第45話 認めない side.穂香
side.穂香
——ただ、呆然と座り込んでいた。
結菜が、私以外の子に手を引かれて去っていく。
その光景を、ただ見送ることしかできなかった。
何か言わなきゃ。呼び止めなきゃ。
でも、声が出ない。喉がひどく乾いて、何も言葉にならない。
頭が真っ白になっていた。
何が起こったのか理解できないまま、ただ、心臓の奥が痛い。
鼓動が早鐘のように鳴っているのに、体が動かない。
結菜が——私の大切な結菜が、別の誰かと一緒に去っていった。
私を置いて。
そんなはずない。
結菜は、私のことを愛してくれていたはずなのに。
ずっと、私のそばにいてくれるはずだったのに。
でも、今、結菜は——私の隣にはいない。
そんな現実が、じわじわと心を蝕んでいく。
ありえない。受け入れられない。
だけど、目の前で起こったことは紛れもない事実で。
何かが壊れそうだった。
いや——もう、壊れ始めているのかもしれない。
「……結菜……」
かすれた声が、空気に溶ける。
だけど、もう結菜には届かない。
足が震えて、一歩も動けない。
膝の力が抜けそうになるのを、どうにか堪える。
どうしよう。
私、どうすればいい?
このまま結菜がいなくなったら、私は——
目の前が暗くなっていく。
胸の奥が押しつぶされそうなほど痛くて、呼吸さえ苦しい。
まるで世界が終わってしまったみたいだった。
——違う。
こんなの、絶対に違う。
こんなふうに終わるなんて、ありえない。
私は、結菜と別れるなんて、一言も言ってない。
結菜も、そんなこと言わなかった。
なら、まだ終わりじゃない。
「っ……」
全身に力が入る。心臓が悲鳴を上げるように脈打つ。
気づけば、駆け出していた。
——結菜を探さなきゃ。
結菜は、どこかにいる。
まだ、手遅れじゃないはず。
「……っ、結菜……!」
廊下を走る。
教室を覗く。
校庭を見渡す。
でも——どこにもいない。
「結菜……どこ……?」
焦燥感が全身を駆け巡る。
探しても、探しても、結菜の姿が見つからない。
息が乱れる。視界が滲む。
どうしよう。どうすればいい?
頭が混乱して、何も考えられない。
もしこのまま結菜が戻ってこなかったら?
もしもう二度と会えなかったら?
そんなことはありえないと分かっているのに考えてしまう。
そしてそんな考えが脳裏をよぎるたび、胸が押しつぶされそうになる。
違う、そんなの絶対に嫌だ。
結菜は私のすべてなのに。
「……お願い……どこにいるの……?」
涙がこぼれそうになるのを、必死に堪える。
絶対に見つけ出す。
何があっても、結菜を取り戻す。
それだけを考えて、私はまた走り出した——。
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