第3話 いっそ付き合っちゃおうか
「次はここに行こうか」
「あ、はい」
お昼を食べた後、由乃さんと一緒に繁華街にある店をあちこち回る。
由乃さんに、リードされっぱなしではあったが、お姉さんにこうやって引っ張られるのも悪くはないな。
「あ、このガチャガチャにあるアクセサリー可愛いー♪ ちょっと回してみよう」
そしてふと目に止まったガチャガチャの景品に飛びつき、由乃さんは目を輝かせながら、硬貨を入れてガチャガチャを回していく。
見た感じ、大人っぽくて落ち着いた雰囲気のある由乃さんだったが、こうしてはしゃいでる姿もやっぱり可愛らしい。
「見てみて。このイルカさん可愛いでしょう」
「はは、そうですね。由乃さん、こういうの好きなんですね」
「うん。奈々子と一緒によくやるんだ」
「そ、そうですか」
イルカのキーホルダーを見せながら、奈々子の名前を口に出され、一瞬、ズキっと胸が痛む。
ああ、この姉妹って仲は良いんだな。
由乃さん良い人そうだし、奈々子も由乃さんの事を悪く言う事はなかったと思う。
うーん、本人的には悪気はなかったんだろうけど、由乃さんと奈々子はどうしてもダブって見えてしまう事があるのが少し辛い。
「陸翔君にも何か買ってあげるね」
「い、いいですよ。自分で出しますから」
「遠慮しなくても良いのに」
「しますよ。奈々子の事なら、もう気にしないでください。それより、今日は由乃さんと楽しみたいです」
「そう。えへへ、ちょっとは元気出たなら嬉しいな」
あんまり出させてしまうのも悪いので、自腹でガチャを引き、由乃さんと同じイルカのキーホルダーをゲットする。
由乃さんとおそろいか……悪くはないかもな。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「うん。だったら誘った甲斐があったよ」
夕方になり、電車に乗って最寄り駅に到着し、楽しいデートの一時も終わりになる。
ああ、めっちゃ楽しかったなあ……奈々子とのデートよりも楽しかったかもしれない。
元カノのお姉さんという関係は複雑だけど、それでも由乃さんと
「あの……今度は俺から誘っても……」
「え? うん、いいよ。また遊ぼうね」
「は、はい」
また二人でデートしたいと言うと、由乃さんは満面の笑みで頷く。
ああ、今度は俺の方がしっかりリードできるようにしないとな。
翌日――
「あ……」
学校に行き、教室に向かう途中で、奈々子とバッタリ出会う。
「おはよう」
「ああ、おはよう……」
流石に奈々子もバツが悪そうな笑顔を見せて、少し小さな声で挨拶を交わす。
昨日は由乃さんとのデートを思いっきり満喫したが、学校に来た途端、現実に引き戻されてしまった。
はあ……やっぱり、同じ学校でしかも同級生ってだけでも辛いな。
こうやって顔を合わせる機会がどうしても出来てしまう。
「あの、昨日は……」
「お姉ちゃんとデートしたんでしょ。よかったじゃない。お姉ちゃん、凄く楽しかったって喜んでいたよ」
「あ……知ってたんだ」
「うん。昨日、聞いた」
奈々子に由乃さんとデートした事を話そうかどうしようか悩んでいたが、既に由乃さんから聞いていたのか。
まあ、姉妹の仲は良いって事なんだろうか。
「それじゃ、私、今日は日直だから」
「ああ。またな」
あまり長話するのも気まずいと思ったのか、奈々子はそそくさと俺の元から去っていった。
ほんの何日か前までは、奈々子と会うのも楽しみにしていたのになあ……今は顔を合わせたくないし、やっぱりモヤモヤした気分がしちゃう。
何が他に好きな男が出来ただよ、くそ……改めて思い出すと、ムカムカしてしまい、未練が断ち切れずにいたのであった。
放課後――
「お前、大倉と帰らないの?」
「いや、あいつとはもう……」
「え? フラれたってマジかよ」
クラスの男友達と一緒に帰ろうと誘い、そこで奈々子と別れたことを告げる。
奈々子と付き合い始めてから、男友達との付き合いが少し疎遠になってしまったが、別れたことで、また友達付き合いも復活し、奈々子と付き合う前の状況に戻っていった。
ああ、何か懐かしい感じはするな……もともと、彼女なんか欲しいとは思ってなかったけど、やっぱり初めて出来た時は世界が変わった気がして、色々と浮かれていた。
そうだよ、奈々子にフラれたからって、別に死ぬわけじゃない……しかし、どうしてもモヤモヤしてしまい、元カノの事が未だに吹っ切れずにいたのであった。
「ん……あ、由乃さんからだ。はい」
『こんばんは、陸翔君」
「ど、どうも。どうしたんですか、こんな夜中に?」
夜になり、自室でテレビを観ていた最中、由乃さんから電話がかかってきたので、ビックリしてしまった。
『夜分遅くにゴメンね。今、バイトが終わった所なの』
「そうなんですか。えっと、何か……?」
『うん。元気しているかなって。今日、奈々子とは……』
「ああ、別に大丈夫ですよ。ちょっと顔を合わせて挨拶しましたけど、喧嘩とかはしてないですから」
『よかった……この前、家に来た時、陸翔君、物凄く殺気立っていたから、心配になって」
ああ、あの時は奈々子を刺す勢いで憎悪に燃えていたからな。
あんなのを見られたら、姉としては心配になるだろう。
(由乃さんに心配をかけない為にも、奈々子の事は吹っ切れないと)
未練がましい態度を見せてはいけないと思い、
「もう平気ですって。昨日、由乃さんとのデートが楽しすぎて、すっかり吹っ切れました」
『本当? だったら、よかった』
そうだよ、由乃さんは悪くないのだから、彼女に余計な心労はかかせたくはない。
悪いのは奈々子……いや、男の方が悪いのかな。
どっちもどっちかもしれないが、由乃さんは無実だ。
「また、その……由乃さんとデートしたいなって……」
『本当? じゃあ、今度の休み、また一緒に食事にでも行かない?』
「え? い、良いんですか?」
『うん。私も陸翔君と一緒で楽しかったし。あなたが良ければだけど……』
「行きますっ!」
また、由乃さんからお誘いをされてしまい、喜んで受ける事にする。
おお、今度は俺から誘うつもりだったが、まあよしとしよう。
『そっか。でも、本当にいいの、私なんかで?』
「何でですか? 由乃さんだから良いんですよ。誘ってくれて嬉しいです。もういつでも誘ってください」
『そ、そう……えへへ、嬉しいけど、何か付き合っているみたいな言い方だね』
あ……ちょっと調子に乗り過ぎたかな。
まあ、嬉しいのは事実だし、向こうも不快に思ってないならいいか。
「すみません、調子に乗っちゃいましたね。由乃さんこそ、俺みたいなガキで良いんですか?」
『良いんだよ。陸翔君と一緒にいるの楽しいし。もう、奈々子も見る目がないよね。あ、ごめん。あの子の名前は……』
「平気ですって」
由乃さんと奈々子は姉妹なのだから、どうしても名前がお互い出てしまうのは仕方ない。
そういう物だと思いながら、由乃さんとはお付き合い……出来るといいなあ。
『そっか。ありがとう、気を遣ってくれて』
「いえ。はは、由乃さんとのデート楽しみです。もう、いっそ……」
『もう。何?』
「はは、何でもないです」
付き合っちゃいましょうかと言いそうになったが、流石に口を噤む。
『もう、気になるじゃない』
「い、いえ……何か、もう由乃さんと付き合っているみたいですねって言おうとしちゃって。すみません」
『え? あはは、そう……』
言いかけたことが気になるようなので、正直に告げると、罰が悪そうな感じで答える。
由乃さんが優しいので調子に乗ってしまったが、これからは気を付けないと。
『じゃあさ……いっそ、私達、本当に付き合ってみない?』
「…………はい?」
由乃さんの口から出て来た言葉を耳にして、頭が真っ白になる。
彼女が何を言ったのか、しばらく理解出来ず、ただ黙り込むしかなかった。
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