです。その……まだ、あんまり由乃さんの事、知らないので……」


「くす、だよね。あ、そこのベンチに座ろう。二人でゆっくり話そうか」


「はい」


 付き合い始めてからこういう事をするのはどうかと思うが、俺はもっと新しい彼女である由乃さんの事を知りたいので、空いていたベンチに座り、二人でゆっくり話し込むことにした。


 ああ、こういうのも楽しいなあ……由乃さん、優しくて包容力あるから、二人でいるだけで気分が落ち着け、いつまでも一緒に居たい気分になっていったのであった。

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