第21話 ナナシさんの怪(8)
「これで一件落着!三人が仲直りして良かった、良かった。これでナナシさんはいなくなるのかな?」
帰っていく三人の後ろ姿を見送りながら落合が呟く。お昼休みが終わりかけた中庭は私達以外に人はいない。おしゃべりしながらグループになって教室に戻っていく生徒達が見える。
「それは……分からない」
「え~?なんでよ!心霊現象を解明してめでたしめでたしじゃないの?」
落合が不満そうに唇を突き立てる。そんな顔されても困る。私のせいじゃないし。
「だってナナシさんは、『仲間外れ』にされたことのある子達の念の集まりだから」
ナナシさんの正体は学校で仲間外れにされた子達の念の集合体なのではないかというのが私の考察である。もしかするとあの顔の中に棚上さんが、新谷さんが……私がいたのかもしれない。
いつの時代も学校には仲間外れという現象が起こる。学校に限らず人間社会であれば必ず起こる現象だ。何百年と時が過ぎても「ナナシさん」の噂が耐えないわけだ。
「今回そのナナシさんに力を与えたのは加河さんの生き霊だったわけだけど……ナナシさんが完全にいなくなることはないと思う。仲間外れが起こる限りね」
騒がしい生徒達の声を遠くに聞きながら思う。一体この学校の中でどれだけ『仲間外れ』という現象が起こっているのだろうか。今聞こえてくる笑い声は他者を嘲る笑いではないだろうかと疑ってしまう。
「嫌だね。仲間外れ。皆と仲良くできたらいいのに」
落合の呑気な感想に私は肩をすくめる。
「無理だろうね。色んな人間がいるから」
「私もだけど文香も辛い思いをしたんだよね。本当に……仲間外れにして喜んでる子をナナシさんが脅かしにいけばいいのに!」
「……どこかで報いは受けてるかもね……。私のこと仲間外れにしてきた子、行方不明になって学校来なくなっちゃったから」
落合が口を開けて驚いた表情を浮かべる。いけない。つい話過ぎてしまった。私はそれとなく話題を変える。
「ひとりが好きなぼっちの私には関係のないことだけど」
「文香はぼっちじゃないよ」
落合のはっきりとした、中性的な声が私の耳に届く。
「文香は私の友達だよ」
昼休憩が終わるチャイムの音が響いた。
中庭でふたりきり。真剣な落合の様子はまるで告白を受けているようだった。ドラマのワンシーンに巻き込まれたような気持ちになる。
私は落合に背を向けていつものように冷たく言い放つ。
「落合さんの友達になったつもりなんてないけど」
「……もしかして、照れてる?」
落合が背後から迫ってきている気配と足音がして、私の足が速まる。
「ね?照れてるんだよね?ね?」
私はそのまま落合と絶妙な距離感を保ちながら教室へ走った。
「今度三人でスイーツの食べ放題行こうよ!」
「いいね~」
加河悠乃と新谷英麻がスマホを見ながら談笑する。その様子を棚上芽衣が微笑ましそうに眺めていた。
「この前食べたケーキが美味しくて……」
芽衣が自分のスマホを操作し始めた時だった。
「ん?」
悠乃と英麻が心配そうに芽衣の方に視線を移す。
「どうかしたの?」
「この写真さあ……誰が撮ったんだっけ?」
それは三人が映った写真だった。全員ダブルピースをしているため誰もスマホを手にしていない。インカメにして撮影したものではないことが分かる。撮影している角度を見ても壁に立てかけたりしていないし、そんな風にして撮影した記憶もない。
「思い出せない……」
「いつの間に撮ったっけ?こんな写真」
「う~ん。分かんない」
「みんないっしょ」
三人は芽衣のスマホから顔を上げ、顔を見合わせる。
確かにもうひとり誰かがここにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます