第16話 沈む心 side.穂香

 side.穂香


 結菜と距離を置いてから初めての休日。

 私は、一人家のベッドで横になっていた。

 休日はいつも結菜と一緒にいたから、こうして一人でいるのは久しぶりだ。


「……はぁ」


 ゆっくりと寝返りを打って、そっとため息をつく。


(……結菜)


 頭の中に浮かぶのは、結菜のことばかり。


 ただ寂しいだけなら、まだよかったのかもしれない。

 でも、私の中にあるのは、それとは違う、もっと落ち着かない感情だった。


 原因は分かっている。

 あの日、カフェで見た光景が、ずっと頭から離れない。


 結菜と、知らない女の子が並んで座り、何かを話していた。

 その子のことも、会話の内容も分からない。

 けれど、結菜が他の誰かと一緒にいる、その事実だけが胸の奥に引っかかっている。


(誰……だったんだろう)


 気になって仕方がないのに、聞くこともできない。

 結菜と距離を置くきっかけを作ったのは私なのに、こんなふうにモヤモヤするなんて、勝手だと思う。


 それでも、どうしようもなくて──気がつけば、スマホを手に取っていた。


(……別に、何か聞きたいわけじゃない。ただ、ちょっと連絡するだけ)


 言い訳をしながら、トーク画面を開く。


『結菜、元気?』


 送信ボタンを押した瞬間、鼓動が少しだけ速くなる。

 すぐに既読がつくかもしれないし、つかないかもしれない。


 そう思いながら、しばらくスマホの画面を見つめていたけれど──既読はつかない。


「……電話してみようかな」


 声に出してみると、少しだけ気が楽になった気がした。

 別に、ただの確認。元気でいるかどうか、それだけ。


 コール音が響く。


 ……けれど、何度鳴らしても、結菜が出ることはなかった。


(……どうして?)


 違和感が胸の奥に広がる。


 今まで、こんなふうに結菜から無視されたことなんてなかった。

 忙しくても、あとで必ず返信をくれたし、折り返しの電話もくれた。


 それなのに、今日は──


(……なんで出ないの?)


 コール音が途切れ、通話が切れた画面を見つめたまま、指先がじんわりと冷たくなる。


(もしかして、気づいてないだけ? それとも、忙しいのかな……)


 自分にそう言い聞かせようとする。

 でも、いつもなら、結菜はすぐに気づいて折り返してくれるはずだった。

 少なくとも、私からの電話を無視するようなことは、今まで一度もなかった。


(……どうして)


 じわじわと胸の奥が締めつけられる。


 結菜が電話に出ない。ただそれだけのことなのに、嫌な想像ばかりが浮かんでくる。


 もしかして、誰かと一緒にいるから?

 それとも、私からの電話を見て、それでも出なかった?


 スマホをぎゅっと握りしめる。


(……そんなこと、あるわけないよね)


 でも、こうして繋がらない現実がある。

 たったそれだけのことで、胸の中がどんどん黒く染まっていく。


 ──結菜は、今、どこで、何をしているんだろう。


 その答えを知らないことが、こんなにも不安になるなんて。

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