ノンケ✖ノンケ♥偽装ボーイズラブライフ

神楽耶 夏輝

第一章・崖っぷちライバー事務所

姫川朝陽①

「この二人……尊い……」


 黄昏時たそがれどきの自宅兼オフィス。

 ボサボサ髪を頭のてっぺんでゆるくお団子にしている姫川妃奈子ひなこは、デスクの前で、PC画面を食い入るように見つめていた。

 丸眼鏡をぐいっと持ち上げて、顔全体にブルーライトを浴びる。

 スクリーンには、ライバーたちが配信している様子が複数の小窓に並んでいる。

 皆、姫川が運営しているライバー事務所LUXルクスの配信者たちである。


 メイン画面には、二人の男性ライバー。

 左側には、はかなげな雰囲気を持つ中性的な黒髪の青年。右側には、少し強気な表情をした短髪の男。

 二枠が隣り合わせで並んでいるため、二人はまるで同じ空間で寄り添う恋人同士に見えなくもない。

 もちろん二人は、お互いの事を知る由もない。別々の部屋で各々ライブ配信しているだけである。

 ましてや事務所の社長にそんな目で見られているなど、これっぽっちも思っていないのだ。


「いやぁ……これは、完全にオメガの受けやね……この儚げな雰囲気、守ってあげたくなる系やん? でも、意外と男前な性格してるんよね……うん、ギャップ萌え良き」


 ノートにサラサラとペンを走らせる。


「で、こっちは典型的なアルファ……オレ様系、負けず嫌い、でもちょっと不器用なとこがまたエモい……いやこれ、つがいじゃない? 完全に運命のつがいでしょ!!!」


「なんですか? さっきからオメガとかアルファとかツガイとか」

 冷めた視線を向けるのは、唯一の正社員である水無瀬沙月みなせ さつき


 水無瀬は、肩までのストレートヘアをざっくりとひとつに結び、無駄のないシンプルな黒のジャケットに身を包んでいる。目元は涼しげで、仕事ができる雰囲気を漂わせる。姫川とは真逆のタイプの女性だった。


「この神聖なる文化を知らないとは罪深き者よ」


「は? はぁ……」


「いい? オメガバースっていうのは、一般的な男女の性別だけじゃなくて、アルファ・ベータ・オメガ という独自の性別カテゴリーがある世界観のことよ!!」


「……?」


「アルファは、リーダー気質でぇ、強くて支配的な性質を持つ最上位種 で、オメガは儚げでフェロモン的な魅力を持ってて、運命のつがいであるアルファと強く結びつく存在なのよ!(熱弁)」


「ファンタジーですか?」

「ファンタジー言うな!」

「まぁ、BL自体がファンタジーですけどね」

「ちがーう!」

「私、新宿二丁目に住んでたんでゲイカップルたくさん見てきましたけど、現実は」

「皆まで言うな!!」


「そういうの、腐女子ふじょしっていうんでしょ?」


 突如、部屋のすみから呑気のんきな声が響く。


 振り向けば、ソファに寝そべりながらスマホをいじる黒髪パーマの青年が、見下したような目でこちらを見ていた。

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