第2話 元カノのお姉さんと初デート
「え、えーっと……由乃さんとデートですか?」
「うん。それで奈々子のこと、大目に見てくれないかなーって……姉の私も、ちょっと責任感じちゃったし。駄目?」
いや、だから由乃さんには全く責任はないんだって。
悪いのは奈々子なので、由乃さんに責任を感じられると、俺の方も困ってしまう。
「私とデートするの嫌かな?」
「嫌ではないですけど……良いんですか? 由乃さんはその……」
付き合っている男とか居ないんだろうか? こんな美人なら、きっといると思うんだが……。
「ん? 別に私は大丈夫だよ。付き合っている彼氏もいないしさー」
「いないんですか?」
「うん。悪い? 私、文学部だしさ。女子ばかりなんだよね、周りの学生」
ほ、ほう……由乃さんは彼氏なし、フリーな訳か。
こんな美人なのに信じられん……奈々子よりも絶対にモテそうなのにな。
「あー、やっぱり私なんかじゃ嫌だよね。今の忘れて」
「そんな事ないですっ! お、俺で良かったら……」
「本当? じゃあ、日曜日に一緒に行こうね」
折角のお誘いが流れそうになったので、慌ててデートの誘いを受ける。
いやあ……これは予想外の展開だ。
まさか、奈々子のお姉さんとデートする事になるとは思わず、夢でも見ているんじゃないかと、しばらく信じられない気持ちでいっぱいであった。
そして日曜になり――
「あ、来た来た。おーい」
「すみません。待たせちゃいましたか?」
待ち合わせ場所である駅前のロータリーに向かうと、既に由乃さんは到着しており、急いで彼女の元に駆け寄る。
「ううん、私の方が早く来すぎちゃった」
「あはは、俺の方ももっと早く来るべきでしたね」
約束の時間、十分前だったので、遅刻ではないのだけど、由乃さんを待たせてしまったのは少しまずかったか。
(それにしても、由乃さん綺麗だなあ……)
彼女の私服姿を見て、やっぱり奈々子とは違って、大人っぽいなって思ってしまう。
ベレー帽を被り、白のブラウスに長いスカート、カーディガンを羽織り、とても清楚で大人な雰囲気を全身から醸し出していた。
奈々子は明るくて活発な感じだったけど、由乃さんはお姉さんだけあるのか、落ち着いた感じがするなあ。
俺もこんなお姉さんが欲しかった……なんて、言ってもしょうがないか。
もし、奈々子と結婚まで行っていたら、由乃さんが義理のお姉さんに……いや、そんな妄想は止めておこう。惨めになるだけだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい。えっと、何処に行くんですか?」
「水族館に行こうと思って。割とデートの定番だと思うんだけど……経験ないから、わからなくて。ごめんね」
「ん? 経験がないって……」
「うん。男の子とデートするの初めてなんだ」
な、何だって?
彼氏がいないってだけでも、ビックリだったが、今まで交際していた男子もいないって事?
妹の奈々子は、何人もの男と付き合っていたというのにお姉さんはこんなに美人なのに、身持ちが固かったと言うのか……。
「だから、陸翔君の方が経験あるかなって思うんだけど、やっぱり私の方がお姉さんな訳だし、今日は奈々子が迷惑かけたお詫びも兼ねているからね。私がしっかりしないとって思って」
「い、いえ……俺だって、交際経験は奈々子だけですし……」
しかも付き合っていたのは数か月だけで、デートしたのも、両手で数えきれる程度しかなかったと思う。
奈々子は明るい性格ではあったから、彼女にリードされっぱなしだったけど、それがもしかしたらよくなかったのかもしれない。
「ほら、行くよ」
「は、はい」
何て考えている内に、由乃さんに手を引っ張られ、駅へと向かい電車に乗り込む。
ああ、由乃さんの手、スベスベしていて良いなあ……手入れが行き届いているのが繊細で、いかにも女性らしい感じだ。
「うわあ、綺麗だねえ……」
電車に三十分ほど乗った所で、目的の水族館に到着し、由乃さんと共に色鮮やかな水槽を見学していく。
「すみません、入場料まで払ってもらって」
「いいの。私の方から誘ったんだし、お姉さんなんだから」
と、胸を張って言う由乃さんもとっても可愛らしい。
顔は奈々子に似ているけど、性格は……何か違う感じするな。
ああ……彼女が奈々子じゃなくて由乃さんだったならな……でも、フラれた時のショックを想像すると、奈々子なんかよりも遥かにショックかもしれない。
こんな良い人なのになあ。
「ねえ、奈々子とはどんな所に行っていたの?」
「え? ああ、映画とか遊園地とか……あとは、その辺のショッピングモールをブラブラとかですかね」
「そうなんだ。高校生が喜びそうな所ってよくわからなくて……遊園地は子供っぽい感じするかなって思って、水族館が無難かなって思って。嫌だった?」
「とんでもない! ありがとうございます」
「くす、喜んでくれたならよかった。ほら、あっち行こう。クラゲの大群が凄くキレイなの」
「あ、はい」
由乃さんと共に、その後も水族館を一通り見て回り、彼女との楽しいデートの一時は続く。
ああ、本当に楽しいな……奈々子とデートしていた時よりもずっと楽しいかも。
由乃さん、めっちゃ良い人だし、優しいし、こんな女性が彼女だったらなんて、何度も思ってしまう俺はしょうがない男かもしれない。
フラれたばかりなのに、他の女子の……しかも、元カノの姉に対して、そんな事を思っちゃうなんてな。
「うーん、楽しかったね」
「ええ。あの、お昼は……」
水族館を出た後、近くにあるカフェでお昼を摂る事にしたが、何か高そうな店なので、ちょっと場違い感を覚えてしまう。
「私の奢りだよ。妹が迷惑をかけたお詫び何だし。それに、お金なら大丈夫。私、こう見えても塾講師のバイトもしているし」
「す、すみません。塾の先生しているんですか」
「うん。大学の近くの子供向けの塾のね。あはは、私、あんまり教えるの上手くはないんだけど、それでもなんか楽しくてね」
塾の先生をしているのか……そういえば、奈々子もウチのお姉ちゃんは私より頭良いみたいな事は言っていたな。
「陸翔君、他に何処か行きたい場所はある?」
「え……あはは、どうしましょう……ちょっと思いつかないですかね」
「遠慮しなくても良いのになあ」
「そんな……すみません、気を遣っていただいて」
注文したウーロン茶を飲みながら、向かい側に笑顔で座っている由乃さんをチラっと眺める。
やっぱり綺麗な人だな……奈々子も俺には不釣り合いなくらい可愛かったが、由乃さんはそれ以上だ。
しかも、俺よりも三つ上で、頭もずっと良いみたいだし……駄目だ、どう考えても月とスッポンじゃん。
あまり、変な気を持たない方が良いとは言っても、どうしても甘えてしまいそうになる。
「陸翔君、別に奈々子のこと、許してくれって言うつもりはないよ。でも、あの子もその……別にあなたの事、嫌いになった訳じゃないと思うから、ヨリを戻したいっていうなら、私も協力を……」
「そんな事、もう考えてませんよ」
「本当?」
「はい。でも、その代わり、その……」
「ん?」
正直、奈々子にフラレた事なんかは今はどうでも良くなってきた。
そんな事より、俺は……。
「ま、また由乃さんと二人で遊びに行きたいなって……駄目ですか?」
「え?」
と思い切っていうと、由乃さんも呆気に取られた表情をして、しばらく固まる。
いかん……図々しすぎたかも。
でも、由乃さんとの関係を今回限りでは終わらせたくはないのだ。
「えへへ……うん、いいよ。また二人でデートしようっか♪」
「は……はい!」
断れるかと思ってドキドキしたが、由乃さんはあっさりと快諾してくれ、俺も彼女の眩しいばかりの笑顔を見て、胸が一気に躍る。
ああ……由乃さんとの距離が一気に縮んだ気分だ。
彼女が俺をどう思っているかはまだわからないが、嫌われてはいないのだろうと思うと、胸の高鳴りを抑える事が出来なくなっていったのであった。
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